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第2章 憤怒の死神編 エピソード3 大海賊の獣人達

ゼノン連邦の最東に位置する港町、バニング。


13年前まで、この地は恵まれた広大な海に囲まれ、漁によって潤っていた。海産物はもとより、真珠や浅瀬から採れる貴重な鉱物資源もあり、全盛期にはゼノン連邦の中でも指折りの交易都市として、連邦にとって重要な商業港であり、採掘場でもあった。


そう、かつては……。


その近海で、一隻の交易船が荒波に揺さぶられている。


ドパーン、ドパーンと、船を飲み込まんばかりの波が何度も押し寄せる。


その船には、ノイマンが都のツテで乗船させてくれたライルたち一行がいた。


「うぇええぇぇぇぇーーーー……!」「おぇっ、うぇえぇぇぇーーーー……!」


ライゼンが豪快に海へ吐いている。


「じいちゃん、大丈夫!?」


ライルが心配そうに、ライゼンの背中を優しくさする。


「大丈夫じゃぁぁぁ~~~! おえぇぇぇーーー!」


ノイマンは「まさか……」という表情で、心配そうにライゼンと、一生懸命に介抱するライルを見守る事しかできなかった。


一人の船員が叫んだ。


「ヤバいですよ、この大時化は! 下手したら難破しかねません! 一度引き返して嵐が静まるまで待ちましょうよ!」


そこに、船長が現れる。


「お前さんは、この海は確か初めてか?」


「はい? それが何か?」


船員は怪訝な面持ちで船長の顔を見る。


船長はキセルの煙草をふかしながら語りだす。


「この海はな、呪われているんだよ。だから、静まることはねえ。13年前のあの日からな」


「ふぅー……」


煙を吐き出す。


「だがな、俺たち船乗りの男たちが諦めるわけにはいかねえ。俺たち海の男から、海を奪われたら何も残らねえからな。だからよ、どれだけ荒れようが、命を懸けて航海するんだよ、俺たち船乗りはよ!」


「死すときは海の中。お前さんも船乗りの端くれなら、覚悟しな」


船員が船長の言葉に聞き惚れている、その時だ。


ゴゥン、ゴゥン!


突如として船底から異音が響き始めた。何かが船体の底を駆け巡るような音だ。


一瞬、荒海が静寂に包まれたかと錯覚した刹那。


ザパァーーーン!


荒波とともに、海の魔物が現れた!


「**スキュラ(海蜘蛛)**だー!」


「全船員、迎撃態勢に入れ!」


「面舵いっぱい! 旋回して振り切るぞ!」


船長は矢継ぎ早に指示を出す。


「クソッ、早速出やがったか……」


「最大船速を出せ! 帆を上げきれ!」


「数が多すぎる……まずいぞ、これは……」


「この感じは間違いなく、近くに深海の主が来ているぞ!」


ノイマンが、事態を理解できずに船長に尋ねる。


「深海の主とは、いったい何なのです!?」


「この海の呪いの元凶さ」


船長は静かに、しかし憎しみを込めて語り始めた。


「あの忌まわしいバニングの悲劇の後、人々の痛みと苦しみに追い打ちをかけるように、13年前のあの日、突如この海にどこからともなく現れて暴れ狂い、数多くの船を海の藻屑に変えてしまったのさ」


「人々はその深海の主を、バニングの悲劇で死んでいった亡霊たちが一つの塊となった悪霊だと恐れたのさ。そして、それ以来この海は荒れ狂い、嵐は鎮まることがないんだ」


「悪いが、この船には火砲は積んでいねえ。速さで逃げ切らせてもらうぜ」


船長は荒波の中、吹き荒れる突風を巧みに利用し、船を逃がそうとした。


その時だった。


前方にひときわ大きな波が押し寄せ、その大波の下から巨大な影が浮かび上がる。


ゴゴゴゴゴゴゴ!


巨大な物体が海の底から這い上がってくるのが分かった。


「まずい、捕まったら最後だ!」


「やつだ! 深海の主・クラーケンだぁーー!!」


船員の一人が絶叫する。


「全員、船体に捕まれぇーーー!」


ドオーーン!!


巨大な触手が船体に直撃する。交易船は大きく揺れ、何人かの船員が海に叩きつけられ、瞬く間にスキュラの餌食と化した。


ライゼンはもはや気絶しており、ライルは必死に彼を抱えながら船体にしがみつくので精一杯だ。


「じいちゃん、しっかりしてぇー!」


ライルが必死に叫ぶ。ノイマンとエリーも、それぞれが自分の身を守るだけで精一杯の状況だった。


船が大きく軋み、破壊される寸前──絶体絶命の危機に。


「ドガァンッ!!」「ドガァンッ!!」「ドガァンッ!!」


三発の火砲が放たれる破裂音が聞こえた。


魔獣クラーケンは、苦悶の叫び声を上げる。「ギュルルル----ン!」


そして、海の底に潜り、逃げていく。


船長が青ざめた顔で呟いた。


「まさか、あの髑髏に死神の鎌をモチーフにした海賊旗は……憤怒の死神か!?」


その海賊船から、無数の龍火鉄と呼ばれる魔弾が、魔銃から放たれる!


「撃てぇーー!」


「ドォンッ!」「ドォンッ!」「ドォンッ!」


一斉射撃が放たれ、クラーケンの触手が撃ち抜かれる。


「雷火砲、用意! 撃てえぇーーー!!」


「ズドォーーン!!」


轟音と共に放たれた大砲が海域一帯に鳴り響く。


スキュラの群れがバラバラに散っていく。


ギギギギ……


大型海賊船が木造の軋む音を立て、ゆっくりとこちらに近づいてきた。交易船の船長は、もはやこれまでかと腹をくくる。


ゼノン連邦の東部の海、全域を実質的に支配する大海賊、それが憤怒の死神・海賊団である。


海賊たちは余裕の表情でぞろぞろと交易船に乗り込んでくる。我が物顔で、船の荷物を物色する有様だ。


海賊の一人が不満そうに言う。「ちっ、大したもん積んでねぇなぁ……。お頭ぁ、この船はハズレだぁ」


海賊団の頭領らしき人物が、ライルたち一行に近づいてきた。


引き締まった、しなやかな筋肉が特徴の黒豹族の女頭領。彼女の名はシルヴィア・ゴルドウィン。かつてバニングの領主を務めていた男の娘でもある。


そして、その隣にいる少年は、バニングの悲劇で実兄を亡くし、戦争孤児になったところをシルヴィアに拾われ、育てられた。副船長のジャック・バーンズである。


ジャックが楽しそうに語りかける。


「いやぁ〜、それにしても千載一遇のチャンスだったね、姉御」


「でも、なんでクラーケンは珍しく海上に現れたんだろう?」


「今までほとんど姿を見せることなんてなかったのにさ」


シルヴィアは暫し沈黙した(何だこの心が安らぐ匂いは?)。


「恐らく、その答えがこの船のどこかにあるのさ」


彼女の野生のカンが、鋭く何かを察しているようだった。

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