第一話
「アンリ・・・。アンリ・・・?」
「あれ?ここは・・・?」
アンリは頭を押さえつつ周囲をきょろきょろとみる。
見慣れた家の庭だった。
だが、そこに別の記憶が入り込んでくる。
それは現代日本で生活していた時の記憶だった。
原田泰文。
それが現代日本で暮らしていたころの名前だ。
よくあるブラック企業に勤めているサラリーマンだった。
いつものように大量の残業を押し付けられ仕事をしていたのは覚えている。
睡眠も取れず栄養ドリンクで誤魔化す日々。
そんな生活をしていれば過労で倒れるのも不思議なことではなかった。
そうか。
自分は過労で死んだのか。
不思議と前世のことをすんなりと受け入れることが出来た。
問題は現在のことである。
アンリ・ユーステッド。
それが今の名前だ。
名前からわかる通り現在の自分は女の子だった。
前世の記憶が蘇る前は何とも思わなかったのだが記憶が蘇った以上、困惑するしかない。
何故に生まれ変わったのが女の子なのか。
そこは性別を統一してほしかったところだ。
「アンリ。本当に大丈夫か?」
「お父様。すみません。ぼーっとしてました」
「今日の訓練は終わりにしよう」
そう言って父であるアグニ・フォン・ユーステッドは訓練で使っていた木剣を持って家に戻る。
フォンでわかる通りアンリの父、アグニは騎士爵を持つ貴族だった。
アンリは将来的には父の後を継ぎ騎士になるのが目標だ。
その為に、今日もアグニに無理を言って稽古をつけてもらっていた。
だが、女の子であるアンリはハンデを抱えていた。
筋力では男性に勝つことができずそうなると他の技術で補うしかない。
だが、それも上手くいっているとは言い難かった。
そんなことを考えていると馬の嘶きが聞こえる。
そちらを見れば立派な馬車が近づいてくるところだった。
どうやらうちに用事があるようだ。
アンリは父であるアグニに伝える為に家に向かった。
「お父様。お客様のようです」
「お客様?珍しいね」
「立派な馬車ですよ」
「そうか。アンリ。お母さんを呼んでおいで」
「はい」
アンリは母であるカニスを呼ぶために2階に向かった。
「お母様。お客様です」
「お客様?大変。すぐお迎えの準備をしないと」
そう言ってカニスは1階に降りていく。
アグニの姿はなく窓から外を見れば膝をついて客人を迎えているようだった。
お客様はそんなに偉い人なのだろうか?
そう思いつつもアンリはカニスを手伝って来客を迎える準備を進めた。
準備が整ったところでアグニは客人を伴って家に戻ってきた。




