後輩とのお昼
退屈な授業を聞き、四時限目を乗り越えた昼休み、携帯のバイブレーションがポケットの中で震える、携帯の画面をスライドすると、音花からの電話だった.
「どうした音花、なにか急用か」
「先輩お昼ご飯を一緒に食べましょ」
急な大声が教室に響き渡った、クラスの連中には聞こえていないらしいので安心する。
「お昼ご飯か、そうだな久しぶりに一緒に食うか」
「では風紀委員室で待っているので、急いでくださいね、昼休みも時間はそんなにないですから」
「了解、すぐに向かうよ」
弁当箱を手に取り、教室から出ていく、風紀委員室は二階の校舎にあり、職員室と生徒会室が並んでいる、何か用がない限り昼休みは教室と図書館で過ごしていたので生徒会室に並んでいる男子生徒の数に驚いた。
「先輩、やっと来てくれましたね」
「ごめん、ごめん、それにしても生徒会室に並んでいる、あの男子生徒達は」
「知りません、生徒会には人気者が集まっているのでそれの影響じゃないですか」
「それにしたって全員男子ってのは不思議だな、生徒会の役員達ってあまり朝会にも現れないよな」
「そうですね私も数人の役員しか会ったことがありませんが、女子生徒だけだったと思いますよ」
「それでこれだけの男子生徒が並んでるのか」
「ささ、先輩あんなのは無視して早くお昼にしましょう」
「まあそうだな」
すると生徒会室から一人の男子生徒が出てきた、男子生徒の顔は今にも死にたそうな顔をしていた、一体生徒会室で何が行われてるのか謎でしかない。
「今度火陰に聞いてみるか」
「何か言いました先輩」
「いや、何でもない」
音花に風紀委員室に招き入れられ、近くにあった椅子に座り込む、その隣に音花が座ってきた。
「先輩とこうしてお昼を食べるなんて久しぶりなので嬉しいです」
「別に俺はいつでも誘ってくれていいぞ、音花なら断る理由もないし」
「それを言ってくれて嬉しいです」
音花と一緒に弁当箱を拡げる、食べ始める音花の弁当は正に女子が作ったと言えるキャラ弁だった、かたや俺の弁当は男子が好きな焼肉に好物の卵焼きとトマトに弁当箱とは別の容器にデザートに桃が入った弁当だ。
「その弁当もしかして音花が作ったのか」
「はい、まだまだ半人前ですが母から教わりました」
「そうか、とても美味しそうだったからな」
「なんなら一つ食べますか」
「いいのか、音花のおかずが減るだろ」
「なら交換にしましょう、私のおかずを一つあげるので、先輩のおかずも一つ譲ってください」
「まあそれなら」
「じゃあ何がいいですか」
「それならその卵焼きが欲しいな」
「先輩は相変わらず卵焼きが好きなんですね」
「相変わらず、俺卵焼きが好物な事音花に話したっけ」
「勉強の合間に話してくれたじゃないですか、姉が作る卵焼きが世界一だって」
「話したような、話してないような」
「まあ卵焼きは譲りますよ、じゃあ先輩のそのトマト貰ってもいいですか」
音花が欲しいのはトマトらしい、女子ならデザートの桃を選ぶと思っていたが。
「構わないけど、桃じゃなくてもいいのか」
「はい、トマトで結構です」
音花から卵焼きをもらい受け、トマトを取らせる。
「もしかしてこのトマト先輩が栽培したトマトですか」
「いや姉さんだよ、最近栽培の勉強をしてて、それでトマトを育ててたんだ」
「先輩のお姉さんは尊敬しますね、こんなに上品なトマト、スーパーで売ってるのとは訳が違いますね」
「分かるのか」
「はい、私も栽培の勉強をしていたので少しだけ」
「姉さんは頭が鋭くて、どんな事も簡単に達成してるんだよ」
「先輩は随分お姉さんの事をお慕いしているようですね」
「そうかな」
「お姉さんの話をする時の先輩はとても笑顔で、私も先輩のお姉さんに会ってみたいです」
「また機会があれば会わせてやりたいよ」
「はいお願いします」
音花も俺も食べ終わった頃昼休みが後半分を切っていた。
「俺、そろそろ行くよ」
「もう行ってしまうのですか、もう少し話したかったのですが」
「ちょっと図書館にきた新作が気になってて、それをチェックしときたいんだ」
「図書館の新作ですか」
「ああ気になってた本がいくつかあったからそれを借りようかなって」
「それなら先輩の時間を潰す訳にはいきません、また今度一緒にお昼を食べましょう」
「じゃあその時は今日みたいに連絡してくれ」
「はい」
「またな音花」
音花に挨拶をして風紀委員室から出ていく。
「少しギリギリだが間に合うか」
腕時計を確認し、図書館で本を借りて教室まで戻るのにはギリギリの時間だったので急ぎ足で図書館に向かった。