第七話
「汗をかいてしまったな。アンリ。風呂に行くぞ」
「お風呂ですか・・・?」
まずい。
まずいまずいまずい。
いきなり女だとばれる危機だ。
「何だ?嫌なのか?」
「嫌というかその・・・。王太子殿下と一緒にお風呂に入るのは恐れ多いといいますか・・・」
「何だ。そんなことか。これから私の傍にずっといるのだ気にするな」
いえ。
とっても気になります。
体を見られたら怒りだすに決まっているんですから。
「いえ。私は王太子殿下の後に入らせていただきますから」
「そうか・・・。残念だが今回は諦めよう」
マスクウェルがそう言ってくれたことでアンリはほっとする。
「それとだな。王太子殿下は長いだろ?私のことは名前で呼んでもいいのだぞ?」
「いえ。お名前を呼ぶのは恐れ多いです。ですので、殿下と呼ばせていただきます」
「そうか?まぁ、私はどう呼ばれても気にしないが・・・」
そう言いつつ少し傷ついてますよね?
顔を見ればわかるんですよ。
「では、2人きりのときなら・・・」
「2人きりのときならいいのだな?」
そう言ってマスクウェルは笑顔を浮かべる。
うぅ・・・。
その顔は反則ですって。
「では、風呂に向かうとしよう」
「はい。殿下」
お風呂場に向かう途中、マスクウェルは呼び出しを受ける。
「すまんな。先に行っててくれ」
「はい・・・」
アンリは待っているのもおかしいので先にお風呂に入ることにした。
だが、これが間違いだったとはすぐに気がつくことになる。
「アンリ。待たせたな」
「で、殿下・・・?」
アンリは慌てて体を隠す。
「何だ?男同士で。おかしい奴だな」
「いえ。その・・・」
アンリはマスクウェルに背を向け何とか誤魔化そうとする。
「それにしても本当に華奢だな。まるで女子のようだ」
そう言ってマスクウェルはアンリの背中をつっと撫でる。
「ひっん・・・。ちょっと、殿下。何するんですか?」
「何って綺麗だからついな・・・。それに、今は2人だけだ。名前で呼んでくれ」
そこで先ほどした約束を思い出す。
「マスクウェル殿下・・・」
アンリはそう呼ぶと「どきっ」とする。
名前を呼んだだけなのにこの感覚は何なのだろうか。
「殿下が余計だが。まぁ、いいだろう」
マスクウェルはそう言って上機嫌になる。
名前を呼ばれただけで喜ぶマスクウェルを見て可愛いと思ってしまった。
その時のアンリは名前を呼ばせる重要性に気がついていなかった。
王族とは名を呼ばれることはそう多くない。
自分の名前を呼んでくれる相手は本当に親しいごく限られた人だけなのだ。
そのことに気がついたのは仕えはじめてしばらく経ってからのことだった。




