第十一話
「どうした?変な顔をして」
「いえ・・・。少しお待ちください」
アンリはそう言うと深呼吸する。
何度か繰り返すと落ち着いてきた。
「お待たせしました」
「いや。いい。それで父上の話は何だったのだ?」
「私が傍付きに指名された理由ですね」
「そうか・・・」
マスクウェルはそう言ったきり何も言わない。
アンリは何か言わなければと必死に考える。
そして出てきた言葉はこうだった。
「マスクウェル殿下もお辛かったのですね」
「そうだな・・・。親しい者がお互いに争う。そんな姿は見たくなかった」
そう発言するマスクウェルは本当に辛そうな顔をしていた。
アンリは自然と体が動く。
気がつけばマスクウェルの頭を撫でていた。
「アンリ・・・?」
「ええっと。すみません」
「いや。いい。アンリさえよければもっとしてくれないか?」
「はい・・・」
アンリはマスクウェルの気がすむまで頭を撫で続けた。
まるで幼い子供を見ているようだ。
「ふぅ・・・。アンリに頭を撫でられると落ちつくな」
「そろそろ遅い時間ですし、私は失礼しますね」
「あぁ。おやすみ」
「おやすみなさい」
アンリはそう言ってマスクウェルの部屋を退室する。
自分は一体何をしているのだろう。
だが、マスクウェルに甘えられるのは悪い気がしなかった。
自分だけに見せる幼さを好ましく思っている自分に気がついた。
自分の部屋に戻り寝巻に着替えるとベッドに横になる。
初日から女だとばれそうになったのは誤算だが上手くやっていけそうな気がする。
そんなことを考えているうちに気がつけば眠ってしまっていた。
ちゅんちゅんと鳥のさえずりで目が覚める。
時間を確認すれば寝坊してしまったようだ。
アンリは慌てて着替えてマスクウェルの部屋に向かった。
「王太子殿下失礼します」
「アンリ。おはよう」
マスクウェルはもう起きていたようで会った時と同じようにお茶を飲みながら読書をしていた。
「すみません。寝坊しました」
「いや。気にしなくていい。慣れない環境だ」
そう言ってマスクウェルは読んでいた本を閉じる。
その姿は様になっており、ついつい見とれてしまう。
「どうした?」
「いえ。凄く絵になるなと思って・・・」
「そうか?」
マスクウェルは不思議そうな顔をしていた。
どうやら自覚はないらしい。
「そろそろ朝食の時間だな。行こうか」
「お供します」
アンリはマスクウェルに連れられて食堂に向かう。
例のごとく他の王族の方々は既に集まっていた。
アッカバーンが話しかけてくる。
「おはよう。アンリ殿。よく眠れたか?」
「はい。おかげ様で」
「それは良かった。慣れない環境だとは思うが無理はしないようにな」
「心遣いありがとうございます」
王族だというのにマスクウェルもアッカバーンも優しく接してくれる。
期待に応えなければと心に強くそう思うのだった。




