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ゆるいの

ゆるいふたり

作者:

 幼なじみの千紗は、ベットの上でだらしなく足を投げ出して座っている。

 本棚にあった漫画を手に取り、さっきまでの不機嫌はどこへやら、時おりおかしそうに声をあげてげらげらと笑っている。

 でも、その度に足をばたつかせるのはやめて欲しい。

 俺はベッドに平行に並ぶ座いすに座り、テレビゲームをやっている。そうなると、俺の目線には短いスカートとそこから出た足がある。足を動かすとその度に奥が見えてしまい、気になってしまう。まあいつものことではあるのだけど。

 だけど俺はそれを気にしている場合ではない。俺はゲームが忙しいのだ。

 今やってるゲームを昨日買ってからずっとやっていて、ほとんど寝ていない。

 そんな、緊張感(ただのゲーム疲れとも言う)の只中、気を抜いてトチったら目も当てられない。

 そうなったら膝に矢を受けてしまってなと言い、引退するより他にはないじゃないか。

 そんなことを考えていたら、ベットの軋む音がする。

 横目で確認すると、千紗は漫画を読み終わったらしく、四つん這いになって本棚へと手を伸ばしていた。

 俺に尻を向けるような体勢になると、さっきは布地が見え隠れだったパンツが今はもう丸見えだった。黒とか相変わらず派手な色だった。というかもう隠す気ないなこいつは。

「ねぇ悠」

「なんだよ」

 俺はエロスに反応しているという醜態の残滓を欠片も見せず、ゲームから目を逸らさず平静に答える。

「続きは?」

 顔を動かし確認すると、千紗が手に持った漫画本をひらひらさせていた。

 千紗が読んでいた漫画は、ストーリー系のギャグマンガというのだろうか。一話完結というものではなく物語が進んでいきその中にギャグが散りばめられているというものだ。

 簡潔にいえば。笑えて泣けて心躍る、そういう内容だ。

「無いな。それが一番新しいやつだ」

 で、今千紗が読んでいたのが最新刊。ちなみに新展開への前フリが終わり、さあいよいよというところで終わっている。大いに盛り上がっており俺も続きが待ち遠しい。

「まぢ?」

「そんな小さい嘘ついてどうすんだよ。っていうか本棚にならんでない時点でわかれよ」

「や、もしかしたらあんたが隠してるのかとか淡い期待をしたわけよ。でも無いかー。

 あーあ、いいとこだったのに」

 千紗がベッドに倒れこむ。スプリングの軋むぎしぎしという音と、布団に千紗が沈むぽすっという音が聞こえた

「散々つまんなそうとかいって俺のこと叩きまくってたくせに、読んだらそれかい」

「面白かったんだから仕方ないでしょ。食わず嫌いじゃなくて読まず嫌い? だいたいあんたが相手してくんないのが悪いじゃん」

 バタバタ。ベッドの上で手足をじたばたさせている。子供か?

「お前が暇だって勝手に来たんだろ。俺、言ったよな? ゲームを買うから相手はしねえぞって。今の俺にはこれが一番大事だ」

 千紗と応対しながらもコントローラーから手は離さない。

「むぅ、幼なじみがいが無いやつめ」

 ちょうど俺の頭の隣にあった千紗の手が、俺の頭をぺしぺし叩く。もちろん本気で叩いているわけではなく痛くはない。でもうざい。



 大学を無事に卒業した俺、ならびに千紗は最後の春休みを満喫していた。旅行に出かけたり、入社の準備やら何やらしたり、あとはだらだら。

 そうして3月も残りはわずか。学生最後だからこその最大の怠惰生活。もうすぐ会社勤めも始まろうという今。だからこそ俺はゲームがやりたい。今やらないで『仕事が忙しくて……』とかなってしまっても困る。

