ぽぽちゃんの大事なおともだち
ぽぽちゃんは、くるんちゃんを探していました。
ずっとずっと探しているけど、どこにもみあたりません。
机の下にも、ぬいぐるみのくまさんの後ろにも、ベッドの隙間にも、おかし袋の中にも……。
ぽぽちゃんは悲しくなりました。だって、どんなに探してもピンク色の髪のおともだちが出てきてくれないのです。
ねこさんに聞いても、かばさんに聞いても、誰も知りません。おねえちゃんに聞いてみたら、
「大事にしてなかったからじゃない」
と言われて、もっと悲しくなりました。
だって、ぽぽちゃんはくるんちゃんのことが、誰よりも誰よりも、大好きだからです。
二人はいつもいつも一緒でした。
一緒にごはんを食べて、一緒にお布団に入って……お風呂とトイレは待っててもらったけど、公園に遊びに行く時も、動物園に行く時も、いつもいつも一緒でした。
いつもいつも一緒にいるから、くるんちゃんはボロボロでした。ピンクの髪はめちゃくちゃにからんでいて、服は無人島でずっと生活したみたいになっていて、ほっぺたも茶色くて、からだの全体がゆるんでしまって、もう立つこともできません。
……それでも、ぽぽちゃんは、くるんちゃんのことが大好きです。
おねえちゃんが言いました。
「大事にしてないからボロボロになるんだよ」
……そうだったのでしょうか。だから、くるんちゃんはぽぽちゃんと一緒にいるのがイヤになってしまったのでしょうか。
おねえちゃんにも、りりんちゃんがいます。
とってもとっても大切なりりんちゃん。とってもとっても大切だから、りりんちゃんはいつも引き出しのベッドで寝たままです。一緒にあそぶ時もとっても大事にしているし、大事だからどこにも連れてはいきません。だって、りりんちゃんは大切なおともだちだからです。どこかがほつれたり、からんだり汚れたりするのはぜったいにイヤでした。
だから、りりんちゃんはぴかぴかです。おうちに来た時と同じロングのおさげはつやつやしているし、ドレスだってキラキラ。今からパーティが始まったって大丈夫。
美人のりりんちゃんが、おねえちゃんはとってもとっても、大好きなのです。
ぽぽちゃんは泣き出してしまいました。
あたしが大事にしなかったから、くるんちゃんはイヤになっちゃったんだ。大事にしてくれる子を探して旅に出ちゃったんだ。
それでも、ぽぽちゃんはくるんちゃんを探し続けました。泣きながら、とだなの中も、リュックサックの中も、押し入れの中だって……。
それでも、くるんちゃんはどこにもいません。
そのまま夜がおとずれ、ぽぽちゃんは眠くなってしまいました。
いっぱい探して疲れたのでしょう。まぶたが重くてフラフラします。それでも探しているうちに、ぽぽちゃんはいつのまにか、おうちではないところに来ていました。
ここはどこでしょう。みたこともない森の道です。いろんなぬいぐるみが歩いています。
おさるさんも、ペンギンさんも、ゾウさんも……よく見れば、みんなボロボロです。
からだから綿が飛び出していたり、鼻が取れていたり、尻尾がだらんとしていたり……。
そのボロボロの中に……くるんちゃんが歩いていました。
「くるんちゃん!」
ぽぽちゃんは必死でくるんちゃんを呼びます。くるんちゃんは気が付きません。だけどぽぽちゃんはそんなくるんちゃんを背中から抱き上げました。
「くるんちゃん、ごめんね! あたし、くるんちゃんのことを大事にしなかった!」
くるんちゃんはふりむき、おどろきました。「ぽぽちゃん!?」
「ごめんね! ごめんね!!」
ボロボロになったくるんちゃんは、まっくろになったほっぺたをぽぽちゃんの方に向けて言いました。
「ぽぽちゃんは、誰よりも私のことを大事にしてくれたよ」
「でも、こんなにボロボロにしちゃった!」
「ボロボロになるまで、ずっと一緒にいてくれたよね。ボロボロになっても、いつも「くるんちゃん、くるんちゃん」って笑いかけてくれたよね」
ボロボロになっても、探し続けてくれた。ボロボロになっても、こんなところまで追いかけてきてくれた。……くるんちゃんはくしゃくしゃになったピンク色の髪のままで、そう言いました。
「いつもいつも、一緒に遊びに行って……楽しかったよね」
ぽぽちゃんはくるんちゃんを一度だって投げたり、乱暴に扱ったりしませんでした。ただただ、ずっとずっと楽しい時間を、くるんちゃんにくれていたのです。
「ありがとう。ほんとにずっとずっと……、……ありがとう。私はぽぽちゃんのことが大好き」
くるんちゃんはそれでもぽぽちゃんから離れ、よれよれになった手でばいばいをしました。
「……いっちゃうの……?」
くるんちゃんはドレスとは言えなくなってしまったピンク色の布きれを見て、
「私は、ぽぽちゃんがそんな私を、いつか忘れていっちゃうのが怖いの。もっとかわいい子がきて、ボロボロだなって思われて、遠くなっちゃうのが怖いの。もう、充分なの。これ以上の幸せはないの」
私は、幸せな間に、ばいばいしたいの……くるんちゃんはさびしそうに笑います。
ぽぽちゃんには、しあわせっていうものがなんなのか、分かりません。だけど、これだけは言えます。
「いやだ……」
そう、首をふりました。
「ばいばいはいやだ!!」
明日、どういう気持ちになるかなんてわかりません。明後日、三日後、一週間後、一年後、五年後、十年後……。そんなの、分からない。
だってぽぽちゃんは、いつだって今日を生きているからです。
「あたしはくるんちゃんが大事!! くるんちゃんが大好きだから、くるんちゃんが大好きだから!!」
くるんちゃんは泣きたくなりました。
そんな気持ちだって、ぽぽちゃんはきっといつか忘れてしまうのでしょう。この森の妖精は、そう教えてくれました。自分だってそう思います。だってもう……どんなパーティにも招待されないくらい汚れてしまったし……。
……でも、今、こんなにボロボロになった自分を、ぽぽちゃんはそこまで言ってくれるのです。
それが胸に響くから、嘘じゃないと信じられるから、くるんちゃんは、うれしくて、うれしくて、うれしくて……。
朝になりました。
ぽぽちゃんはむっくりと体を起こしました。窓の外はとてもいい天気。お日様が部屋の中に窓の形の光を作って、きらきら輝いています。
でも、ぽぽちゃんにとってはそれどころではありませんでした。がばっと立ち上がると大声でママを呼びながら走り出します。だって……
くるんちゃんが、いたんですもの。
体を起こした時、ころりとぽぽちゃんのおなかに転んだ長い髪のくるんちゃん。
服は相変わらずボロボロで、ほっぺたもこげ茶のお化粧をしたようになっています。
それでも、ぽぽちゃんの大事なおともだち。
いつか、忘れられてしまうことにガッカリする日が来るのでしょう。
でも、ガッカリする分より、もっといっぱいいっぱいの愛を、ぽぽちゃんはくれるのでしょう。
(いつかその日が来るとしても……)
くるんちゃんはぽぽちゃんの胸に包まれて、無表情に、今日の空を見上げて思いました。
大事だから、一つも汚さずに大事にとっておくおねえさん
大事だから、汚れてもずっと遊びつづけるいもうと
大事にしかたはいろいろでも、大事にしたいという気持ち、それ自体が尊いなと思うのです。