表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/13

第2章 憤怒の死神編  エピソード9 嵐の決闘



バニング領海の沖で、激しい嵐が吹き荒れていた。波は荒れ狂い、中型の交易船を大きく揺さぶる。船はいつ海の底に沈んでもおかしくないほどだった。


「おい、こんなボロ船の上じゃケンカもできねぇ!」

ジャックが叫ぶ。

「仕方ねぇ、俺たちの海賊船に招待してやる。来いよ!」


交易船はクラーケンの襲撃で大破しており、沈没寸前だった。ライルはジャックとのやり取りを忘れ、目を輝かせた。一行と共に海賊船へ乗り込む。


「うわあ、カッコいいなぁ!」

「すげぇ頑丈そうで、強そうだ!」


物珍しそうにあちこち触り、勝手に探索を始めるライルに、ジャックが苛立ちを募らせる。


「おいガキ、勝手に触るな!」

「船内をウロチョロするんじゃねぇ!」


「ちぇ、どケチぃ~」

ライルが拗ねたように呟く。


ジャックの頭に血管が浮かび上がった。(エリーの連れじゃなかったら海に放り投げてるぜ……!)


「ねぇ、この船の名前を教えてよ!」

ライルが尋ねる。


「あん? 船の名前だと?」

ジャックは眉間にシワを寄せる。

「ねぇよ、そんなもん」


「えぇ~! もったいない! カッコいい名前をつけてあげようよ!」


(何がもったいないって? 意味分からねぇ……)


ジャックとライルが話している間に、交易船の全員が甲板に集まった。


「よし、全員乗ったな」

ジャックは静かに告げた。

「昔使ってたバニングの漁港にでも降ろしてやる。黙って大人しく乗ってな」


「ごめんね、ジャックお兄ちゃん」

エリーが申し訳なさそうに言う。


「いいってことよ」

ジャックは優しく返す。

「父ちゃん母ちゃんの墓参りに来たんだろ?」


「うん、そうだよ」


二人の間に重い沈黙が流れた。故郷を襲った日の悲劇が、幻のように蘇る。かつての活気は消え去り、港に広がるのは瓦礫ばかり。潮風は懐かしい香りではなく、悲しみの残滓ざんしを運んでいた。二人の胸の底には、癒えることのない傷が静かに横たわっていた。


ガシャーン! ドタンバタン!


静寂を破るように、船首の方から騒ぎが起こった。

「てめぇ!コラッ、ふざけんな!」


「なんだ、またケンカかよ」

ジャックはうんざりしたように向かう。

「まったく、どうしたんだ?」


海賊団の男たちが、一人の男を取り囲んでいた。交易船の船長が必死に彼を庇っている。


「コイツ、ゼラフィム人だ! 一人だけクソ野郎がいやがった!」

海賊団の男が叫んだ。


騒ぎに気づいたシルヴィアとノイマンも駆けつける。


「おや、困ったことになったねぇ」

シルヴィアが困った様に頭を抱えた。

「まさか、ゼラフィムの人間を乗せちまうとは。こいつはとんだ御笑い様だねぇ」


交易船の船長が弁明する。

「違うんだ、聞いてくれ! コイツは確かに訛りがあるが、純粋なゼラフィム人じゃねぇんだ」

「ゼラフィムに滅ぼされた国の出身なんだ。長年憎しみを抱き続け、仕方なくゼラフィムで暮らしてきただけなんだ」


シルヴィアは男をじっと見つめる。

「どうしたもんかねぇ」


心配になったエリーが声をかけた。

「ジャックお兄ちゃん、許してあげて?」


ジャックの鋭い眼光が男を捉える。


「アンタ、元海軍の水兵だろう」

ジャックは言い放った。

「顔の火傷の跡。レインダー式銃を撃つ時にできるもんだ。銃は貴重な武器だ。お前、将校クラスだろ?」


「だから言ってるだろう、昔の話だ!」

船長が叫ぶ。


「ひぃ~! 勘弁してくだせぇ!」

男が震えながら懇願する。

「もう足を洗ったんです! 家族と平和に暮らしたいんです!」


パァン!


乾いた破裂音が船上に響き、弾丸が船べりを掠めた。


「ジャックお兄ちゃん!」

エリーが叫ぶ。


「うるせぇ! 俺らにはもう、家族はいねぇんだよクソが!」

ジャックが怒りに任せて叫んだ。

「何が平和だ! 俺らの故郷を破壊し尽くして、よくそんなことが言えるな!」


(ちっ、キレちまった。こりゃもうダメだわ)

シルヴィアは内心で呟く。


男は船長に庇われて助かった。危険を感じたエリーも身を挺して男を庇う。


「もう止めて、こんなこと!」

エリーが叫ぶ。


「うるせぇ! 邪魔だ、どけ!」

ジャックはサーベルを振りかぶるが、エリーに阻まれる。勢いあまって振りほどいた拳が、間違ってエリーに当たってしまった。


それを見たライルが激怒する。


「ちょっと待て!」

「てめぇ! 何すんだ、バカ野郎!」


「ライル……?」

エリーが驚く。


「……?」

ジャックも困惑する。


「おや?」

シルヴィアも目を見開いた。


ライルの怒声に、ジャックは冷静さを取り戻し、後悔に苛まれる。しかし、今さら引くわけにはいかなかった。


「ほう…」

ジャックは不敵な笑みを浮かべる。

「この俺とやるか、小僧?」

「さっきはガキのケンカだと思ったが、今度は見過ごせねぇぞ」


「上等だ、コラ! 俺っちがお前をやっつけてやる!」


「ジャック!」

シルヴィアが止める。


「心配すんな、姐御」

ジャックは言った。

「あぁいうガキは一度痛い目に合わせねぇと、世の中の厳しさが分からねぇんだ」


「ライル、あんたいい加減にしなさいよ!」

「いったいどうしちゃったのよ!」


「エリーお姉ちゃんなんか、フンッだ!」

ライルは彼女から顔を背ける。


ジャックは不敵な笑みを浮かべた。

「ルールは簡単だ。負けた方は、勝者の言うことを一つだけ絶対に聞くと誓え。分かったか、小僧!」


「上等だぜ!」

ライルも応戦する。


(どれほどのものか見せてもらおうじゃねぇか。俺たちの大事なエリーを守れる漢かどうかをよ!)

ジャックは心の中でつぶやいた。


ライルは「名無しの刀」を構える。ジャックは「マジックガントレット」から魔刃技を発動する神珠石を外し、ただの金属の篭手で戦うようだ。


「さぁ、かかって来い」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