第三十話
「夕食まではまだ時間があるな。わずかな時間だがゆっくり休んでくれ」
「お言葉に甘えさせていただきます」
アンリはマスクウェルの言葉に甘えてソファーに座る。
マスクウェルは隣に腰掛けて聞いてくる。
「王城での暮らしはどうだ?」
「皆さん、優しくしてくださいますしマスクウェル殿下と過ごせるのは楽しいですよ」
「そうか・・・。不便などはないか?」
「いえ。これと言って特には・・・」
「何かしたい事とかがあれば言ってくれ。出来る限りのことはするから」
「心遣いありがとうございます」
ここまで優しくしてくれるマスクウェルと過ごすのはやはり嬉しい。
あえて、言うなら女子であることを黙っていることだろうか。
だが、これを言えばマスクウェルと共過ごすことはできなくなる。
それは嫌だった。
マスクウェルとこうして共に過ごす時間は幸せだと思える。
そこに大きな声で入室の許可を求める者が現れた。
「王太子殿下失礼いたします」
「その声は・・・」
マスクウェルがびくりと体を震わせる。
マスクウェルがそんな反応をする相手は一体誰なのか気になった。
扉の方を見れば大柄の男性が部屋に入ってくる。
「し、師匠・・・。お戻りだったのですね」
「うむ。思いのほか手間取りましたがこうして無事に戻りましたぞ」
「王太子殿下こちらの方は・・・?」
「剣術指南役のガスパーだ」
「はじめてお目にかかる。ガスパー・フォン・クロスロードと申す」
「アンリ・ユーステッドと申します」
「ふむ。新しい傍付きが出来たと聞いて見に来ましたが・・・」
ガスパーはそう言ってアンリのことをじろじろと見てくる。
何やら品定めをされているような感じがする。
「アンリ殿。明日からしばらく私に付き合ってもらってもよろしいか?」
「待て。ガスパー」
「王太子殿下。申し訳ありませんが我儘を聞くつもりはありませんぞ」
「ぐっ・・・」
こんなマスクウェルを見るのははじめてだ。
何だか新鮮な気がする。
「付き合うのは構いませんが目的は何なのでしょうか?」
「失礼ですが今のアンリ殿では王太子殿下の付き人としては失格です。訓練に付き合っていただきます」
「訓練ですか・・・?」
「はい。その通りです。王太子殿下の傍付きは護衛の意味もあります。主より弱くては話になりませぬ」
「確かにその通りですね。今の私では王太子殿下に勝つことはできません」
「異論はないようですな。それでは明日の朝、迎えにきますので」
ガスパーはそう言って部屋を出て行った。
「アンリ。こうなっては私に止めることはできない。怪我だけはしないでくれ」
マスクウェルは心配そうにそう言ってくるのだった。




