後輩の風紀委員長
外に出ると、火陰はキョロキョロと住宅街を見回していた、多分風音姉さんが仕掛けている罠を探しているのだろう。
「いくら風音姉さんでも、住宅街に罠を仕掛けたりはしないと思うぞ」
「兄上はあますぎます、その油断がいけないと自覚してください」
火陰に怒られる、まあこれでも油断している訳ではないのだが、そうこうして歩いているうちに、学校が見えてきた、学校の前ではよく見知った顔が、風紀委員の腕章を腕に巻き、生徒達を取り締まっていた。
「あっ!! おはようございます先輩!!」
少し離れた場所からでも分かるぐらいに、笑顔でぶんぶんと手を振ってきた。
「兄上あの方と知り合いなのですか?」
「実は中学の時に少し勉強を見てやってな、それ以来なんか懐かれていてな」
「兄上とあの暴君の風紀委員長がね」
「暴君? それってあいつの呼び名か」
「はい、学校に必要のない物を持ってきた生徒を生徒指導室に連行して取り調べをしたり。他にも学校の教職員でさえ風紀委員長の物言いには反抗できずに、反抗した教職員は精神を追い詰められ他の学校に異動させられたりって、他にも沢山暴君風紀委員長の噂を生徒会で聞いた事があります」
「本当にそれあいつの事か? 俺が勉強を見てた時なんて大人しくていい子だったぞ」
「もしかして猫でも被ってたんじゃないですか、現に今だってほら」
火陰が指を指すと、何かしらの化粧品を学校に持ってきた女生徒があいつに止められていた。
「この化粧品学校には必要ない物ですよね」
「別に校則は破ってないでしょ、確か校則では化粧品の持ち込みはありだって」
「それは先週までです、先週の朝会の風紀委員でこれから化粧品の持ち込みを禁止するって言ったはずですよ」
「私先週は風邪で学校を休んでて」
「プリントも作成して、学年全員に配ってます、風邪で休んでても、誰かしら家に訪問して受け取ってるはずですよね」
「確かにプリントは受け取ったけど、そんなの身に覚えが」
「どうせ見てもいないんでしょうね、今日の所は厳重注意にしておきますが、この次はありませんよ」
化粧品を無理矢理奪い取り、風紀委員が持っている袋の中に入れる、女生徒は泣きながら校門を通り過ぎ、校舎の中へと入っていく、まああいつの言う通り、化粧品の持ち込みは校則で禁止になったし、プリントも配られていたのは確かだ。
「流石は暴君の風紀委員長」
そんな言葉を火陰が口にする。
「今なんて言いました?」
「暴君風紀委員長、そう言いました」
「あなた生徒会の生徒会長でしたよね?」
「はい」
「だったらその呼び名で呼ばないでいただきたい、とても不快です」
「まさしく噂通りだなって思って、どうやら呼び名を気に入ってないようですね」
「そんな呼び名を誰が広めたのか、必ず暴いてやります、それよりもお久しぶりです先輩!!」
「おはよう、音花」
「おはようございます先輩、学校で会うのは初めてですよね?」
「まあな、俺はいつも朝会でお前を見てたが、直接会うのは卒業式以来か」
「そうですね、先輩が卒業されて以来、この学校に通って先輩に会うのを夢見てました、先輩が風紀委員じゃなかったのは残念でしたが、どうして風紀委員に立候補しなかったのですか?」
「俺は別に風紀委員って柄でもないしな、中学の頃は風邪で休んでたから、勝手に決められて仕方なくやってたからな、俺は本が好きだからな、高校は図書委員になるって決めてたんだよ」
「そうでしたか、先輩が決めたなら文句なんて言いませんが、また今度勉強を見てもらってもよろしいですか?」
「そんな事ならおやすいごようだぞ、いつでも連絡してくれ、携帯の番号はあの時のままだからさ」
「はい、それと先輩ネクタイをきちんと締めてください」
「ああ、悪い、悪い」
謝りながらネクタイを結び直す。
「はい、もう行っても構いませんよ」
「よろしいのですか委員長!? 何か隠し持っていたりするかもしれませんよ」
「問題ないです、それとも私に逆らうんですか?」
「すみませんでした」
他の風紀委員が呼び止められそうになるが、音花の一言で謝り黙った、火陰と校門を通ろうとするが、音花は火陰の前に立ち止まる。
「あなたは通っていいなんて一言も言ってませんが」
「音花こいつはな」
「いえ、兄上は先に向かってください、私なら、問題ないですから」
何故か分からないがここにいては危険だと頭の中で感じ、火陰の言った通り、先に校門を通り校舎の中に入る、危なかった、実は鞄の中には友達から借りていた本があったので見つかれば終わっていた、安堵して階段を上り教室に入り、自分の席に座る。