 うるさい親も今日は出かけているので悠々自適だ。

 ――そんなふうに思ってゲームをやっていたのだが。

 こうして家族同前に合鍵を使い上がりこんだ幼なじみが、俺の部屋に来たのだった。

 もちろん今はゲームが優先なので、特段相手をしてやるつもりもない。千紗はいつも通りにふてくされたが、その内やはりいつも通りに漫画を読みだしていた。



「じゃあセックスでもしようか、時間もあるし?」

 千紗はしばらくもにょもにょと独り言だと思われる不明確なものを並べていたが、唐突に呟いた。

「どういう理屈だよ」

「なんかモヤモヤするから気持ちよくなってすっきりしたい。悠もすっきりするし一挙両得じゃない?」

「だから俺はゲームをやってんの。セックスよりゲームのほうが大事だ」

 今の俺には女よりもゲームのほうが得だ。だから一挙両得にはならない。

「不能か」

「なんとでも言え。っていうか俺が不能じゃないのは知ってるだろうが」

「まだ若いのに残念ねえ」

 聞いちゃいねえ。

 それはともかく千紗にはそうは言ったが、さすがにこのまま放置というのも気が引ける。俺もゲームやりっ放しで疲れてきたし。

 戯言はともかく夕飯ぐらいは付き合ってやろうと思い、それまでの時間を考える。どれだけ進められるか、クエストは片付けられるだろうか、そんなことと考えた時だった。

「あれ?」

 唐突に変な音、それからテレビモニタが真っ黒になった。テレビはついているのだが、ゲーム機の電源は消えている。

「これは……」

 確認すると、やはりゲーム機本体の電源ランプは消えている。この時点ですでにここ数十分のデータは失われているのだが、それよりも思い当たる嫌なイメージがあった。

「……どうしたの?」

 千紗が怪訝そうに聞いてきたが、今の俺に相手をしている余裕はない。

 ゲーム機に手を伸ばす。祈るような気持ちで電源を入れると、電源ランプが赤とか緑とか黄色とか色々変わった後で、最終的に赤が点滅する。

 そして、結局電源は入らない。

 もう一度スイッチを押すが結果は同じだった。つまるところ故障の二文字に帰結する。

「死亡確認」

 俺はベットに頭をあずけてうなだれた。

「ようするにゲーム壊れたってこと?」

 上からかかった千紗の声に、頭を動かして同意を示す。

「でもゲームは消耗品って前に自分で言ってたじゃん」

「や、そうだけどさ、まさかこのタイミングでならなくてもいいじゃん。俺昨日ゲーム買ってきたばっかりだぜ?」

「昨日買ってからずっとやってんだから、それが原因なんじゃないの?」

 ぐったりとしている俺を千紗は慰めてくれる気はないらしい。

 怒っているわけではないのだろうが、さんざん放置した意趣返しだろうか、皮肉っぽくそんなふうに言われた。

 弾むような口調から想像するとたいそう楽しそうな顔をしているのだろう。幼なじみがいのないやつめ。

 実際にそう言われると返す言葉もないが、心残りをなくそうというラストモラトリアムだったのだ。それがジ・エンド・オブ・ラストモラトリアムへと進化を遂げたということだ。

 ……もう、なんかつかれるよね、人生って。

 逆に考えればいい、これで心残りがなくなったんだ、と。

「無理や」

 言葉が宙に浮き四散する。詩的な表現をしてみたがむなしい。

「そんなに落ち込まなくても」

 千紗の呆れなのか慰めなのか(恐らく前者)がかかるが、言われてもどうにもならない。

 スティングレー(俺が作ったキャラ名)は一体これからどうなってしまうのか。本体もそうだが恐らくはセーブデータも死亡しただろう。となるとスティングレー(もう一度言うかキャラ名)は二度と俺の前には現れないのだろう。

 さようならスティングレー(重ねていうがキャラ名)、ありがとうスティングレー(最後に言うがキャラ名)。

 俺はむせび泣こうとしたが、ぶっちゃけそこまで悲しくはなかった。。

 けれどなんともすっきりしないもやもやした感じだった。高揚していた気分も時間もどこにぶつければいいのだろう。

 そう思った時、ついさっきの千紗の言葉を思い出した。今の自分と同じ気持ちだった千紗はなんと言ったか。

「よし、わかったセックスをしよう」

 顔を上げてそう宣言する。

「は?」

 千紗が起き上がって、ベッドの上から俺の顔を見下ろした。

「もやもやしてるから気持ちよくなってすっきりすればいいんだ」

「何そのドヤフェイスは?」

 残念な人を見ている千紗の心情はとりあえず放っておいて、俺もベッドの上に座り込む。そうして千紗の目をみつめた。

「千紗」

 名前を呼ぶと千紗が嬉しそうに身をふる……ということもない。それどころか冷めたように眼を細めて俺を見ている。

「え、何この流れ」

 ジト目というやつだ。困惑を隠せない千紗だが俺は構わずキスをしようとして――千紗の手に押しとどめられた。

「ゆー」

「はい、なんでしょうか」

「私はあんたに対しては相当軽いけど、さすがにこれで流されるほどアーパーなわけじゃあないわよ」

 千紗は押し留めた手で俺の顔に触れている。頬を撫でそれから顎の輪郭をなぞる。美人教師が男子生徒に手を出しているような、そんな大人の女の仕草だった。もっとも子供みたいな意地の悪い笑みには妖艶さはない。

