第2章 憤怒の死神編 エピソード4 キャプテン・シルヴィア
シルヴィアは己の野生のカンを頼りに、その匂いの下へと向かう。そして、そこにはライルたち一行がいた。
海賊たちが近づいて来るのを見て、交易船の船長は身構える。
「ふ、やめときな。命を無駄にするもんじゃないよ」
シルヴィアが鋭く一喝した。
「大人しくしてりゃあ命まで獲りはしないさ」
船長は仕方なく剣を降ろした。それを見た新米の船員が、納得がいかない様子で呟く。
「船長、いいんですか? 俺たち船乗りは、命知らずじゃねえんですか?」
すると船長は、静かな口調で息巻く船員をなだめるように語り始めた。
「お前さんは知らねえだろうが、こいつら『憤怒の死神』海賊団は、ゼノン連邦の正規軍ですら敵わねぇ、バケモン揃いだ」
船長は遠い目をしながら続けた。
「この世界にまたがる八つの海の一つ、ゼノン連邦の東部全域に広がる北海洋を支配しているんだからな」
彼は、さらに静かに語る。
「だが、こいつらは少し特殊な成り立ちでな。あのバニングの悲劇の生き残りたちが立ち上げ、結成した海賊団なのさ」
新米の船員が驚き、声を上げる。
「えっ、あの、ゼラフィム軍の侵攻があった、あれですか!?」
「聞いた話じゃ、ひどい略奪行為や、老若男女問わず民族浄化の大虐殺があったって聞きましたけど……まさか、彼らがその生き残りだったなんて。マジですか!?」
船長は再び目を閉じ、静かに答える。
「ああ。だから奴らはただ腕っぷしが強いだけじゃない、絆も強い」
新米の船員は、まだ納得がいかない。
「でも、なんで彼らは海賊なんかに成り下がってしまったんです?」
船長は、深い悲しみを滲ませて続けた。
「彼らはゼノン連邦に報復を願い出たが、王庁府や元老院、七大首長の連邦会議で、全会一致の不戦で話がついたらしい……」
「じゃあ、ゼノンは彼らを見捨てたってことですかい?」
「そういうことになるな…」
「だから彼らは憤っているのさ。ゼノンにも、もちろんゼラフィムにもな」
その時、海賊の一人が声を荒げる。
「おい! お前らさっきから、ごちゃごちゃとうるさいぞ。斬り刻んで魚の餌にでもしてやろうか?」
二人(船長と船員)は恐怖で口を閉ざす。
そんな状況を理解できていないライルは、初めて見る巨大な海賊船に目を輝かせ、夢中になっていた。
「わぁ~スゲーなコレ! 何ださっきのBONって、何かの魔法か⁉」
「ねぇお姉さん、アレに乗せてよ!」
ライルは無邪気にも、シルヴィアに海賊船の方を指差してお願いした。
それを見たエリーとノイマンは、同じタイミングで絶叫する。
「――コラッ! ライル!!」
「――ダメだよ! ライル君!!」
その様子を見たシルヴィアは、大笑いした。
「はははははッ!! 面白いじゃないか坊や! 海賊船に積極的に乗りたがる奴なんて、初めて見たよ!」
「こりゃ冥土の土産話にいいネタができたねぇ。いいだろう、そんなに乗りたきゃ乗せてやるよ!」
シルヴィアは笑いながら続ける。
「ただし、乗ってからビビッて吠え面かくなよ坊主」
弟分のジャックが慌てて問う。
「おい姉御! いいのかよ⁉」
「かまいやしないさ。ジャック、間違いない。あの子だよ!」
シルヴィアの野生のカン(嗅覚)が、そう告げていた。
ジャックが驚いたように声を上げる。
「マジかよ!? あのちんちくりんがぁ!」
シルヴィアはからかうように笑う。
「お前も大して変わりはないだろう」
「あんなガキと一緒にすんなよ、姐御!」
「はははッ!」
ジャックの言葉に、シルヴィアはまたもや大声で笑った。
海賊団の連中が、困惑した表情で小声で呟く。
「姐さんがあんなに笑うの、久しぶりに見たぜ…」
「いったいどうしたってんだい?」
海賊船に向かって進むライルを見て、ヤキモキしたエリーが慌てて詰め寄る。
「あんたねぇ! 勝手に一人で行動するんじゃないわよ! 何されるかわからないんだから! バカじゃないの!」
そう言って、ライルの頬をギューとつねる。
「あ痛たたたたっ! エリー姉ちゃん痛いよぅ! 何するのさッ!」
ライルの悲鳴に、その様子を見ていたジャックがエリーに気づく。
「あれ? お前はたしか、昔バニングにいたよな?」
エリーが戸惑うも、ジャックの顔をよく見ると、幼い頃の記憶が蘇る。
「ジャックお兄ちゃん!? え、何で? ジャックお兄ちゃんも海賊になり下がっちゃったの?」




