第21話 緊急クエスト
「まるで悪い夢を見ていたかのようだな」
雷雨が再び吹雪に変わり、僕たちは洞窟の中から動けずにいた。
突如現れた2人の魔王を名乗る幼女。
魔法陣すら展開しないで一瞬で姿を消す魔法。
何もかもがわけわからない出来事だった。
「うわぁぁん!!!!」
ハルカはずっと泣いている。
ミスリルラルタスの死体と核ごと転移されてしまった為、買取をしてもらうことはもちろん討伐した証明ができない為、報酬を受け取ることができないのだ。
約1時間ずっとあんな感じだ。
「こればかりはしょうがないよ」
何度も慰めるが、よほど40,000,000ウェンがショックなのか立ち直らない。
こんなすぐ泣く姿を見ることになるとは思わなかった。
「……それにしても魔王を名乗る幼女が2人ってどういうことでしょうか……」
チルチンが皆が疑問に感じている議題を上げる。
「それに関してなんだけど、1つ言っておかないといけないことがあって、僕はあの2人と別の魔王会ってんだよね」
町で出会った赤髪のサタニティ・デストロビッチと魔眼について話した。
これを隠していても何も解決にはならない。
「そうだったんですね」
皆は意外にも驚かなかった。
出発する前なら驚いていたかもしれないが、2人の魔王が3人になったところでは驚かなかった。
それに3人いたなら4,5ともっといてもおかしくないとすら思える。
「そういえば昔のパーティメンバーにやけに魔族に詳しい人がいまして、こんなこと言ってました」
チルチンは眉間にしわを寄せ、思い出しながら話した。
大魔王には魂と言われる核が4つあったこと。
魔族には魔王を除く不滅級魔族が50人ほどおり、格付けがされていて上位4人は四天王と呼ばれること。
サタニティ・デストロビッチの数々の暴虐。
転生魔法によるメリットデメリット。
絵本なんかには書かれていない魔族……いや、魔王軍ともいえる内容だ。
「つまり、転生魔法を使ったら核がばらばらになって転生したってことか?」
「その確率は高そうですね。1つは勇者様が消滅させているはずですので……」
「3つの魂を1つにする術があるかは分かりませんが、如何せん魔法に長けた種族ですのであるとは思います……」
彼女らが魔王と名乗っていたのはその為だろうか。
3つが1つになるときに大魔王となりうるのかもしれない。
「なら1人ずつ倒していかないとですね……」
「簡単じゃないけどやるしかないね」
魔王を倒すための勇者だ。
僕はその為にこの聖剣を手に入れた。
半分強制だけど。
しかし、元勇者様ですら一つの魂しか葬ることしかできなかった。
僕に3つの魂を葬ることはできるのだろうか……。
「一旦町に戻ってギルドとかで何か情報はないか聞いてみましょうか」
「そうだな」
吹雪が納まり次第下山することになった。
「ハルカ、そろそろ行くよ」
未だ泣き続けるハルカに声をかける。
「……許さない……。あの緑髪の幼女…………!!!!」
強く杖を握りしめ、今まで見たことないほど怒っている。
「次会ったら絶対お金請求してやるんだからぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
怒りの声は木霊する。
僕も赤髪の幼女にお金請求するんだった。
✚
日が沈んだ頃。
僕らはナナホシ町のギルドに到着した。
「今回は失敗ですね。賠償金は発生しませんが、あまりクエスト失敗が続きますと信用を失いかねませんので見合ったものを選んでいくことをお勧めします」
受付のギルド嬢は慣れた手つきで、事務的な対応をしている。
ハルカは純聖黒曜石の買取分の金貨を受け取った。
落ちていた表情もいくらか明るくなって安心した。
ミスリルラルタスの報酬ありきで遠征中や赤サタニティにご飯を驕ったりと、出費を重ねてきていた。
総合的に見たら赤字だ。
アルファに関しては僕の独断だし、僕だけが大赤字だ。
ミスリルラルタスのような高額報酬のクエストはしばらく受けられないだろうから、コツコツ稼いでいかないといけない。
