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一生ものの心の傷

 舞踏会の翌日。


 最近の騒動でなかなか足を運べなかった王立図書館で、朝からずっと書籍に埋もれていた。

 去年まではシーズン中に首都へ来ても、弟と2人で舞踏会を無視して図書館に入り浸るのが常だったが、今年は婚活に力を入れるために図書館断ちしていたのだ。


 けれど、レスター様という婚約者に恵まれたことに加え、魔やオルフィルド領近辺についても知識を蓄えておきたかったので、はれて図書館通いを解禁することにした。

 専門書は需要が少ない分単価が高く、買い求めると結構な出費になるので、それを無料で読める図書館の存在は本当に有難い。


 ちなみに、婚約者の見つからない弟は留守番である。だから一人きりで思う存分、知識の収集を行っていた。


「随分と熱心ね。もうお昼過ぎよ?どうせまだ食事もとっていないんでしょう」


 気になる書物に片っ端から目を通していると、あっという間に時間が過ぎる。急に声をかけられて顔を上げると、呆れ顔のエミリアがいた。


「その通りよ。エミリアは?」

「貴方と違ってきちんと時間通りに頂いたわ。でもデザートを食べるくらいの余裕はあるわよ?近くのカフェで話さない?」

「そうね。片付けるから少し待っていて」


 手早く並べていた書物を片付けてエミリアと訪れたのは、何度か訪れたことのあるカフェだった。


 去年までもたまにこうして、図書館に入り浸る私達をエミリアは食事に誘ってくれたりしていたのだ。一年ぶりなうえ、最近の変化が目まぐるしかったので、少し懐かしささえ感じてしまう。


 席について私は軽食を、エミリアは先ほどの言葉通りデザートを注文をして一息つく。と、エミリアが、昨日のことだけど、と切り出した。


「私の言葉であの人を煽ったみたいになったでしょ?オルフィルド卿が収めてくれなかったらと思うと、ゾッとするわ。本当にごめんなさい」


 しょげた様に謝られて、少しびっくりしてしまう。


「え?そんなの気にしないで。あの男があの場で騒ぎを起こすなんて、さすがの私でも思わなかったもの」

「そういってくれると慰められるわ」

「むしろ私こそ巻き込んでしまって申し訳なかったわ。十分助けてもらったし、感謝してるの。旦那さんにも、謝罪とお礼をお伝えしておいてね」

「実はあの人も、オルフィルド卿から頼まれてたのにあんな騒ぎになっちゃって、ちょっと落ち込んでたのよ。ありがとう、伝えておくわ」


 肩の荷が軽くなった様に微笑むエミリアに、申し訳なさが沸々と込み上げてくる。完全にこちらのトラブルに巻き込んだ形なのだから、どうか気にしないでほしい。今度何か手紙と一緒に美味しいものでもお送りしよう。


「それにしても、オルフィルド卿は流石だったわ。貴女たちが帰った後も、みんなオルフィルド卿の溺愛話で盛り上がっててね。全力で恋人を守る様が素敵だって。お陰で、あの人は完全に勘違いの横恋慕男って見なされてたもの」

「そうなの…」

「ついでに、貴女たちの婚約はオルフィルド卿が失態の責任を取るためだけに渋々申し込んだのでは?なんて噂もあったのだけれど、それも綺麗になくなったわね」

「怪我の功名ってやつかしら」


 ルセウス卿とのことが変に噂にならずに済んだ様でホッとする。レスター様に守られたことを改めて感じて、思わず表情が緩んだ。


「昨日も思ったけど、貴女ももうすっかり恋する乙女ね。あの方が相手なら納得だけど、オルフィルド卿の方も随分貴女に惚れ込んでいるみたいだったし、2人とも幸せそうで私も嬉しくなるわ。

 惚気ならいくらでも聞くわよ?というかいい機会だし、出会いから今まで詳しく話してちょうだい」


 そうしてキラリと目を輝かせたエミリアに問われるまま、話せる範囲で今までのことを話した。


 振り返ると二人で過ごした時間は長くないのに、沢山のことがあった気がする。環境の変化も気持ちの変化も目まぐるしくて、あの出会いから1年くらい経っている気さえした。


「まあぁ、結婚宣言されたって噂で聞いたときにはどうなるかと思ったけど、あんなに素敵な人に一途に請われたら、流石のソフィアでも落ちてしまうのねぇ」

「私でもって、そんなに意外?むしろあの人に請われて抗い切れる人なんているかしら」

「普通はないかもね。でも、結婚宣言なんてする人の妻になりたくないって、そうソフィアが嘆いてたらどうしよう、とも思っていたのよ」


 そういうの好きじゃないでしょ?と首を傾げるエミリアに、そうねと首肯する。


「でも故意ではなかったみたいだし、ちゃんと謝罪してくれたしね。というか、レスター様ってずっと下手に出てくれてて、私以上にその事を気にしている感じがして、もうあまり責められないわ」

「普段のオルフィルド卿からは考えられない行動だものね。私がそんな失態を犯してしまったら、一生ものの心の傷になるわ」


 エミリアにそう言われて、心の中で同意する。自分がそんな事をしでかしてしまったら、一生領地に引き篭もって出てこないだろう


「始まりはともかく、今は大切にしていただいているし、認められる喜びを教えてもらったの。私には勿体無いくらいにいい方よ」

「ふふ、ならソフィアもオルフィルド卿を大切にして差し上げなさいな。恋人でも夫婦でも、お互いの思いやりが大切よ」

「そうね。先輩のご助言は胸に刻んでおくわ」


 二人で笑い合って、その後も恋愛話に花を咲かせたり、エミリアの近況について聞いたりするうちに、運ばれてきた軽食も、追加してしまったデザートも食べ終えて、紅茶を片手に尽きない話を楽しんだ。


 いつの間にか、お代わりした紅茶も飲み干していて、流石にそろそろお店を出た方がいいタイミングになる。


「貴女の相手がオルフィルド卿で本当によかったわ。結婚したら領地も近くなるし、今までより会いやすくなるのが楽しみね」

「エミリアが近くにいると思うと心強いわ」

「じゃ、そろそろ遅くなるし帰りましょうか。ここは私の奢りね?昨日のお詫び!」

「ふふ、お気遣いありがとう」


 たくさんお喋りして、とても晴れやかな気分になっていた。


 エミリアと笑顔で別れて、2人への贈り物は何が良いかを考えながら、その日はそのまま真っ直ぐ家に帰ることにした。




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