第2話 何かを得るためにはナニかを失わなければいけない
「じ、じゃあ! この聖剣を祠に戻したら男に戻れる!?」
別に勇者になりたいわけでもない!
聖剣に触れて、勇者様に励まされた気分にでもなろうと思っただけなのに!
「それは無理じゃな」
祖父は急に落ち着き、お茶をすする。
「お前はもう勇者になってしまったんじゃよ」
「何か方法はないの!? このままじゃますますお父さんに合わせる顔がないよ!」
男らしくどころか女になってしまったのだから。
「方法はないこともない……と思うぞ? だがな、ミズキ。一つ言っておくぞ」
2度目の祖父の真剣な顔。
「確かに女になってしまったことはミズキにとって不都合なことかもしれん。しかし、男らしさ……漢気は見た目じゃないとさっき思わなかったか?」
「……っ!!」
たしかに、さっき勇者様のエピソードで感じたのは心の広さと強さだった。
実際の勇者様の見た目なんて一切知らない。
「見た目なんて些細なものじゃ。……例えば、昨日までのお前とヨネ婆だったらどっちが漢気ある?」
ヨネ婆は力持ちで畑仕事を毎日こなしている。
それに村の人からの悩み相談を受けたりとても頼りにされている。
僕は毎日剣の修行をしているが、辛くて抜け出したりしている。
「……ヨネ婆」
「そうじゃ。それが答えられるならもう何も言うことはないわい」
僕が求めていたものは剣の技術ではなくそれに似合うメンタル面だったんだ。
それをやっと気づかされる。
そして何かを手に入れるにはナニかを失わないといけないのは本当みたいだ。
「それでもって方法じゃが、聖剣は大魔王を討つための剣と言っても過言ではない。大魔王が復活し、それを討伐するために聖剣の封印も解かれたのかもしれん。ミズキがちょうど抜けたのもそのせいかもしれん。つまり、もう一度大魔王を討伐し、祠に封印することができれば戻るかもしれんぞ?」
「ほんと!?」
「確証はないがな」
僕が勇者としてこの聖剣で大魔王を討てば、戻れる!!
きっとそのころには漢力も上がっているはずだ……。
「おじいちゃん……! 僕やるよ!!」
これは勇者様がくれた僕の変わるチャンスだ。
ここで逃げ出してはいけない。
もちろんこの時の僕は大魔王討伐がどれほど偉大で難儀なことかをしっかり認知はしていない。
「急に男らしく見えるのぉ」
祖父は目尻を拭う。
その日の夜。
祖父は送別会と称し、食べきれないほどの料理を振る舞ってくれた。
普段は僕が作るが、祖父の料理はとてもおいしく大好きだ。
しばらくこれも食べれないのはなんだか惜しい気持ちになる……。
祠に聖剣がないことは明日伝えてくれるみたいだ。
今報告すると、この家に殺到されてしまう。
それに、漢力が足りないで女になったのがばれるのも恥ずかしい。
てか、漢力って万人が知っている言葉なのか??
✚
「それじゃあ行ってくるよ!!」
昨夜、必死に荷造りをし、朝日と共に出発する。
祖父曰く、もう四神流の剣技は叩き込んであるらしい。
僕は一度もそれを成せた記憶はないから不安だ。
しかし、ずっとこの村にいても大魔王がくるわけではない。
さらなる修行や仲間を集めるために僕は旅に出ることを決意したのだ。
「次会える時は大魔王倒したらだね。それまでちゃんと生きておいてね」
「当り前じゃい! お前よりもよっぽど元気じゃ!」
「それに料理や洗濯、掃除もちゃんとやるんだよ!?」
家事全般も僕がやってたため、今は逆に祖父を残していくのが不安だ。
「大丈夫じゃよ! ほれ、さっさと行くんだ」
別れを告げ、歩き始める。
途中何度も振り返ると、祖父は思いっきり手を振ってくれていた。
視界で豆粒になっていてもわかるほどに。
「僕は勇者なんだ……! 頑張るぞ!」
腰に下げている聖剣を確認し、リュックを背負い直し元気に進んでいく。
ここは田舎のため、山を越えて隣町になる。
最初の目的地はそこだ。
歩いて1週間はかかる。
本来は馬車などを使い、移動するが急なため手配もできなかったので仕方ない。
「千里の道も一歩からってね!」
こんな旅に少しワクワクしている自分がいる。
しかし、この時僕の体にさらなる異変が起きていることを僕はまだ知らなかった。
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