第十話
今、アンリはアッカバーンと2人きりだ。
この状況に緊張してくる。
「アンリ殿。いや、アンリ嬢。無理を言ってすまなかったな」
「いえ・・・。お声をかけて頂きありがとうございます。ですが、何故私だったのですか?」
「いくつか理由はあるが・・・。そうだな。これからも長い付き合いになるのだろうし説明しよう」
「はい・・・」
アッカバーンから語られたのは言われてみれば納得できる内容だった。
「かつてはマスクウェルの傍付きは上級貴族の子弟だった。だが、派閥争いで裏では酷い状況になってな・・・。マスクウェルがそのことを知って激怒したのだ」
「だから、どこの派閥にも所属していない我が家に?」
ユーステッド家はどこの派閥にも所属していなかった。
それ故に貧乏だった。
「お主の父は私に忠誠を誓ってくれている。だが、それだけでは贔屓にするわけにもいかなくてな」
どうやらアッカバーンはユーステッド家のことを気にかけてくれていたようだ。
「いえ。国王陛下のせいでは・・・」
貴族の当主としては家のことを考えなければいけないのだろうが、アンリはそんな父を尊敬していた。
「それともう1つ理由がある」
「何でしょうか?」
「マスクウェルの奴が女嫌いなのは知っているな?」
「はい。存じておりますが・・・」
「それでは困るのだ。後継者問題が起きてしまう」
「確かに王太子殿下に子がいないのはまずいですね」
「そこでアンリ嬢の出番というわけだ」
「私ですか・・・?」
「親しい者が実は女であった。間違いでも起こってくれればと思ってな」
「なっ・・・。なっ・・・」
つまり自分はマスクウェルの奥方候補ということになる。
「マスクウェルの奴はお主を好ましく思っておる。アンリ嬢はどう思っておるのだ?」
「それは・・・。王太子殿下のことを好ましくは思っておりますが・・・」
自分がマスクウェルと結婚?
その姿が想像できなかった。
「結婚する姿が想像できんか?だが、今はそれでよい。下がってよいぞ」
アンリはあまりの爆弾発言に動きを固くしつつ退室する。
私がマスクウェルと結婚?無理無理無理。
精神は男なのだ。
そんなことは考えられなかった。
だが、今日のことを振り返る。
マスクウェルのことを考えるとどきどきしてくる。
アンリは頭をぶんぶん振って今考えたことを無理矢理追い出した。
考え事をしながら歩いている間にマスクウェルの部屋に到着してしまった。
部屋をノックする。
「誰だ?」
そう返事が返ってくる。
「アンリです」
「父上との話は終わったか?入ってくれ」
アンリは入室の許可を得て部屋に入る。
自分は今、どんな顔をしているのだろうか?
マスクウェルに悟られないようにしなければ。
そう気合を入れてマスクウェルに対峙した。




