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レスター視点:最悪の出会いから8

「ああ、ソフィア。とても綺麗だ」


 自分が贈ったドレスを纏ってくれているソフィアに、どうしようもなく嬉しくなる。先日揃いで購入した指輪もその指に光っていて、不安の大きかった心に少しだけ自信が湧いてきた。

 一緒に舞踏会場へ向かう馬車の中で、自然と出会った日の事に話題が及んで胃の痛い思いはしたが、ソフィアが笑ってくれて救われたし、好きだと告げるこちらの言葉に顔を赤らめる様子には、期待が込み上げてきてしまう。


 そんな幸先の良いスタートで得た良い予感はしかし、会場に到着し、公爵に挨拶に向かった先で待ち構えていた第二王子殿下の姿を見た途端、跡形もなく崩れ落ちた。


「後でゆっくり話してもらうからな」


 なんとか動揺を抑えて挨拶を終えた後に殿下に言われた言葉が不穏すぎる。

 後とはいつだ?まさかこの後呼び出されるのか?まだソフィアに何も告げていないのに。


 内心穏やかではなかったのだが、二人で踊った初めてのダンスは、控えめに言って最高だった。あっという間に余計なことは頭から消え去り、楽しそうにきらめくサファイアの双眸に心が全て持っていかれる。


「貴女はダンスも上手なのだな」

「お上手なのはレスター様の方です。おかげで、今まで生きてきた中で一番上手に踊れている気がします」

「こちらを喜ばせるのも上手い」


 くすくす笑い合いながら踊ると幸せが込み上げてきて、こんなに楽しいならまた舞踏会へ来るのもいいかもしれない、なんて呑気な思いが頭を過ぎる。


「もう一曲と行きたいところだが、予定通り先に挨拶に回ろう。喉は渇いていないか?」

「はい、大丈夫です」

「では行こうか」


 その手をとって会場を移動しようとした瞬間、パンパンと拍手の音が響いて、浮かれていた心が一気にどこかへ消えていった。


「殿下」

「二人ともお似合いだね。ダンスも息がピッタリじゃないか」


 にこやかに微笑みながら近いてきた殿下に、ポンと肩を叩かれて震える。


「二人の婚約を祝福するよ。レスター、女性の喜ばせ方が知りたいなら、いつでも相談に乗るからね」


 周りに聞かせるようにそう言った殿下は、すれ違い様そっとこちらの耳へ言葉を吹き込んだ。

「だから挨拶に区切りがついたら、奥へ来なさい」と。


 やはり、今日殿下が来たのはそういう意図だったのだ。わざわざこのタイミングで手紙を送ってきた時点で、気がつくべきだったのに。


「手助け、してくださったのでしょうか」


 悔やんでいると、ソフィアがポツリと言葉を漏らす。


「そう、だな。とりあえず挨拶に回ろう。後で、少ししなくてはならないことができた」

「え?」

「悪いことではない。少なくとも、貴女にとっては」


 そう言ったこちらにまっすぐに視線を合わせた彼女の目が、心配そうな色を帯びる。


「レスター様にとっては、悪いことなのですか?」


 そう聞かれて、言葉に詰まる。よくない想像ばかりしているが、今のソフィアの様子から予想すると、違う結果が得られるのではないだろうか。そう思うと、少しだけ気が楽になった。


「いや、よく考えたら私にとっても良いことかもしれないな。ソフィア、ありがとう」

「?」


 礼を言って、ソフィアを挨拶巡りに連れ出す。殿下の言葉もあり、友好的な言葉と共に挨拶へと訪れてくれる者が多数だったが、やはりソフィアは慣れない状況に疲れた様子だ。


 一区切りがつき、渡した飲み物をぽぅっとしながら飲んでいるソフィアの髪を撫でる。さらに疲れる状況に彼女を置かねばならないのは心苦しいが、あまり殿下をお待たせするのも良くない。


 そっとソフィアに殿下からの呼び出しを告げて、重い足取りを隠すように会場の奥へと移動したのだった。


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