掲示板を眺めるが、よさそうなものは中々ない。
「た、大変だ!!!!」
ギルドの門がバンッと大きな音を立てて開くと、傷を負った冒険者2人が入ってきた。
見るからにただ事ではなさそうだ。
装甲を突き破っている矢に大きな切り傷。
ベテランのような雰囲気があるが、それでもこれだけの手負いをしてしまう。
それだけ冒険者と言うのは危険なものだとわかってはいたが、コトブキ霊峰の出来事もあり、改めて実感する。
足を引きずりながら、ギルド嬢に説明を続けている。
「死者の賢王ですか!?」
ギルド嬢が大声でその名を口に出す。
ギルド内にいる冒険者は一斉に視線を向け、ざわつき始める。
「ワイトキング……?」
「中級魔族のゾンビから昇格した上級魔族だ」
フタリナルさんがいつの間にか隣に来ており、説明をしてくれた。
「上級魔族なのにここまでざわつくものなの?」
「ワイトキング自体の性能でみれば上級魔族だが、奴の恐ろしいところは上級魔族にもかかわらずたぐいまれなる知性を持っていることだ。そしてその才を活かし、集団を率いて中級魔族のゾンビを大量に率いて魔族大暴走起こす。これが非常に厄介だ」
ギルド嬢は駆け足で裏に行き、上司に相談するみたいだ。
「規模次第では超絶級や不滅級になってもおかしくない」
緊迫した空気の中、ギルド嬢を待つ。
僕たち以外の冒険者もそわそわしている。
「緊急クエストです!!!! スタンビードの鎮圧の依頼を出します! ここにいる冒険者の皆さまご協力お願いします!!」
ギルド嬢息を切らしながら戻ってくると、すぐさまそう発表した。
「ゾンビ1体につき銀貨1枚。ワイトキングを仕留めた方には金貨100枚の報酬が出ます!」
上級魔族なのに金貨100枚!?
明らかにおかしい報酬額だ。
「情報によりますと、今回のワイトキングは魔法が使える為、単体で超絶級に匹敵するとのことです! それに無数のゾンビの量ということです。どうか皆様ご協力お願いします!」
冒険者はぞろぞろと受付嬢の元へ移動していく。
「私たちも行くわよ!!!」
ハルカは鼻息を荒くしてやる気満々だ。
「い、行こう!」
倒しまくればそれだけ報酬も上がる。
これはチャンスだ!
「チルチンも行くよ!」
「……は、はい!」
核を持ってくることで討伐証明になるので、必ずお持ちになってくださいと説明を受けた。
ミスリルラルタスの二の前にならないようにしなくてはならない。
ゾンビ1体でも一晩分の宿代になる。
ワイトキングがどれほどのものか分からないが、ミスリルラルタス並みに警戒はしなくてはいけないのはたしかだ。
チルチンに足並みを合わせ、急いで移動する。
「早くしないと銀貨1枚が……!」
足踏みをし、そわそわするハルカ。
スタンビードはナナホシ町の東側にある森林で起こったみたいだ。
町に入る前には関所があるため、そこを超えた草原でそのスタンビートを止めることになっている。
「もうすぐで着くわ!」
ハルカは既に杖を構え、いつでも魔法を放てるようにしている。
チルチンもフタリナルさんも攻撃魔法や剣の扱いが上手なわけではないので、討伐に関しては僕とハルカが頑張らないといけない。
2人には援護とワイトキングの動向の監視などをお願いした。
町を取り囲む城壁の関所を超え、草原が見えるはずだった……。
「嘘でしょ……」
「やばいですね」
ナナホシ町のが少し高所になっている為、草原を見下ろす形になる。
そこは本来、青々しく草木が広がっている。
しかし、ゾンビがところせましと進行してきているのが分かる。
満月の月明かりで照らされ迫ってくるゾンビは不気味だ。
「大金だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「「「「「うおおおおおおおおお」」」」」
ハルカの掛け声とともにと数々の冒険者は一斉に駆け出していった。
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