表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/5

つぎラノエントリー記念SS それはある晴れた日の午後 1 アリスパロ

ふわっとした不思議の国のアリスパロです。

 それはとても晴れた日の午後。

 アリシアと離宮の木陰でおしゃべりをしていた日のことだった。


「あー忙しい忙しい!」


 忙しい忙しい、と口に出しながらロビンがぴょん!と私たちのいる所に現れたのだ。本当にぴょん!って!!

 ビックリした私はロビンに思わず声をかける。だってロビンったら頭にウサギの長い耳がついているのだもの。そんな姿今まで一度も見たことがない。


「ねえ、ロビンどうしたの?どうしてウサギの耳なんてつけているの??」

「ウサギの耳?バカ言っちゃいけませんよ。これは俺のアイディンティティ。白ウサギである証です」

「ロビンは白ウサギだったの??」


 思わず聞き返せば、本物のウサギのように足でタンタンと地面を叩く。

 そしてポケットから大きな懐中時計を取り出した。普段使っている懐中時計の五倍はありそうだ。だってロビンの手からすごくはみでてる。……重くないのかしら?


「ああああ!このままじゃ遅れちまう!!」

「えっ?えっ??」

「俺は忙しいんです!」

「そ、そうなの?引き止めてごめんなさい」


 素直に謝るとロビンはピコピコと白い耳を動かし、もう一度タンタンと地面を足で叩くと走って行ってしまった。その後ろ姿を呆然と眺めていると、隣に座っていたアリシアに腕を取られる。


「アリシア?どうしたの!?」

「ルティア様、行きますよ。今行かなくていつ行くんです!!」

「え?行くってどこに??」

「不思議の国です!!」


 不思議の国って何!?と口に出すより早く、アリシアに引っ張り起こされた。そしてロビンを追いかけて走り出すアリシア。普段の私たちとは真逆だ。


「アリシア、あなたって足早かったのね!?」

「今はロビンさんを追いかける方が先ですよー!」


 何がそんなにアリシアをかき立てているのかさっぱりわからない。ロビンが忙しいのはいつものことだけど……でもそれでもウサギの耳なんてつけないだろうけど。どうしたのかしら?もしかしてロイ兄様と何かあったとか??


 頭の中で色々考えてみるけれど、走りながらだから全く考えがまとまらない。


「アリシア、そろそろ止まらない……?だいぶ、走ったわ」

「ルティア様ここです!」

「え?」


 大きな木の根元。そこにぽっかりと穴が空いている。だいぶ走ったけど、それでも離宮からはでていないはず。私は辺りを見回し、どこにいるのか確認しようとした。どうにも見覚えがない。


「こんなところ、あったかしら?」

「さあさあ行きますよルティア様!」

「アリシア、行くってどこに?ってきゃああああああああ!!」


 ぽんと背中を押され、穴の中に飛び込んでしまう。その穴はどんな作りになっているのか、全く底がわからない。ピューッと音をたてて底に落ちていく。


 落ちる。

 落ちる。

 落ちていく――――


 こんな危険な場所が離宮にあるなんて!上を見上げると光ははるか彼方だ。ど、どうしよう!?慌てて髪留めに手を伸ばす。すらいむの魔術式が入っているこの髪留めなら、悲惨なことにはならないはずだ。


 魔力を流し込み、水のかたまりをだす。たくさん、たくさんあれば大丈夫。思いっきり魔力を流しても問題ない。命の危機なのだから!!


 先に落ちた水のかたまりにザボン、と落ちる。灯りの魔術式を使わなくても周りが明るいのは助かった。なぜ落ちてる途中は暗くて、地面についたら明るいのか?その謎は今は置いておこう。

 隣を見ればアリシアもちゃんといた。良かった。途中で引っかかったりしてなかったことにホッとする。


 すらいむの魔術式を解除して、服を乾かす。辺りを見回しても出口らしいものは見当たらない。これ、どうやって上に戻ればいいのかしら?そんなことを考えていると、アリシアがしゃがんで何かを見ている。


「アリシア、どうしたの?」

「ルティア様、見てくださいこの小さな扉!」

「小さな扉?」


 アリシアに手招きされるままのぞき込むと、確かに小さな扉があった。でもどうやってもそこから出ることはできない。だってサイズがあまりにも違うんだもの!足先を出すのがやっとだろう。


「ルティア様、ここを出れば不思議の国に到着です。ロビンさんを追いかけましょう!」

「ものすごく追いかける気満々なところ悪いのだけど……流石にこの扉からは出られないわ。開いてないし……それにサイズが違うもの」

「いいえ。テーブルの上に鍵があります」

「ええと……だから……」

「そして一緒においてあるこの瓶の中身を飲めば縮みます!!」

「それは本当に飲んで大丈夫なの!?紫……?いえ、どどめ色してるわよ!!」


 私の悲鳴のような声にもアリシアは臆せず、半分こしましょうねーといいながら私の口に小さな小瓶を押し付けた。

 トロリとした液体が口の中に入ってくる。舌に今まで味わったことのない刺激が刺さり、反射的に飲み込んでしまった。するとどうだろう。アリシアの言う通り、体が縮んだのだ。


