ジャングルの中で
誤った知識が入り混じり、こんなものは軍隊でないと思う方、おひき返しください。ここはただの談話室です。
「口の中渇きません?」
初めての戦闘訓練の前、そいつが言ったのはこうだった。
「お前、名前は?」
「それより口の中渇きません?」
何だこいつは
「別に」
「俺は須賀です」
口の渇きの話はどこ行った
「こういう場ってなんか手持無沙汰で、口渇くんすよ」
手持無沙汰の使い方がおかしい
「そおだっ、梅干しっすよ」
放っておこう
「梅干しを考えたら、唾液腺が緩むんじゃないですか。オレ梅系の菓子が大好きでして」
知るか
「あの、めちゃくちゃ甘酸っぱいのあるじゃないすか。あれを、あれを一度でいいから二つぶいっぺんとか…くぅう、考えただけで美味いっすよね!!」
勝手にほざいてろ
「さてさて、先輩」
「俺は先輩じゃない」
「何でもいいじゃないですか。さて先輩」
はやく言えよ
「名前はなんすか?」
ものすごく無視したい衝動に駆られた。
「…瀬戸」
「瀬戸? 瀬戸ー瀬戸ー瀬戸先輩っすね」
何気に三回呼び捨てしたな
「また重苦しい装備ですよね」
今回は野外活動の訓練だ。
実践に備えて、防弾防暖防談…ばっちりだ
「部隊のみんないないですねえ」
「隠れるのが普通だからな」
勿論俺も隠れている
たまたま、こいつの近くに
「早口言葉でもしますか」
「…」
「冗談っすよ、集中しなきゃですね…無視しないでください」
「あー」
「うわっ、何すか。その気の無い返事! 瀬戸先輩ってダークですか」
何の話だ
早く長官に見つかって叱られればいい
「先輩伏せて―」
「あ?」
反射的に伏せたのがよかった。
真上をペイント弾が通り過ぎたのだ。
実践では実弾の、ダミー弾だ。
当たったら失格。
「何すか?」
「…あり…が…何でもねえよ」
「ここって祖国って感じしないっすよねえ」
「まあ、ジャングルなんてそんなもんだろ」
「やっぱ、祖国と言えば伝統菓子達ですよ」
「軍に入ってから甘いものは口にしてない」
「もったいないですねえ、人生の要ですよ」
「と言うよりな…」
俺は無言で移動した
そいつも気づいたらしくついてくる
いや、ついてこられてもな
「瀬戸先輩さすがですね、俺あんなに近づかれてるなんて気付きませんでしたよ」
「祖国のことを話しながら、なら理由でも問題ない」
「そんなわけないじゃないすか」
「判っているんだな」
「先輩横横」
またもペイント弾だ。
いつもより多いな
喋っているからか
当たり前の話だ