第3話 再会と約束
「ふぅ……。今日はここまでかな?」
山道は足場も悪く、危険がいっぱいだ。
日が沈み視界の悪い状態で進むのは困難と判断した。
川沿いなら汗を流すこともできるし魚だって取れる。
快適な場所に今日の拠点を構える。
荷物には寝袋と水筒などもある。
これで火を起こせれば完ぺきだ。
しかし、僕は魔法に疎い為、自力で火を起こす術を持ち合わせていない。
「あ、ポップルがいるじゃん」
ポップルは下級魔族で、炎を吐きだし、攻撃する。
これをうまく使えば火が手に入るかもしれない。
縄と籠で罠を作り、ポップルが寄ってくるのを待つ。
「今だ!」
仕掛けていた縄を引き、捕獲に成功する。
下級魔族は剣士や魔法使いなどの冒険者でなくても捕獲することは容易だ。
少し熱い程度で手で持つこともできる。
木の土台を作り、ポップルを左右から押し込む。
すると、炎を吹き出す。
このようにして下級魔族は生活に活かされることもある。
炎を吹き出すとこのまま消滅していくので、後処理も必要ない。
「これでよし!」
「あれ? ミズキ??」
暖を取っていると僕の後ろから女の子の声が聞こえる。
その声に聞き覚えがあった。
振り返ると、そこには少し大きめの黒いローブと中には王都の学生が着こなす制服のようなものに身を包んでいる、長い赤髪と大きく綺麗な碧眼の女の子がいた。
手には少女の顔ほどある大きな真紅の魔石がついた杖を持っている。
「ハルカ……?」
ハルカはサトリ村の中でも珍しい魔法使いの一家に生まれ、魔法の才能に恵まれていた。
そのため、女々しくて弱い僕はよくからかわれていた。
家も近所ってこともあり、子供の頃はよく遊んだり家でお世話になったりしていた。
「やっぱミズキだ! こんなところで何してるの?」
「べ、別に!? これも修行みたいなもんだよ」
さすがに女勇者になって旅に出てますとは言えないので、適当に誤魔化す。
「ふーん。おじいちゃんスパルタだもんね」
今までの行いが功を奏した。
「ハルカこそなんでここに?」
「冒険の帰りよ」
ハルカは数年前からその才を買われ、冒険者のパーティに属している。
「こんな偶然ってあるんだね! ……って馬車じゃなくて歩きで!?」
町からなら馬車くらいすぐ手配できただろうに……。
冒険終わりで疲れてるなか……。
すごい体力だ。
「こういう気分の時もあるのよ」
ハルカはいつの間にか僕の横に腰を下ろしていた。
「これどうぞ」
川沿いのため、地面の治安は良くないし、女の子が地べたに座わらせるのも申し訳ないので、僕の寝袋を一旦敷く。
「あ、ありがとう」
川の水で湯を沸かてコーヒーを入れ、二人で昔話に浸る。
2人でこんな風に語るのはもう何年ぶりだろうか。
「前にもこんな感じのことあったわよね」
それは5年前の10歳の頃だろうか。
おじいちゃんの修行が本当に嫌で逃げ出した時だ。
何故だかその日はとても厳しかった。
「その時はご迷惑をおかけいたしました」
「あれはあれでいい思い出よ」
ハルカは思い出し笑いをする。
逃げ出したから家に帰るわけにもいかず、この森に逃げ込んだ。
そして迷子になり、帰ることもできずにいた。
満月の月明かりすら僕を照らさないほどに奥に迷い込んでいた。
そんな中ハルカは僕を見つけ出してくれたのだ。
そして1つの約束をした。
ハルカと一緒に冒険者になるという約束だ。
剣士の僕と魔法使いのハルカで旅に出て、新たに仲間を見つけて冒険をしよう。
そんな約束だ。
実力差もわからない時の可愛い夢だ。
けど、僕はそれが嬉しく、その後のつらい修行も頑張れた。
ハルカが町に出ていきパーティを組むことを知ったときには、何とも言えない気持ちになった。
そう、ハルカはもう僕以外の仲間が既にいる。
「約束守れなくてごめんね」
そう言葉が漏れた。
「……まったく! やっとそのこと思い出したのね! 約束を破った罰として、私とパーティを組みなさい!」
一瞬涙目に見えたそのきれいな碧眼は気のせいだったのかもしれない。
ハルカは腕を組み、胸を張って威張っている。
「でも、今のパーティは?」
「今日辞めてきたのよ!」
思ってもみなかったその言葉に目が点になる。
「冒険者なんてそんなものよ。パーティ組んで解散してその繰り返しよ」
少し寂し気な表情でそう語る。
「それじゃあ組もう!」
立ち上がり、ハルカに手を差し出す。
僕は勇者になったし、この聖剣があればハルカの実力には及ばないにしても足を引っ張ることはないくらいには実力も出るはずだ。
それに”今”この約束を果たさなかったら、こんなチャンスは二度と来ない。
フリーである今を狙うしかない。
「弱虫ミズキが偉そうじゃない」
ハルカは座ったまま僕を見て、そう言う。
「いいわよ」
ハルカは僕の手を握り、立ち上がる。
「でも、勘違いしないでね。私が組んであげるって先に言ったんだからね」
いたずらに笑い、僕の胸元に人差し指を突きつけてきた。
ぽよんっ
「「え??」」
自分でも感じたことない感触だ。
胸に違和感がある。
ハルカの指へと視線を移す。
「み、ミズキ……?」
ハルカの震える声と震える指。
指は僕の胸に軽く包まれている。
そう、僕の胸には見慣れない膨らみがあったのだ。
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