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レスター視点:幸せを紡ぎあう未来へ3

 休みのうち2日間は、まだ疲れているだろうソフィアのためにゆっくり屋敷で過ごし、今日は3日目。

 ソフィアも希望してくれたので、昼食を持って魔の森へ行くことになった。


 オルフィルド邸がある場所は魔の森に程近い。天馬で空に飛び立つと広大な森が目に飛び込んできて、ソフィアが感嘆の声をあげる。


「レスター様の仰っていたように、本当に豊かな森ですね。王都で本を見た際には、あまりそういった印象を受けなかったのが不思議です」

「どちらかというと、恐ろしい森であるように書かれている方が多いだろう?あまり豊かであることを強調して、森を荒らされては困るからな。貴族間の噂にはのぼるが、書籍に残ることは少ない。それでも情報を得て、悪意を持って森に踏み入る者はいるから、対魔部隊だけでなく軍から手配する対人用の部隊も常駐している」

「そうだったのですね…」


 目を丸くするソフィアが可愛くて、自然と笑みが浮かぶ。


「本当の森がどんなものか、今日その目で確かめてみてくれ。そろそろ降りるから、掴まって」


 そう言って、天馬に森の中へ降りるよう指示を出す。私が時折訪れるその場所を天馬もよく分かっていて、スムーズに着陸体勢に入る。

 どこへ降りるのか不思議そうにしていたソフィアは、やがて目的地が見えてくるとハッと息を呑んだ。


 森の木々の隙間。ぽっかりと空いた空間には、ふわりふわりと微細精霊が舞う。そして上空から見える地表は、その一面真っ白な花で埋め尽くされていた。まるで雪に覆われたような艶めく白さは、何度見ても美しい。


 天馬が、徐々に高度を下げて。やがて、いつもよりも優しくそこに着陸する。

 しかしそれでも繊細な花はパッとその花びらを散らした。微かな風圧に舞い上がる白い花弁は、地に落ちるまでを目で追ってしまうほど、儚い美しさでこちらを魅了する。


「美しいだろう?」


 言葉を失ってしまったソフィアにそう声をかけると、少しして、ゆっくりと頷いてくれた。


「はい。ずっと見ていたくなってしまいます」

「ここは、以前魔が生じた場所なんだ。魔は木を枯らしながら進むが、ここは精霊が多いから再生も早い。そして精霊の遊び心なのか、再生の際その一部をこうした花畑にすることがある」

「精霊の…」

「実は繊細そうに見えて、多少踏んでもまたすぐに花を咲かす。さあ、降りよう」


 まず自分が白い花の絨毯に降り立つ。そして、またパッと散った花びらに目を丸くするソフィアに、手を差し伸べる。

 少し躊躇ってからこちらに身を寄せたソフィアを抱き下ろすと、それを待っていたかのように、天馬はのんびりと花を食べ始めた。


「天馬は、このお花が好きなのですか?」


 その光景に目を丸くするソフィアに、笑って答える。


「どうやらそうらしい。ここにくると、天馬は大体食事を楽しんでいるな」

「ちょっと驚きました…」


 まじまじと天馬の食事風景に見入っているソフィアだったが、不意にその髪に光るものがとまった。


『オルフィルドの子の運命ね』

『まぁ!いいわ。とてもいいわ』

『よく来たわね。貴女もお花を食べてもいいのよ』

「えっ⁉︎」


 わらわらと寄ってきてしまった精霊に、ソフィアが驚いて声を上げる。

 エルダン領にいた精霊達とは違い、ここにいる精霊は力が強くお喋りなものが多い。子供の掌くらいの半透明な光の人型、その背で震える2対の羽までもはっきりと見える。


 そして髪の長い女性が来るのが珍しいためか、精霊達はソフィアの艶やかな栗色の髪を一房持ち上げては離して、持ち上げては離してと、遊び始めた。されるがままになっているソフィアには悪いが、とても心癒される光景だ。


「お花、食べられるんですか?」

『ほんのり甘いの。甘く作ったの』

『ちょっとだけ疲れも取れるわ。すごいでしょ』

「美しいうえ、甘くて疲れも取れるのですね。こんなに素敵なお花は初めて見ました」

『そうでしょう!そうでしょう!』

『あなたっていい子。いい子ね」


 キラキラと精霊達が嬉しそうに輝くのを見て、ソフィアも楽しそうにしている。

 そして、精霊が渡してきた花を素直に口に入れて、美味しいですねと笑うのに、精霊達もまた盛り上がっている。


 やはりソフィアは精霊に好かれやすいらしい。

 花畑で精霊と戯れるその光景は、とても平和で愛しむべきものだ。しかし、せっかくソフィアとの久しぶりのデートなのに、ずっと精霊達にソフィアを取られるのも面白くない。

 しばしソフィアと精霊達との交流を見守ったあと、タイミングを見てそっとソフィアを自分の方へと抱き寄せた。


「ソフィアを歓迎してくれるのは嬉しいが、今日は久々のデートなんだ。そろそろ彼女を返してもらえるか?」

『あらあら。仕方がないわね』

『しっかりと愛を伝えるのよ』

『貴方達の愛はとても美味しいわ』

『美味しかったわ。ごちそうさま』


 口々に言葉を残して、すっと精霊達が素直に身を隠していく。やっと二人に戻れて一安心だ。


「美味しかった?」


 精霊達が残した言葉に不思議そうに首を傾げるソフィアは、ところどころ髪に半端な三つ編みを作られている。とりあえず精霊に遊ばれて乱れている髪を、優しく手櫛で直したのだった。




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