「ですよね~」

「別にゲームをやるのもいいし、私を放置するのも全然構わないけど、じゃあセックスっていうのはさすがに男としてどうかと思うよ」

 千紗の指が顎のラインから、そのまま唇をなぞる。千紗の、俺よりもだいぶ小さくて柔らかい指が、唇を何度も行き来してときどき押したりもする。

「まあ、言い出したのは確かに私だけど、いきなり勢いに任せた実力行使って……ねえ?」

 指先で弾いたり、つまんだり。人の唇を弄ぶ。戯れと呼ぶには蠱惑的だが、愛撫というには拙い、そんな動きだった。

「……でお前は何をしているんだ」

「いたずらな唇」

「なんだそれは?」

「ヴィジュアル系バンドの歌詞にありそうじゃない?」

『ねえよ』と言おうとして遮られた。一瞬で俺と千紗の距離はゼロになり、弄ばれていた俺の下唇を千紗の両唇が挟み込んでいたから。

 甘い花のような千紗の匂い。強く主張しているわけではなく、自然な嫌味のない香り。微かに部屋に漂っていた香りの元がここにある。

 特に驚きはなかった、なんかそんなことしそうだなあと思っていたから。

 千紗は俺の挟み込んだ唇を、舌先でなめたり、吸ったりと弄ぶ。さっきの指先の時とは違うぬめった感触。もちろん動きも艶かしく淫らだ。くすぐったいようなそれでいて不快ではない不思議な感触が全身に奔る。

 目を閉じて、顔を真赤にしながら必死に唇を、舌を動かしている千紗を見るのが好きだ。

 紅潮しているのは貪欲なだけではなく、羞恥を感じているからだ。

 さんざんキスもセックスもしているけれど、千紗からは未だにそういう恥じらいは抜け切らない。なんだか散々指でいじっていたのも、どうせ踏ん切りがつかなかっただけだ。

 その割には積極的にこうしてくるのだから、こっちとしてはたまらない。理性とか簡単にぶっ飛んでしまう。

 ときどき俺の舌と千紗の唇があたることはあったが、千紗のしたいようにさせて自分では何もしない。脳髄を犯すあまいしびれは、唇を弄ばれる行為そのものよりも、千紗がそういう風にしているという興奮が呼び込んだ快楽だと思う。

 千紗はひとしきり俺の唇を遊んだあとでやっと開放した。

「いたずらな唇じゃなくて、お前がいたずらっ子だな」

「否定出来ない」

 千紗が赤い顔で苦笑した。我ながら仕方がない女だ、と言っているみたいだった。

「まあ私もデリカシーとしては最悪だとは思うけど。求められると嬉しいんだよ。理由はどんなでも、ね」

 千紗が俺の胸に手を置きシャツを握りしめた。誘っているようだが、縋っているようにしか見えない。

 普段の千紗らしくはないが、している時の千紗としてはよくみる陶酔した表情だった。

 そういうのを天然で出来るんだから俺の幼なじみは恐ろしいと思う。

 普段は能動的なのだが、性に関する部分は完全に受け身になる。男としては加虐心をそそられちょっと歯止めが効かないことが多い。まあ、今現在もそうなのだけど。

 俺は千紗を押し倒して覆いかぶさった。

「お前も大概にして軽い女だな」

 さっきとは違ってゼロではない距離で千紗に言った。ゼロではないぶん細かな部分まで見える。ひとつになるのは素晴らしいことだが、ひとつにならないのもそれはそれで素晴らしい。

