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レスター視点:幸せを紡ぎあう未来へ2

 結局、魔の討伐には合計4日半かかった。


 だが討伐の帰還翌日から3日間は確実に休みだ。もう近くまで来ているかもしれないが、ソフィアを迎えに行きたい。

 楽しみにしながら天馬でオルフィルドへ帰っていると、後ろに乗せているフェルドがぐったりした声を出した。


「レスター様、なんでそんなに元気なんですか…」


 最近加護を得たフェルドは、魔に対すること自体初めてだった。最初は皆、本能的な恐怖をもたらす魔に近づくことさえ苦労するものだ。だから王都の武器庫も、距離をとって戦える投擲用の槍と弓矢が揃えられている。


「恐ろしかったか?」

「恐ろしかったし、疲れました…。あの黒い巨大なナメクジみたいなのが、夢に出てきそうです。うぅ、加護をくれた精霊のためにも、もうちょっと精神面も肉体面も鍛えた方がいいかもしれません…」

「そう思えるのであれば大丈夫だ。恐怖はいずれ慣れる。山中訓練は、確かにもう少し増やしてもいいかもしれないな。傾斜のある歩きにくい場所は、思ったより体力を削られるだろう」

「もうクタクタです…」

「落ちないようにだけ、気をつけてくれ」

「がんばります…」


 くったりしたフェルドに心配になるが、それを察した天馬が飛行の速度を落とす。ありがとうの意味を込めてそっとその背を叩いて、後ろに注意を向けながらゆっくり帰還することにした。






 フェルドを送った後、夕方には無事にオルフィルド邸に帰りつき、久しぶりに体をさっぱりと洗う。明日はソフィアに会う予定なのだから、しっかり綺麗にしておきたい。


 そう思って念入りに全身を洗って着替えを終えたところで、なんだか屋敷がざわついていることに気がついた。

 不思議に思っていると、使用人が慌てた様子でこちらに近づいてくる。


「レスター様、ご用意がお済みでしたらエントランスの方へお越しください。間も無くエルダン伯爵令嬢がお着きになると、先触がございました」

「ソフィアが⁉︎」


 慌ててエントランスへ向かうと、ひと足先に帰り着いて身支度も終えた父と、色々と指示を飛ばしている母がそこにいた。


 ああ、もうすぐソフィアがここにくるんだ。


 そう思うと居ても立っても居られず、衝動のまま外へ飛び出してしまう。ソフィアはどこだろう。早く会いたい。まだ馬車の姿は見えない。ああ、大人しく待つべきか、迎えに行くため馬を引いてくるべきか。


「レスター。到着までそんなに時間はかからないと思うから、大人しくお待ちなさい」


 迷って無駄にウロウロしていると、後から外へ出てきた母に諭されてしまった。

 そわそわした気持ちをなんとか抑えて大人しくしていると、やがて一台の馬車が敷地へと入ってくるのが見えた。


 その馬車が近づいてくるのが、やけに遅く思える。

 そしてようやく出迎えの皆の前に、馬車が止まった。その扉が開けられるのを固唾を飲んで見守って…。


「ソフィア!」

「レスター様…」


 その姿が見えた瞬間、堪らず駆け寄った。馬車の中にいるソフィアは驚いたように目を丸くした後、優しく表情を和らげた。


「ご無事だったのですね」

「ああ、何事もない。迎えに行けずすまなかった」


 手を差し出すと、彼女がその手を取って馬車を降りる。彼女がここにいる。この、オルフィルドの地に。


「よく来てくれたね、ソフィアさん。待っていたよ」


 じん、と感動していると、父が朗らかに声をかける。それを受けて彼女は、静かに一歩前へでて両親へと礼をした。


「本日よりお世話になります。至らぬ点も多いかと存じますが、精一杯尽くしますので、何卒よろしくお願い申し上げます」

「ふふ、そんなに畏まらなくていいのよ。しばらくはここに慣れるのに専念して頂戴。悪かったわね、急がせてしまって」

「いえ、私も落ち着きませんでしたので…」


 そう言ってソフィアがこちらに視線を向けたことで、気がつく。荷物を積んだ馬車はここへ到着していない。きっと彼女1人だけ、急いでこちらへ向かってくれたのだ。

 胸がいっぱいになって、思わず後ろから彼女を抱きしめてしまう。


「ソフィア、貴女に会えて嬉しい。頑張った甲斐があった」

「レ、レスター様!」


 腕の中でソフィアがあたふたしているが、可愛いだけだ。ますますぎゅっと抱きしめていると、母がごめんなさいね、とソフィアに言葉をかける。


「さっき討伐から戻ったばかりなの。明日から3日は休みだから、レスターのご褒美役に専念してもらえるかしら。今後の話はその後にしましょう。どうせレスターに邪魔されてお話にならないもの」

「あ、あの…っ」

「うむ、仲が良くて何よりだ。身の回りのものはレスターが揃えている。あとで部屋に案内してもらいなさい」

「は、はい。ありがとうございます」


 父がソフィアに声をかけたことで気がつく。彼女は急ぎの旅をしてきたばかりだ。疲れているだろうし、早く部屋に案内した方がいいだろう。

 そう思い、彼女の体をサッと横抱きにする。


「きゃっ」

「すまない、疲れているだろう?すぐ部屋に案内する。足りないものがあれば遠慮なく言ってくれ」

「自分で歩けます!」

「私が運ぶ方が早い」


 ソフィアの抗議を流して、屋敷の中へと足を向ける。


「皆、あの通りレスターの大事な人よ。くれぐれも丁重に扱いなさい」


 母が使用人にそう声をかけているのを背に、ソフィアのために整えた部屋へと向かった。


 ドアを開けてくれた使用人に飲み物を頼んで、ソフィアを二人がけのソファにおろす。そこで我慢の限界が来て、愛しい婚約者に自分の唇を重ねた。


「っ、レスター様…」

「ソフィア。ずっと待っていた。私のところに来てくれて、ありがとう。心から嬉しく思う」


 そう告げると、間近にあるサファイアの双眸がさっと輝く。


「私も。迎え入れてくれて、ありがとうございます。一緒に過ごせるのを楽しみにしていました」

「ああ。貴女に見せたいものが沢山あるんだ。落ち着いたら、二人で出かけよう」

「はい、是非」


 その笑みに誘われるように、再び唇を重ねる。

 新しい幸せの始まりを感じて、胸がいっぱいになった。





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