 見上げるほどに大きなアリシアと、扉のサイズとからして丁度いいサイズに変わった私。アリシアはテーブルの上にあった鍵を指先で摘むと、私の側に置く。流石にそのままは受け取れないものね。

 そしてアリシアも小瓶の中身を煽ると、私と変わらないサイズになった。


「ふふーん!アリスは鍵を手に取る前に小さくなって、色々大変だったけど私たちは大丈夫ですよ!」

「そ、そうなの?」

「あ、でもテーブルの下にある大きくなるクッキーは持っていきましょう。安全に楽しみたいですからね」


 安全に楽しむ、とは?と頭の中に疑問符が浮かぶ。どうやらアリシアは何か知っているようなのだけど……私にはさっぱりだ。多分説明されてもよくわからないかもしれない。

 だってこんな不思議なこと、誰かに説明してもきっと夢だって思われる。


 そんな私の心境なんてまるで気にしていないアリシアは、鍵を手に持ち扉の鍵穴にさす。カチャリと小さな音が鳴り、扉が開いた。アリシアは振り返り私に手を差し伸べる。



「さあ!ルティア様行きましょう!!」



 ***


 誘われるまま外に出れば、黒いお仕着せの裾に白い耳が見えた気がした。

 あれはロビン?そんなことを考えていると、アリシアが私の手を握り走り出す。


「追いかけましょう!」

「お、追いかけるってロビンを?」

「そうです。白ウサギロビンさんを追いかけるんです!!」


 白ウサギロビンって何だか変な感じ。そんなことを思いながら、アリシアと一緒に走り出す。するとまわりからザワザワと話す声が聞こえ出した。


『あらイヤだ。雑草?』

『それとも新種?』

『わからないけどちょこまかしてるわ!』

『なんだかイヤね!』

『イヤね』

『イヤだわ』


 話し声は聞こえども姿が見えない。なんだか昔離宮にいた侍女たちを思い出す。ヒソヒソ、ヒソヒソと私の顔を見ながらみんな蔑むような視線を向けてきた。


 私は彼女たちに何もしていないのに。どうしてみんなそんなイヤなことをいうのかしら?

 離宮の侍女の中でユリアナだけが私の側にいてくれた。ロビンはロイ兄様の側を離れられないし、だからといって私はロイ兄様の宮では暮らせない。一人一つの宮で暮らす。それが決まりだから。


 みそっかすの姫。ハズレ姫。どうして私たちが……


 そんな言葉が毎日のように聞こえてきた。でもなにかいじわるされているわけじゃない。ご飯だって、寝る場所だってある。

 ただ、悪口をいわれるだけ。仕方ないのかな?これは仕方ないことなの??


 ヒソヒソ、ヒソヒソ。

 ザワザワ、ザワザワ。


 声がだんだんと大きくなる。それは彼女たちの声と同じだった。

 忘れていた記憶がよみがえる。


「もうイヤ!やめて!!」


 思わず大きな声で叫ぶと、私の前を走っていたアリシアがピタリと足を止めた。急に止まるものだから私はアリシアの背中に顔をぶつけてしまう。


「あ、アリシア?ごめんなさい。あなたにいったわけじゃないの……」

「大丈夫です。わかってます。あの花たちが悪いんです!」

「花?」


 いわれて辺りを見渡せば、大きな花がヒソヒソと話をしていた。


「は、花って……しゃべるの!?」

「そこじゃありませんよ。ルティア様。ともかく私は怒りました!」

「え?」


 いうが早いか、アリシアはポケットに入れていた何かを取り出し口に入れる。もしやそれはさっき話していたクッキーだろうか?大きくなるというクッキー……

 そんなことを考えていると、アリシアの体がグングン大きくなっていく。


「ルティア様を悪くいう花はこうです!!」


 ブチブチと花が手折られていく。それはちょっとかわいそうなんじゃ……と声をかける間もなく、おしゃべりな花たちはピタリと黙ってしまった。手折られてまで悪口はいいたくないようだ。


 呆然と見ていると、アリシアは拳を高く上げて「私の勝ちです!」と誇らしげにいう。


「あ、アリシア……?」

「はい。なんですか?」

「あなた、そのサイズだと困らないかしら?」


 なるべく聞こえやすいように叫びながら話しかける。するとアリシアは「あああああっっ!!」と叫びながら膝をついた。間一髪のところで避けられたけど、これはなかなかに危険だ。


「くっ……怒りに我を忘れて……でも後悔はないんですけど!」


 花が悪い。花が悪い。とブツブツ呟きながら、私をチラリと見下ろす。そしてそっと私に手を差し出してきた。これはこのまま手に乗ればいいのかしら?靴のまま乗っても大丈夫?と考えていると、笑い声が聞こえた。


 さっきまで話をしていた花の声ではない。それにこの声を私はよく知っている。

 笑い声のする方を向けば、そこには――――


 頭には猫耳。フサリと豊かなしっぽを垂らし、木の上でくつろぐロイ兄様がいた。

次にくるライトノベル大賞2024の本投票にノミネートされました!ありがとうございます!!

本日より12月5日17時59分までお一人三作品投票可能です。ぜひ投票していただけると嬉しいです。

アリスパロの続きは結果発表の2025年2月23日まで不定期更新します。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