「違うよ、誘ったのは私。ゆーは私に誘われたの。つまりは軽いのはゆーの方」

 茹で上がった顔でそんなことを言われても説得力はない。そこまでして優位に立ちたいのか、それとも俺を煽ってるのか。どっちにしても、相変わらず可愛いなこいつ。

 確かに元々は千紗が誘った。遊戯の一環みたいな誘い方だったけれど、欠片ぐらいは本位もあったんだろう。

「言ってろ」

 まあ、俺でも千紗でもどっちでもいいや。

 大切なのはしたいことは同じだってことと。それにどうせこのあと千紗は俺にヒイヒイ言わされるのだ。言いたいだけ言わせておけばいい。



 ――とまあ、こんなのが俺達の日常だった。

 なんだかだらだらと遊んでいる内に気づくとコンナコトになるのはよくあること。

 ただ俺たち二人は実は付き合ってるわけではない。それじゃあセフレかっていうとそうでもない。

 だって俺たちはお互いに明確な恋愛感情を持っているから。喧嘩の仲直りだったり、普段の冗談だったり、あるいは睦言のひとつとして。

 儀式めいた告白などはしていないが、そうして幾度も出ている。

 それじゃあ俺たちはなんなのかっていうと、『ほとんど付き合ってるような関係の幼なじみ』というとてもめんどうな表現になる。

 俺たちふたりは昔から一緒にいて、今日みたいに勝手に上がりこまれては一緒に遊んだり、もしくはただいるだけだったり。そういうのは昔からのことだった。

 お互いに好意を抱いているのは昔からだったので、義務教育が終わるころには自然に男女の関係になっていた。

 が、そこから彼氏彼女の関係になったかというとそうでもない。

 幼なじみのままが気安いだとか、束縛しあう関係が嫌だとか、そういうのではない。なんといえばいいかわからないが元々そのようなものだったので、今さら違いがわからないという感じだ。

 彼氏彼女とか考えてもその前に俺たち幼なじみだしというのが先に来てしまう。何が変わるわけでもないのに、いまさらラベルを張り替えるのもどうかと。

 そんなわけで、俺たち付き合ってはいないのだ。

 とはいえ、世間一般にあてはめると相当にいちゃついているというのは、さすがに自覚している。だからそういう意味では付き合っているのだろう。

 ぶっちゃければ自分でも『黙れクソリア充』だろうなあという感じであり、それで別にどうのということもない。

 ただ改めて考えてみるとわけわかんねえなと我がことながら思うわけだった。



「今日も今日とて絶倫だったね」

「絶倫言うな」

 とはいえ励み過ぎたかなあと思うのは事実だ。

 あれから2時間も3時間もパコパコぬちょぬちょしてしまった。当然ほぼ徹夜していた俺の体力は限界を迎え、そこからさらに2時間も3時間も寝てしまった。

 日は落ち切り、普段の夕食よりだいぶ遅い時間だった。

「夕飯どうすっか?」

「悠のおごりでいいよ」

「なんでだよ」

「私の体の代金」

 言って、千紗は器用にも口をネコのようにしてみせた。それじゃあ安すぎるだろうと思ったが、ツッコミとしては間違っているので言わない。

「ま、この時間じゃファミレスでいいでしょ。下手に行ってみてやってなかったらしょうがないし」

「ま、そうだな」

 この時間から支度を始めて店に着いても、その店が閉店時間を過ぎているという可能性も少なくない。無難だが安牌だ。

 金銭的なことを思えばほんとうなら外食はあまりしたくないが、今日は仕方がない。

 普段親がいるときは、千紗も交えて食事をすることが大抵だった。

 ただ今日みたいにこういうことをした後で、親の前にその相手というのは、なんともこっ恥ずかしいのでそういう時はやはり外食になるのだが。

 家族には、明確に千紗と付き合っているともそうでもないとも言ったことはない。ただ年頃の異性がしょっちゅう来ては泊まっていっているのを家族は生暖かい目で見ている。昔から知っている関係だから、今さらどうのと言う気もないのだろう。

 千紗の家族はというと、おばさんは俺を生暖かい目で見ているのだが、おじさんはなんか怖かった。とてもやさしい穏やかな人なのだが、今までと同じような笑っているはずの眼の奥から、人を殺しかねない剣呑さを感じた。その辺は一人息子と一人娘の違いだろうか。とりあえずは完全にスルーしているけど。

