談戦開始
「頼むからさあ、落ちつけよお前ら」
「ヒャハハハ、見ろ人がごみのようだ」
「それ人じゃねえし。虫ですらねえし。蹴らないでよ」
「いいか、ここには崩してはならない雰囲気と言うものがある。これを崩してしまえば作った人間がそれはそれは哀れな状態に陥り、二度とその空気を作ることが出来なくなってしまうんだ。これすなわち、気功の法則と言い、そしてそれを守るために我々がすべきは…」
「うるせえっつってんだろうがあ」
スパン、とな。
「先輩い、どっからその冊子持ちだしてきたんすか」
「突っ込みどころはそこじゃないと思うけど」
「知らねえよ、お前らは此処で果ててしまえ」
さっきから須賀が相手にしているのは、木の実達だ。
かわいそうに
女を助けてからと言うもののずっとこの状態だ。
やはり二人とも捨て置けばよかっというものだ。
特に須賀。
「先輩先輩先輩、ねえ先輩。あれって基地の方からの煙ですよね。うわあ、何の合図でしょうかね。先輩あれは、これは、そっちは…」
「黙れ」
そして敵軍らしいがそばを離れない女。
「保存食がクッキーとか舐めてるわ。何これ、発煙弾? 威力小さそう。あら、これは包帯か。よし、貰っておこう」
「返せ」
神経がいっそ切れて欲しい。
「先輩、横から来てますよ」
ひょいと首を下げる。
その上をペイント弾が過ぎ去った。
いつまでたっても突撃の合図が出ない。
だから、こうして暇であるかのように喋れるのだが。
「まずこの目的ってなんでしたっけ?」
「今さらだな、野外訓練の文字通り、実践の環境に慣れるってものだろ」
「じゃあ、こんな闘いしなくても、キャンプ道具持たせて一週間山に放置でよくないですか?」
「よくないです」
「瀬戸先輩ってドライですねえ」
「あたしもそう思うわ」
「知るかよ」
「ほら、ドライフラワー」
「あ、確かにね」
何の話だこれは
「しかもこうして歩き続けてるのに、敵さんはじめじめと追ってくる」
「悪かったわね」
「謝るなら情報くれ」
「何処ぞのドラマの台詞をパクってんだ」
「先輩、年ばれますよ」
「誰にだよ」
「さてね、誰でしょうか」
うるさい
手に下がる銃が重い。
どうせ入っているのはペイント弾なのだから打ってもよいのではないか。
ぞわりとした。
自分がこう思い始めたと言うことは
「瀬戸先輩、見て下さい」
木に映る青い染み。
「威力弱すぎにもほどがありますよね」
「私もそう思ってたわ」
「捕虜には聞いてません」
「権利はあるわ」
「捕虜と認めた」
「どうでもいい」
「つれないなあ」
「瀬戸よりまし」
「呼び捨てかよ」
「先輩も打ってみたらどうです?」
「馬鹿野郎」
結局、背後の追手を振り払えたから感心だ。
しばらくして不満げな声が後ろから聞こえた。
無視を決め込んだが結構苦しい。
「こうして歩き続けて早半日。未だ合図は出ず、敵からの攻撃をかわし、かわしかわし。時に受けたペイントが一着しかない戦闘服にへばりつくこのありさま。さらに空腹がピークを迎える。なのに保存食は一食分だから手もつけられない。靴には泥がこべり付き、髪の毛は慣れない帽子の所為でぼさぼさに」
「そろそろ殴ろうか」
「ごめんなさい先輩」
「不満が多いわよね」
「そのまま返そうか」
「また返してあげる」
「受け付けませんよ」
平和だな
先輩でもいいかもしれないな、どうでも。
「いくぞ、御二人さん」
「さんづけでしたよね」
「ええ、雨でも降るわね」
何故こんななれなれしいんだろな