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伝わって、いないか?

「ああ、ソフィア。とても綺麗だ」


 初めて2人で出席する舞踏会の日、迎えにきてくれたレスター様は、私をひと目見ると相好を崩した。


 今日の私は、レスター様から贈られた淡いグリーンに金糸の刺繍があしらわれたドレスに身を包んでいる。そして、舞踏会には少し地味ではあるが、先日買っていただいた揃いの指輪をつけていたのだが、レスター様も同じように身につけてくれていてほっとする。

 そんな彼は、金糸の刺繍が華やかな紺色のコートを着こなしていた。


「レスター様も、とても凛々しくお似合いですね」


 艶やかな金髪を後ろに撫でつけている彼は、鮮やかなエメラルドの虹彩がより印象的に映る。

 差し出された手をとってまじまじ見つめていると、うっすら頬を染めた彼は、早口に私の両親に挨拶すると、私を馬車へと誘ったのだった。



 シーズン中の舞踏会は、王家より主催を打診された貴族がその責務として会を開き、人々に交流の場を提供するものだ。そのためほとんどが資産の潤沢な上位貴族が主催し、エルダン家のようなさほど裕福でない家は招待状の送られてきた舞踏会に出席させてもらう形になる。


 オルフィルド侯爵家は多忙を理由に舞踏会の主催を免除されているため、主催となることは稀で、仲のいい家の会にたまに顔を出す程度らしい。

 そう聞くと、よくあの日同じ舞踏会に出席していたなと思ったが、なんと私がその舞踏会に出席すると聞いて、急遽参加したとのことだった。


「えっと、少し驚きました」

「貴女は今までシーズン中の舞踏会に出席しなかったから、近隣領の者と縁を結ぶ予定なのかとも思っていたんだ。だがそんな様子もないまま、今年は急に積極的に舞踏会に出ていたので、なんとか縁を持てればと。すまない、完全に不審者だな」


 馬車の隣でバツが悪そうに視線を逸らしてしまった彼を見て、くすりと笑う。

 なるほど、領地経営知識のありそうな人材を見つけたと思ったら、デビューだけして全然社交界に出ない引きこもりだったから、困ってしまったのだろう。


 シーズン中、舞踏会に積極的に出席する未婚の子女は多くが縁付く相手を探しているが、裏を返せば出席しない者は既に相手の目星がついている場合がある。

 きっと色々エルダン家を下調べしていたのだろうが、下調べを終えても近付くべき相手が出てこないので、次の手を打ちあぐねていたのだろう。


「それで、あの舞踏会で結婚宣言を?」


 正直、人前で結婚宣言をされるくらいなら、普通に婚約を打診してくれた方がよかったのにと思う。


「いや、実は何度か同じ舞踏会に出ていたのだが、恥ずかしながら話しかけられず。あの日の舞踏会も、貴女に話しかけるタイミングを探っている間に人に囲まれて、主催家の令嬢に勧められた酒をやけになって一気に干してしまったら、予想外に強い酒だったようで、その、あのような事に」

「っ、ふふふ」

「情けなくてすまない」

「いいえ、色々疑問が解けました」


 レスター様の事をだんだんわかってきた今、逃げ場をなくすために結婚宣言なんて彼らしくないなと思っていたが、恋する令嬢の罠にかかって違う方向に暴走した結果らしい。


「貴女を望んでいたのは事実だが、こんな風に追い詰めて結婚を迫るつもりではなかったんだ。むしろ、貴女を誘拐したと自覚したときは、人生が終わったかのように感じた」

「私もすごく驚きましたし、混乱しましたが、今ではよかったと思っていますよ」

「そう言ってもらえると慰められる」


 弱々しい笑みを浮かべたレスター様だが、ふと真面目な顔つきになった。


「もうそろそろ会場に着く頃か。色々噂になっているだろうが、婚約の事実を知らしめれば遠からず興味も薄れると思う。一通り挨拶を終えたらゆっくりできると思うが、できるだけ私から離れないようにしてほしい」

「わかりました」

「あと婚約の理由として、私が、その、貴女に惚れて、結婚を迫ったことは隠さずにおこうと思う。誤った噂が流れても困るから」


 そう恥じらいながら言われて、一瞬言葉に詰まった。


「そう、ですね。領地経営云々を表には出せないでしょうし、そう理由付けた方が不自然になりませんね」

「理由付けというか、本当のことだから。ずっと前から貴女が好きだ。伝わって、いないか?」


 そう小首を傾げながら問われて、一気に顔が熱くなってしまった。


 確かに、レスター様から好意的な言葉や態度をもらっていて、初めに思っていたより好かれているかも?と思うことはちょくちょくあった。

 だが、改めてこうして明確に言われると、すごく心臓がドキドキしてしまう。きっと顔も真っ赤だ。


 言葉を無くしてしまった私を見て、レスター様は優しく笑った。


「私も早く、貴女に好きになってもらいたい」


 その言葉に、きっとレスター様が思うより、そして自分が自覚するより、私はレスター様の事を好きになっているんだろうなと思ったけれど、結局口にできないまま会場へと到着してしまったのだった。

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