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第3章 蒼穹の未来航路編 エピソード1 死神の眼を持つ女

「みんな、集まってくれ」


ライルの声に、ブリッジにいたジャック、エリー、ノイマン、そしてシルヴィアが彼の元へと集まる。彼は航海士とともに海図をみんなに見せながら、真剣な面持ちで口を開いた。


「この作戦は、俺っちの『神気』を囮にする。だけど、それだけじゃ足りない。みんなの力を最大限に引き出すために、もう一度、作戦の確認したいんだよ。」


ジャックが獰猛な笑みを浮かべ、ライルの肩を叩く。

「陽動作戦なら俺様に任せときな!」「一匹たりともスキュラをお前に近づけさせないぜ。」


エリーは静かに、しかし力強く頷く。

「援護射撃は私に任せて、ライル坊やは私が絶対にまもるわ。」


ノイマンが、律儀な口調で口を開く。

「古い文献でクラーケンのような大魔は特定の魔力などに反応すると過去に読んだことがあります。特に、ライル君が放つ神聖な匂いです。しかし、その力は奴を惹きつけると同時に、暴走させる危険もはらんでいます。」


シルヴィアの眼差しが、ライルの体から放たれるかすかな匂いに向かう。

「その『危険』、私には別の可能性に見えるわ。ライルが放つ『神気』は、奴を惹きつけるだけでなく、その動きを鈍らせる……言わば、弱体化させる『毒』にもなりうる、という可能性よ。私の勘が、そう言っている。」


シルヴィアの言葉に、ノイマンは静かに頷く。作戦の成功には、彼の論理と、彼女の直感、そしてライルの力が不可欠だった。


そして、時は現在に戻る。


北海洋の荒波が唸りを上げ、凍てつく風が吹き荒れる中、シルヴィアの旗艦はただ静かにその時を待っていた。ブリッジには、厳しい表情のクルーたちが立ち並び、緊迫した空気が張り詰めている。その中心には、作戦を指揮するシルヴィアの鋭い眼差しがあった。


「各艦、最終確認を。予定通り、狼煙を上げる」


シルヴィアの冷静な声が、各艦に響き渡る。彼女の隣には、例の航海士がいた。彼の視線の先にあるのは、北海洋の深淵、別名「氷絶界」と呼ばれる流氷が漂う海域の海図。バニング領海から遥か北に位置するその場所は、クラーケンと、それにともなう大量のスキュラたちが潜む巣だった。


「クラーケンを誘い込む囮…か。ありがとなライル、危険な役目を引き受けてくれて。」


ジャックがにこやかに微笑む、ライルの肩を叩く。ジャックの隣に立つエリーは、無言で背中の弓を確かめている。ノイマンは、ブリッジの一角で意識を失ったままのライゼンを静かに見守っていた。ライゼンは、船酔いでまだまともに動くことができない。


「作戦の成功には、ライルの存在が不可欠だ。皆、忘れるな。彼が神気を高め、クラーケンを引き付ける。その間に、俺たちが奴らの本体とスキュラを叩く」


シルヴィアは、作戦会議で何度も確認した内容を改めて伝えた。この作戦は、彼らの故郷、そして全てを奪ったクラーケンに挑む、復讐の一手だった。彼らは「大海賊」として恐れられていたが、その真の由来は、ゼラフィム海軍を度々襲いその度に敵艦を拿捕し7隻の艦隊を率いる程の一大勢力にまでのし上がったのだ。その七番艦までが、今、ここに集結している。


「狼煙、上がったぞ!」


見張り台からの報告に、ブリッジにいた全員の顔に緊張が走る。空高く舞い上がった煙が、彼らの決意を象徴するように、北の空へと吸い込まれていった。それは、他の6隻の艦隊への合図であり、同時に、この海域に潜むクラーケンへの挑戦状でもある。


作戦の第一段階、ライルを囮にする段階が始まった。ライルは、神気を高めるために目を閉じ、静かに集中する。彼の体から放たれる黄金色の光が、少しずつ強さを増していく。それは、嵐の海に浮かぶ一筋の希望の光のようだ。


「来た…」


シルヴィアが静かに呟いた。彼女の言葉と同時に、遠方の海面がざわめき始める。最初は小さな波紋だったが、それは徐々に大きくなり、やがて巨大な渦を形成する。


その渦の中心から、無数の触手がうごめき始める。触手の一つ一つが巨大な船ほどの大きさを持ち、海の底から地上へと這い上がってくるかのように見えた。それに続いて、クラーケンの本体が姿を現す。それは、この世の常識をはるかに超えた、巨大な怪物だった。


クラーケンは、ライルの放つ神気に気づき、その巨大な眼を彼に向けた。だが、その眼には、ライル一人だけではなく、彼を狙うように群がる大量のスキュラの姿も映っていた。スキュラは、クラーケンの眷属であり、水の中を自由に動き回る水蜘蛛である。


「奴らの主力が姿を現した!ライルの神気に惹かれて、スキュラも集まってきている!」


シルヴィアの報告に、ジャックがニヤリと笑った。

「最高の舞台だ。かかってこい、タコ野郎!」


ジャックの雄叫びが、嵐の海に木霊する。ライルの神気は、彼らがクラーケンを誘い出すための餌となり、計画は完璧に進んでいた。


クラーケンは、その巨大な触手でライルの船を叩き潰そうと迫ってくる。一方、スキュラたちは、船の側面からよじ登ろうと、無数の化け物たちが群がっていた。


「全員、配置につけ!作戦通り、まずはスキュラを叩く!ジャック、お前は陽動だ!」


シルヴィアの指示が飛ぶ。ジャックは、両手の斧を構え、船の甲板で待ち構えた。

「陽動は得意だぜ!」


ジャックは、船に乗り込もうとするスキュラたちに、容赦なく斧を振るい始めた。彼の猛攻に、スキュラたちは次々と海へと叩き落とされていく。


その間も、クラーケンの巨大な触手は、ライルを狙って迫ってくる。ライルは、ただ静かに神気を高め続け、クラーケンをその場に繋ぎ止める役割を果たしている。


作戦は、まだ始まったばかり。しかし、彼らの表情には、希望に満ちていた。

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