第2章 憤怒の死神編 エピソード8 ジャック・バーンズ
「ジャック! 残り一隻だ!」
シルヴィアの鋭い声が、風を切り裂いてジャックに届く。
「接舷するよ! 乗り込むんだ!」
「グラップリングだ! フックをかけろぉーーー!」
シルヴィアの号令に、獣人たちが一斉に叫び、太いロープのついた鉤爪を敵艦へと投げつける。
シュンッ、ガキィン!
鋭い音を立てて、金属の鉤爪が敵艦の甲板に突き刺さる。
「野郎ども、乗りこめぇーーー!」
甲板から、そしてマストにかけたロープを伝い、海賊団の獣人たちが次々と敵艦に乗り込んでいく。彼らの目に宿るのは、殺意と怒りの炎。その表情は、もはや獣そのものだった。
「よくも俺の家族を殺してくれたなぁーー!」
「俺の嫁の仇だぁーー!」
口々に恨みを叫びながら、海賊団の獣人たちが、震え上がるゼラフィム海軍の水兵に襲いかかる。
キン、カキィン
剣と剣がぶつかり、銃声が響き、甲板はたちまち阿鼻叫喚の地獄と化した。鍛え上げられたゼラフィムの兵士たちも、復讐の鬼と化した海賊たちの殺気には太刀打ちできず、次々と無惨に斬り伏せられていく。
「皆殺しだぁ、コノヤロー!」
ジャックが、まるで獣のような雄叫びを上げて敵兵に斬りかかる。その剣捌きは洗練されたものではなく、ただひたすらに力任せ。悲しみと怒りという感情が、そのまま剣の軌跡に乗っているかのようだった。
「死ねくそがぁ!」
彼が放つ一撃一撃は、兵士の盾ごと粉砕し、鮮血を撒き散らしていく。
その狂乱の中、シルヴィアは冷静に指示を飛ばしていた。彼女の剣は無駄がなく、的確に兵士たちの急所を捉え、確実に仕留めていく。
「ジャック、右舷の砲手を抑えろ!」
「アイよ!」
獣人たちが繰り出す圧倒的な力と、シルヴィアの冷徹な指揮。その完璧な連携により、ゼラフィム軍の最後の軍艦は、復讐に燃える「憤怒の死神」海賊団によって、無慈悲な血祭りにあげられていった。
船上は大方制圧されていた。血と鉄の匂いが充満する甲板で、最後にゼラフィム軍の将校が一人、満身創痍で抗っていた。
「獣風情がぁーー!」
唾を飛ばしながら、男は叫ぶ。
「お前ら、我ら神麗ゼラフィム法皇国にたてついて、ただで済むと思うなよ……ぐはははっ!また、お前らの故郷を蹂躙してやるぜ!」
その嘲り、故郷を蹂躙された怒りの言葉が、ジャックの血管を灼きつける。男の前に、副船長ジャックが仁王立ちで立つ。その全身から溢れ出る殺気は凄まじく、ビリビリとした威圧感が仲間たちにまで伝わってきた。
「おいッ!お前ッ!立てコラッ!」
ジャックの声が、荒れ狂う嵐の咆哮にも似て甲板に響き渡る。
「俺が相手してやるぜ!決闘だ!」
将校は、ジャックの正気を疑うように顔を歪めた。
「お前が勝てば命も取らねぇし、この船も返してやる」
そう言い放つと、ジャックは自身の腰に差したサーベルを一振りし、将校の足元に投げ渡した。
ガシャン!
金属音が高く響く。将校は、ジャックのこの行動が理解できなかった。
「お前、バカだぜ……ぐはははっ!死んだなお前はッ!」
将校は血に濡れたサーベルを拾い上げ、狂ったように笑う。そして、熟練された剣術でジャックへと斬りかかった。
ブンッ! ヒュンッ!
幾度も繰り出される鋭い剣筋がジャックを追い詰めるが、彼は冷静にそれを見極め、紙一重で躱していく。
そして、男がジャックの首元をめがけて鋭い突きを刺す!
ビュンッ!
ジャックは咄嗟に右腕でカバーするが、将校は不敵に嗤う。
「バカが!右腕ごと貫いてやるわ!」
ガキンッ!
