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 あ、自分に『キュア』かけまくる前に確認しておかないと。スガーナ師とあいつらの会話が途切れた瞬間を狙って手を上げる。


「ス、スガーナ師。し、質問よろしいですか?」

「……良いだろう。何が聞きたい」

「何度も魔法を使うと気絶するとのことですが、ど、どれくらいで復帰するんでしょうか?それと、気絶して問題ないのかし、知りたいので、この後の予定を教えてください」

「そうだな……気絶による魔力の回復は2時間ほどだ。それで全部回復する。ちなみに、睡眠だと6時間、安静にしていて18時間で魔力が全回復する。この先必要になるであろう知識だ、忘れるな。なお、無理やり途中で起こせば、回復も中途半端に終わる。例えば、1時間で気絶から起こせば、魔力が全回復するまで、3時間の睡眠か9時間の安静が必要となるわけだ。

 それと、この後の予定だが……夕食まで4時間ほどあるが、2時間はこの訓練。そして、食事前にこちらの常識について冒険者ギルドの人間が来て教えてくれることになってる。

 だから、気絶するまで魔力を使って問題ないどころか、気絶するまでが今日の訓練だ。時間になったらたたき起こされるだろう」

「あ、ありがとうございました」


 立ってお礼を言う。顔を上げると、ちょっとだけ不思議そうな表情だった。ん?お礼に頭を下げるのは普通じゃないのかな。まあ、いいや。

 魔力切れで気絶するまでが訓練だったんだな。それならそうと言ってくれればとは思うが、まあいいや。後のことを気にせずに気絶できるタイミングなんてそんなにない。今は『キュア』で自分を労わることだけを考えよう。絶対明日筋肉痛になる。

 ナイスたちはそれぞれ、できない魔法を繰り返し練習している。数回も唱えれば簡単に発現してやがる。あーあ。あの分だと今日のうちに全部の生活魔法を使えるようになりそうだな。けっ。できる奴は違うな。……いや、そんなことを悠長に考えてる暇なんて俺には無い。『キュア』だ。『キュア』の練度を上げつつ魔力を増やさないと。それ以外の選択肢は今はない。

 左手で自分の胸を抑える。一つ深呼吸。これから魔法を使うんだ。まだ慣れていないから慎重に。なぜか、左手の方が魔力の集まりが良い気がする。訓練中にわかったんだ。ごくごくわずかな差だと思うんだけど、それでも、積み重ねれば大きな差になるからな。多分、俺にとって左手が魔法においての利き手なんだろう。

 失敗しても何も起こらず、魔力が一部消費されるらしい。……それも早く言ってほしかった。それなら、他の魔法なんて試しませんよ。幾度でも試しましょう。



「神の恵みよ、命の灯よ。健やかなる成長をここに願う。『キュア』」

「魔力の消費量は、『ウォータ』を1とすると『イグニッション』『ブリーズ』は同じ、他人にかける『キュア』が2だな」

「他人にかける?ってことは、自分にかけると違うんですか?」

「だいたい五割増し、3の消費だな。これは他の回復魔法『ヒール』や『キュアポイズン』なども同じだ。自分にかける際にはより魔力を消費する。仮説は色々あるが、まだ解明されていない不思議の一つだな」

「神の恵みよ、命の灯よ。健やかなる成長をここに願う。『キュア』」

「一般的な魔力量とはどれくらいでしょうか」

「一般的な平民が10。魔力量的には『ウォータ』を日に10回も唱えれば気絶しよう。冒険者や貴族で魔法が使える者が50から100といったところか。魔力量が多いと言われるもので300から500程度だな。

 ちなみに、宮廷魔法師の最低ラインが1,000だ」

「冒険者の10倍から20倍……」

「最低ラインが、だ。魔力量を増やすには幾度となく魔力枯渇が必要となる。つまり、数え切れぬほどに魔法を使ってきた人間だ。使えば使うだけ魔法は洗練され、魔力消費量、威力、ほか諸々が冒険者どもの使う魔法とは隔絶した威力を持つ。今宮廷魔法師と名乗る者は冒険者の百人分以上の仕事ができるのだ」

「神の恵みよ、命の灯よ。健やかなる成長をここに願う。『キュア』」

「ちなみに、スガーナ師の魔力量はどのくらいですか?」

「お前ら、他人にステータスを聞くのはとても無礼なことだ。それを忘れるな。

 ふん。お前らは異世界人だから特別に教えてやろう。私の魔力量は一万を超えている」


 ……なんだろう?自分に『キュア』をすると、体内にある自分の魔力が邪魔に感じる。これが、消費魔力を増やしているのだろうか。……ふーむ。もう一度手順から確認しよう。

 まず、使う魔法を考え、魔力を手のひらに集める。そして、回復の効果を持たせたうえで放出し、対象の体内――この場合は、俺の体内――に浸透させる。呪文を詠唱し、魔法名を唱える。効果が発揮される。

 自分なりの解釈として、『キュア』はこんな感じだろう。回復の魔力なんか付与されていなくて、呪文によってその効果になるって推測も成り立つな。

 でも、この流れでなんというか、元々同じ魔力なのに、わざわざ回復って効果を付けたうえで体内に浸透させようとしているから干渉しあって思ったように広がらないんじゃないかと思う。呪文を唱えて初めて効果が付与されるのであれば、無詠唱や呪文省略が意味わからんし。それにほら、よく魔力は一人ひとり微妙に異なるって設定があるだろ?だから、他人に浸透させるときには、別の魔力って認識されて問題ないわけだ。同じ魔力が、効果を付与された状態で重ねられるからエラーが起こっていると考えるとしっくりくる。だから、自分にかけるときには消費魔力が多くなる。

 ……つまり……体内の魔力を集めず、回復の効果を付与したうえで『キュア』を使えばいい……はず……だと良いなぁ。

 よし!ダメもとだ。どうせ俺は引き立て役。失敗して当然。当たれば儲けもの。じゃあまずは……体内の魔力全部に『キュア』の効果を付与する……どうやるんだ?ふーむ。

 原点に帰ろう。魔法は、唱えたい魔法を考え、魔力を集中して感じて、送り込んで、発現させる。これを、集中させたり、送り込まずにやるならどうなるか。唱えたい魔法を考え、体内魔力を感じて、発現させる。そうなるな。

 『キュア』を使う。心の中で、そう決める。体内の魔力を感じるのは大丈夫。さっきまでさんざんやった練習だ。そうして発現させる。


「神の恵みよ、命の灯よ。健やかなる成長をここに願う。『キュア』」


 体内の魔力が一気に感じられなくなったと思った瞬間、全てが暗転した。

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