第十五話
風呂から上がり、マスクウェルの部屋に戻ってきた。
「夕食までまだ時間がありますね」
「そうだな。そう言えばアンリは読み書きは出来るのか?」
「読み書きですか・・・?」
日本語なら出来そうだがこの世界の文字の読み書きについては出来なかった。
「いえ。出来ないです」
「ならば、私が教えてやろう」
「マスクウェル殿下がですか?」
「傍付きとしてやっていくなら必須の技能だ」
今後、マスクウェルの執務を補佐するなら確かに読み書きは出来た方がいいだろう。
「よろしくお願いします」
「まずは文字を読むところからはじめよう」
マスクウェルはそう言うと1冊の本を取り出す。
ソファーに座り隣をぽすぽすと叩く。
どうやらそこに座れという意味らしい。
アンリは大人しく少し距離を離して隣に腰掛ける。
「もっと近くに」
「はい・・・」
「もっとだ」
「もっとって・・・。マスクウェル殿下とくっついちゃいますよ?」
「それでいい。離れていては本が見えないだろう?」
「そうですけど・・・」
「遠慮するな」
「では・・・」
アンリは諦めてマスクウェルにくっつく。
お互いの呼吸が聞こえる距離にどきりとする。
「では、読むぞ」
マスクウェルはそう言って読み聞かせを開始した。
アンリは集中しようとするがマスクウェルと至近距離にいることで集中できずにいた。
心臓はどきどきと鳴り緊張しっぱなしだ。
アンリは「私は男。私は男」と念じて雑念を追い払う。
少しずつではあるがマスクウェルのことが気にならなくなり文字に集中する。
この世界の文字はそう多くはないがスペルの組み合わせで色々な意味になるようだ。
勉強など前世の学生時代以来だが、この様子ならなんとかなるだろう。
「ふぅ。今日のところはこれぐらいだな」
そう言ってマスクウェルは本を閉じる。
「どうだ?覚えられそうか?」
「はい。何とかなりそうです」
「そうか。後で教材を用意させておくから使うといい」
「はい。心遣いありがとうございます」
「では、夕食の時間だ。行こう」
「お供します」
アンリがそう言うとマスクウェルは立ち上がり、アンリもその後に続いた。
食堂に到着すると今日はアッカバーンの姿がなかった。
「父上は?」
「今日は政務が長引きそうだから先に食べているようにと」
「そうですか・・・」
「では、全員揃いましたし食事にしましょう」
その合図で食事が運ばれてくる。
食事を食べる時間もないとは国の運営とは大変なものなのだろう。
マスクウェルも王太子として国の運営に関わっているはずだ。
少しでも早く力に慣れるように文字の読み書きをしっかりできるようになる必要がありそうだ。




