お弁当が表すもの
お昼休みは、クラスメイトの小夜と中庭のベンチでお弁当を食べる。
お弁当を開くと今日も、茶色一色のお弁当が顔を出す。
小夜のお弁当は、色彩豊かな食材で飾られたこだわりが伺えるお弁当だ。器も様々持っているらしく、スープや丼など、バリエーションに富んでいる。
それに比べると、私のお弁当はいつも同じ顔ぶれだ。毎度おなじみの冷凍食品を、配置や量を変えることで誤魔化してある。
幼少期、月に一度食べるのを楽しみにしていた冷凍のカレーコロッケは、飽きるほど食べた。
家族のために働いている母親に文句は言えない。
でも、小夜の愛情溢れるお弁当にうらやましさを抱かずにはいられない。
「いつも思うけど、小夜のお母さんが作るお弁当、美味しそうだよね。」
「ありがとう。でも、瑠夏のも美味しそうだよ。」
「いやいや、冷凍食品を詰め込んだだけだって。」
小夜の顔を見ると、思いの外、真剣な眼差しだった。返事が見つからないらしく俯いて、フワフワなだし巻き卵をつついている。
刺々しい言葉を吐いてしまったことを後悔した。
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「いつも思うけど、小夜のお母さんが作るお弁当、美味しそうだよね。」
「ありがとう。でも、瑠夏のも美味しそうだよ。」
「いやいや、冷凍食品を詰め込んだだけだって。」
自嘲気味に笑う瑠夏に、かける言葉が見つからず、小さく頷いてだし巻き卵に箸を伸ばした。
冷凍食品なのは知っていたし、そのうえで本当に美味しそうだと伝えたかったのだ。
勝手なイメージだが、冷凍食品を使用する母親たちは忙しく働いている人たちだ。
実際に瑠夏の母親は朝早く出勤して、夜遅く帰宅するOLさんだった。一度会ったことがあるが、スーツ姿がとてもかっこよかった。
一方私の母親はというと、時間にゆとりのある専業主婦である。母親同士を比べるのは意地が悪いが、瑠夏の母親はかっこよく見えてしまう。
時間がないなら買い弁でも良いはずなのに、瑠夏は忘れずにお弁当を持って来る。
私にとって冷凍食品がしきつめられたお弁当は、限られた時間でかたちにされた、母親の愛情である。
瑠夏が半分に割ったカレーコロッケを、遠慮がちに私のお弁当に乗せた。それなら、と私もだし巻き卵を半分にして瑠夏に渡す。
顔を見合わせて笑うと、朗らかな気持ちでいっぱいになる。
「明日もだし巻き卵あげるね。」