楽しいコンビニバイト 2
「でもまだ研修中だし? 失敗して当然よ!」
高橋さんが仕事の失敗を開き直っている感じだ。
「まあ……それでも限度ってものがあるけどね」
馬山さんが『限度』という言葉を強調して冷たい視線を彼女に向けていた。
もちろんこの店の先輩=馬山さんの評価で仕事をクビにさせられることもあり得る。その重圧に負けたのか、高橋さんがうるんだ瞳で謝っていた。
「昨日は……本当にすいませんでした……」
(どんだけミスしたの)
そして本格的に仕事の内容を教わることになった私、馬山さんにレジのやり方をレクチャーしてもらう。
「商品のバーコードにこの機械を通したら……袋詰めしてお会計をいただきます」
バーコードが読み取れなかったり、割引商品があったらその都度その時に教えてもらえると私は馬山さんに教わる。
「基本はこんな感じだよ。何か質問はある?」
私はせっかくなので素朴な疑問を尋ねる。
「あ……えと……そのバーコードを通す機械の名前って何ですか?」
「え!?」
予想外の質問だったのか、馬山さんが「ど忘れした」とつぶやいていた。
商品お会計のお客様以外たまたま他の客がいなかったので馬山さんが物思いにふける。
(だがそう聞かれてみると……知らないものがたくさんある!! 商品を掛けるアレ、床を磨くアレ)
馬山さんはまだ思い悩んでいる感じだった。
(こんなにも無知な僕が人にものを教えるなんて……なんて愚かなことを!!)
そうかと思えば今度は考えで涙を流す感じになっている。感情が豊かな先輩だな。
「あ……あのすみません……」
どうもぐずってしまっているみたいなので私は謝っておく。
「なーかした、なーかした!!」
「高橋さんは黙ってて!」
彼女が騒いだらややこしくなりそうだったのでちょっと強めに静かにしてもらえるように頼んだ。
「指導役だなんて僕では不適格だね……」
一時的に自信を喪失してしまった先輩が普通ならあり得ない無茶振りをする。
「ということで……高橋さんが猫好君の指導をしてくれるかい?」
まさかの展開に彼女は驚くだけで精一杯だった。
「えぇ!?」
たった一日前に覚えた仕事量では心もとなさすぎて焦りながら高橋さんがテンパっている。
「そっそそ、そんな先輩!!いくらなんでも無……」
馬山先輩はウツ気分になってしまったのか落ち込んでしまって高橋さんの声が聞こえている感じはなかった。
「一人教えるのにも精一杯なのに……二人もだなんて荷が重すぎたんだ…」
(聞いてくれない……)
どうしようもない状態な馬山先輩を見て、高橋さんが決意をする。
(仕方ないわ! 馬山先輩が回復するまで私が)
先輩と高橋さんがいない間、レジにて接客準備をしていると高橋さんが近くで大声を出すので私はびくっとした。
「ちょっと猫好!!」
「な……何?」
その彼女が仕事の提案をする。
「アタシがレジをするから袋詰め手伝いなさいよ」
「あ、うん」
高橋さんの剣幕に押されて私はレジの端によける。
「早速だけどお客さんだよ、高橋さん」
(まだ心の準備が!)
彼女の表情がそう物語っていた。ガムを買いに来たお客さんが不思議がるのも無理はない。
「えっと……じゃあお願いします」
お客さんが商品をレジのところにある台の上に置いた。
「い……いらっしゃいませ……!」
彼女は混乱して(どどど……どうしよ~!)という状態になっている感じに見える。
「あ……温めはどうなさいますか!?」
高橋さんは自分が何をしているのかわかっていないかもしれなかった。
「高橋さん、それガム!!」
彼女はどこかやけくそ気味になっているかも。
「おおお、お箸はご利用なさいますか!?』
「だからガムだって!!」
一日だけ先輩の、彼女のあまりの混乱っぷりに私は商品のことを指摘しているのだが。
「あっ、じゃあください」
(もらっちゃったよ、このお客さん)
使い道はお客さんの住居に行けばあるのだろうけど、その商品でもらうとは思わなかったので私は驚いた。