凄まじい金属音が甲板に響き渡る。しかし、刺さったはずの男のサーベルの剣先が、まるで岩にぶつかったかのように欠けてしまった。
「なっ、なっ、何だとッ!?」
将校は驚愕に目を見開く。激しい斬り合いの中で袖口が切り裂かれ、すでに露わになっていたジャックの右腕には、服の下に隠されていた鋼鉄の篭手が嵌め込まれていたのだ。
ジャックは無造作に持っていたサーベルを捨て、将校に見せつけるように両腕の袖を捲り上げた。彼の両腕には、それぞれ異なる形状の篭手が装着されている。
「マジックガントレットだ」
ジャックは将校を侮蔑するように言い放った。
「ただし、そこらの安物とは一味違うぜぇ!」
その言葉には、底知れない自信と、これから起こるであろう事態への確信が滲み出ていた。
「俺様、ジャック・バーンズが持つこいつは……当代の名工に造らせた稀代の逸品!」
ジャックは、昂ぶる感情を乗せて高らかに宣言する。
「右が**『死神の篭手』、左が『憤怒の篭手』**だぜ!」
彼は将校に、そしてまだ息を潜めて見守る仲間に向かって言い放った。
「存分にコイツの**魔刃技**を味わいなッ!」
そう言うとジャックは両腕を胸の前でクロスさせ、天に掲げた。二つの篭手の紋様が、赤と青の禍々しい光を放ち、周囲の空気を震わせる。
その掲げた両腕を、復讐の念を込めて勢いよく振り降ろす!
「喰らえぇ! ――『死神の鎌・憤怒の羅刹衝』――」
ゴォォォォンッ!!
右の篭手からは巨大な鎌の魔刃が形成され、空気を引き裂く轟音を立てて空間を薙ぎ払う。同時に、左の篭手からは灼熱の衝撃波が解き放たれ、将校へと向けて爆発的な圧力を放った。
ジャックが振り降ろした死神の鎌の斬撃が、将校の首に吸い込まれるように命中した。
ズバァッ!
斬撃に込められた魔力が、肉を斬り、骨を断つ。将校の首からブシューッと音を立てて鮮血が飛び散り、滝のように鮮血が溢れ出した。
そして、間髪入れずに左腕から放たれた灼熱の衝撃波が、将校の身体を襲う。
ドゴォンッ!
ボォォォォ!
男の身体は衝撃波によって瞬時に吹き飛ばされ、炎に包まれる。その怨嗟の声も、怒りの炎に飲まれ、甲板に立つことが許される者は、もはや誰もいなかった。
敵艦を拿捕し、金目のものを奪い尽くしたシルヴィアとジャック。やられたらやり返す、それが彼らの流儀だ。軍港の外れにある倉庫に密偵の協力者が、おかしなことを口走る水兵を捕まえたという知らせが届き、二人は主だった者を引き連れて向かった。
倉庫に足を踏み入れると、密偵の男が恭しく会釈し、捕虜の男に話すよう促す。
シルヴィア:「いったいどうしたってんだい?」
水兵:「あんたら、バニングの者なんだろ?」
シルヴィアはイラつきながら答えた。
「ああ、そうだが、それがどうしたんだい?」
水兵は慌てて釈明する。
「あのバニングへの侵攻は、俺たち海軍の仕業じゃねぇんですよ!」
シルヴィア:「何だって!じゃあ誰がやったって言うんだい、ああ⁉︎いい加減なことを言うと切り刻むよ!」
水兵:「ゼラフィムの下級貴族たちが、独断で勝手にやったことなんです。だから俺たち海軍は関わりねぇ。まあ、軍艦を何隻かと、将校クラスを何人かは貸したようですが…」
ジャック:「おい、じゃあなんでその下級貴族どもは、独断でバニングを襲ったんだ?」
水兵:「それが、恐らく軍内部の噂なんですが……当時の異端戦争が絡んでいるんじゃないかって、前から噂があるんです。」
シルヴィア:「どう言う事だい!」
水兵:「異端戦争はご存知ですよね。?」
シルヴィア:「あぁッ‼」
すると、ジャックが口を挟んだ。まだ幼い彼は、異端戦争の話題を英雄譚だと思い、目を輝かせて食いついてきた。
ジャック:「英雄アイルの物語だろ?」
「それなら知ってるぜ!」
「ゼノンのどこだっけかな?酒場で吟遊詩人が歌っているのを聞いたことあるぜ!」