「しかし、こんなのしてられるのもあとちょっとかぁ」

 ベットから出て身なりを整えながら千紗が言った。男の俺は手早く身支度を整えベットの端に腰掛けていた。

「そうだな、会社始まればこんな生活も送れないだろうからな」

 実際にどうかは経験してみなければわからないが、少なくともこんなに長い休みというのはもう無くなる。

 今まで以上に時間というものを考えるようになり、明日というものを意識するようになる。

 そういう意味ではゲームが壊れたのも丁度いい区切り……とか単純に思えるわけはないが、そうなのかもしれない。

 ともかくそうなれば当然、こんな若さにかまけた爛れた日々を過ごすことは出来なくなる。

「こうやって適当に来るのも出来なくなる……気がするよ」

 言い切らなかったのは、どう考えてもそんなことはないだろうということだろう。俺もそんなことを考えてみたこともあるが、多分それは無いなって思った。

 開いた時間でこいつは来るだろう。もしくは俺が呼ぶだろう。けれどもそれは、そういう時間を作らなければならないってことだ。

「今までずっと一緒だったのに、これからは離れたりするのかなあ。そういうのはやっぱりやだけど、でも仕方がないんだよね」

 俺たちは当たり前のようにいつも一緒にいたから、それが無くなるっていうのは、妙な感触だ。

 もちろん今までだって四六時中一緒にいたわけじゃあない。でも物心ついて、幼稚園から大学までずっと、少なくとも一緒の場所だったし、自由な時間もこれからよりもずっと多かった。

 一緒にいられなくなる、というのを想像してみる。

 お気に入りの調味料が食卓に並んでいないような、そういう感覚なのだろう。当たり前のようにあった不可欠のそれが無くなる。

 想像すると寂しいというよりも落ち着かないという思いが強い。それは俺もやだなと思う。

 そうなると一緒にいる方法はないのかとか考えてしまう。

 そうしてふと一つの案が浮かぶ。

「俺いま思いついた事がある」

 とてもいい案だった。ただし聞けば必ず驚く。だってそんなこと思いついた自分が驚いてるぐらいだ。

「なに急に?」

 身なりを整え終わった千紗が俺の隣に並んで座った。

 甘い花の匂い。付け直した香水の香りが強まっていた。

 俺が前にプレゼントしたドルガバのヤツ。気に入ってくれたみたいで、千紗はそれからよくつけるようになっていた。

「天啓だ。天が知恵を授けてくれたんだ」

「勿体つけてないで言ってよ」

 勿体つけて言うようなことを、この唐突なタイミングでこれから言うのだ。正直いうとバカだと思う。さっきの「セックスすればいい」の比じゃないぐらいにバカだと思う。

 でもそのバカなことをこの幼なじみはきっと受け入れてくれるという自信もある。

「結婚すればいいじゃん」

「は?」

 俺が言うと千紗は間抜け面を晒して押し黙った。その間がなんとも落ち着かなくて、俺は聞かれてもいない説明をしだした。

「いや、だからいつも一緒にいれなくなるのが嫌なんだろう、だったら結婚すればいいんじゃねえ? 結婚してお前もここに住めばいいじゃん。

 付き合うとか恋人とかよくわからんけど、俺お前のこと好きだし、お前だってそうだろう。だったらそういうのすっとばすことになるけど、そうした方がいろいろ楽じゃん」

 千紗は唖然としていたが、しばらくすると声を上げて笑い出した。

「あははは、恋人飛び越えて夫婦って、ほんとに悠は面白いね」

 肩を何度も叩いて俺に訴えかける。

 そんなに変なことは……言ったけどさ。そんなに受けなくてもいいだろう。

「いや、でもね悠。その発想悪くない。いいと思うよ」

「……ん、じゃあ?」

「結婚しちゃおうよ」

 にんまりと千紗が笑みを作った。

「ははは」

 今度は俺が声を上げて笑う。言った俺もそうだけどあっさり納得した千紗も千紗だ。

 でも俺たちらしいっていえば俺たちらしくていいと思う。

「それじゃあ改めて……俺と結婚して下さい、千紗さん。それから、これからもずっと一緒にいてください」

「はい、喜んで、悠さん。これからもずっと一緒にいさせてください」

 テレビで見るような演技でもって、俺たちはそんな誓いをした。

 明確な告白すらしていない俺には、そうでもしないととても言えなかった。演技みたいでも、内容は真意で、そういうのも俺たちらしいって思った。


 そんな風にして、夕飯を決めるみたいにあっさりと俺たちは生涯を共にすることを決めた。

なんかエロ漫画みたいな話だなあと思いました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 文章がさらりと読めて、内容もすんなり頭に入ってきました。 とても読みやすかったです。 個人的に、こんな甘い感じがかなり好みです。
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