(22)
「騙しててごめんね」
「……騙されたなんて思ってねーし」
いつになくしおらしい態度のソガリから出てきた言葉に、カイは一拍置いてから――強がりを言った。
この言葉はソガリを気に病ませないためのまったくの嘘……というわけではなかったものの、カイの本心ではちょっぴり「騙された」という気持ちはあった。
だって、ソガリとボスの「たかが」噂話に、カイの心は荒れに荒れたのだから。
今振り返ってみればひたすら恥ずかしいだけの過去の感情の揺れ動きとは、全速力で距離を置きたいというのが、カイの本心だった。
「そうなの?」
ソガリが不思議そうに瞬きをする。
「何度も言わせんな」
カイは思わず憎まれ口を叩く。
けれどもソガリはカイのそんな態度を見ても、いつも通りの笑顔を浮かべている。
……いや、いつもと比べて、少し意地悪な笑みを浮かべる。
「レノさんとわたしの噂、気にしてたんじゃないの?」
「――ハア?!」
「えー、そうじゃないの? 噂が流れ始めてからわたしのこと露骨に避けてたし」
「避けてねえよ!」
「ええ~?」
カイが否定の言葉を口にしても、ソガリはまったく信じていないような顔している。
「カイって、わたしに気があると思ってたんだけどなあ」
ソガリの言葉に、カイは冷や汗をかくやら恥ずかしいやらで頭の中がぐちゃぐちゃになった。
――と同時に、余裕しゃくしゃくでこちらをからかってくるソガリの鼻を明かしてやりたいとも思った。
「……そうだよ」
「え?」
「お前のこと、意識しまくってボスとの噂を聞いて、ムカついてたんだけど」
「え? ――え?」
「で、お前はオレの気持ちを知ったわけだけど――これからどうしてくれるわけ?」
「そ、それは――」
「お前は、オレの気持ちに応えてくれんの?」
答えの代わりとでも言うように、ソガリの顔がじわじわと赤く染まって行く。
思えば、ソガリの照れた顔をカイは見たことがなかった――が、存外と「いいもの」だという実感を得た。
「馬鹿みてえに顔赤いぞ」
「言わないで!」
攻守交代。あわあわとあわてるソガリに、カイはガラにもなく鼻歌でも歌い出したい気持ちになった。
……しかしこのときのカイは知る由もない。
再び迷宮都市へと戻ってきたソガリから、「ギルドの業務」というストッパーが外れた結果、猛烈な求愛をされることを。
カイがまたソガリに翻弄され、あたふたするのはこれからあとの話――。