シルヴィアが呆れたように言う。
「また、始まった。ジャック坊やの英雄語りが。」
ジャック:「南方の小国・ノートレッド公国が舞台、御伽噺の聖女様とその御供の10勇士達。」
「苦難の末、彼らは世界樹の厄災を払いのけた」
「それぞれ役目を終え帰郷した。そして聖女様の幼馴染であり、勇士の一人獅子王のアイル・2人は昔から恋仲で帰郷後結ばれる。」
「だがしかし…。」
「ウンコ・ゼラフィムは聖女様を国崩級の兵器と見なし。」
「その力を自軍に引き入れるか、それとも力そのものを奪うかどうするか…。」
「結局、聖女様が拒否したから魔女扱いにして異端戦争が勃発したんだろ⁉」
「お前らウンコゼラフィムが全部悪い!」
水兵:「……。」
シルヴィア:「それがいったい私らにどう関わってくるんだい?」
水兵:「私が聞いた話しだと、その戦争でかなりの出費と沢山の兵士達が亡くなりましたがノートレッド公国の後ろ盾の大国が仲介したことにより。」
「10勇士の身柄を引き渡すかわりに不戦協定を結んだらしいんですが。」
「結局甚大な損害を出した割には、参戦した貴族達、特に下級貴族は何一つ恩賞も何ももらえず。」
「…その…損失分を補うために行われたのが…バニング侵攻みたいです。」
シルヴィア:「じゃあアタシらはただのとばっちりを受けったてのかい?」
水兵:「残念ながら、そう言う事になります。」
海賊団の男:「何だよそれ⁉」
「ふざけんな!」
ジャック:「ひでぇッ⁉」
水兵:「すみません、ですがゼラフィム人全員が悪人ではないんです。」
「私だって好きで戦争に行ってるんじゃないんです。」
「徴兵されればそれまでなんです。戦っても死ぬ、徴兵を拒否しても殺される。」
「私らゼラフィム人はそんな不条理の世界で生きていくしかないんです。」
ジャックが何か虚ろな眼でおもむろに水兵の背後に立つ。
そして、優しく声をかける。
「アンタも苦しんでたんだな?」
水兵:「すいません、本当にすいません、お願いです許してくださいうっぅ…ううッ…。」
ジャック:「大丈夫だ、今その苦しみから解放してやるからな!」
パァンッーーー!
乾いた破裂音が響き渡る。
仲間たちに、誰も止める者も諌める者もいなかった。皆、無言になりそこには、虚しさと静寂だけが残った。
彼ら憤怒の死神の海賊団はゼラフィム海軍を倒し自分たちの故郷、バニングの領海に戻ってきたが、相変わらず嵐と荒れ狂う海が待っていた。バニングの海は未だに晴れない…。
シルヴィア:「後は、海さえ取り戻せさえ出来れば…。」
...そして、現在。
嵐の中、ジャックとエリーはあれから数年ぶりの邂逅を果たす。また、それ以上にジャックと憤怒の死神の運命を変える少年に出会う。
ジャック:「よう、エリ-元気にしてたか?」
エリ-:「私は大丈夫よ。元気だよ。」
「ジャックお兄ちゃんは、大丈夫⁉」
「何で海賊になっちゃったの?」
ジャック:「……。」
「色々あったのさ。」
ここでライルが性懲りもなく話に割って入る。
ライル:「なんだ、その色々って?」
エリ-:「アンタねぇ~。ひょっとしてバカなの⁉」
「空気読みなさいよ!」
ライル:「何さッ!」
「ちょっとぐらい、良いじゃん!」
さすがのジャックも無神経が過ぎるライルに苛立ちをおぼえた。
ジャック:「おいッ!ちんちくりん、俺様は今エリ-と話をしてんだ!」
「少し黙ってな⁉」
ライルは何故かここで男の意地を張り始める。思春期真っ只中のせいか?好きな女性の前でカッコをつけたかったのか何なのか素直に引かない。
ライル:「ちんちくりんッて何だぁーー。」
「お前だってちんちくりんじゃないかぁー。」
ジャック:「何だとぉーー。このクソガキぃーー。」
思春期と反抗期真っ只中の2人が嵐の中、男の意地の張り合いが激しくぶつかる。




