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「あ、タロウはそこの剣と盾な。他のは止めとけ」


 オチはいらんわ。くらくらして話の半分も聞いてなかったけど、他の奴らは色んな武器を試して自分に相応しいもんを選ぶみたいだが、俺はすでに決められてるんだろ。そこに突っ込む気力もない。

 いつの間にか落としていた盾を拾うことすらできずにいると、ポールがわざわざ持ってきてくれた。まともに手も上げられない俺の腰から、走るときに着けていた刃引きの剣を取り、盾と併せて改めて装備させてくれた。

 まあ、無理やり括りつけた感じだが。

 ほかのやつらは色んな武器を持ち、それぞれを使える騎士が簡単に基本の動きを教えている。へっぴり腰だったり、武器の重さに振り回されるときもあるけど、やけに動きが良い。


「聖剣、武神を持ってるんだ。武器の扱いにスキルの助けがあるのは当然だろ。魔法系も杖や短剣の扱いにわずかとはいえプラスになる。革鎧ならどっちの系統でも多かれ少なかれ補正される。

 タロウのスキルはわかっていることはほとんどないが……残念ながらその辺りの補助はないか、あっても極々わずかだな、今の状態では。追々調べていこう。ただ……ある程度お前たちのことは聞いてるから言うんだが、現状だとお前はソロで活動することになるんだろ?なら、そこまで熟練しなくてもある程度応用が利く片手剣と小盾の組み合わせに慣れとけ。槍や他の武器、特に両手持ち系は慣れないと防御に不安があるからな。

 まあ、その体形で冒険者ってのもどうかと思うが、伝手も何もなけりゃ商人も職人も無理だしな」

「あ、ありがとぅごじゃいまふ」

「無理するな……ってのは、お前の立場からは難しいか。ふむ……“神の恵みよ、命の灯よ。健やかなる成長をここに願う。『キュア』”」


 ポール氏が俺の肩に手を置き何やら唱えたら、体の中に温かい何かが流れ込んできた。肩から徐々に全身へと浸透していくにしたがって、全身を苦しめる疲れやら荒い呼吸やらがほんの少し軽くなった。

 ……これは是非とも確認が必要だ。


「ま、魔法、です、か?回復の?」

「ははっ。違う……いや、合ってるのか?俺が使ったのは生活魔法の一つ、『キュア』。身体を活性化させて、治癒力を倍にする魔法だ。ま、効果時間は短いが」

「ぼ、冒険者を、目指すなら、あって、損は、ない魔法、です、ね。……ふう」

「おっ。わかるか?わかってくれるか!

 最近のやつらは理解してくれなくてな!1分だけ治癒力が倍になっても意味がないって。20人に一人と言うスキルほどじゃないが、生活魔法だって5人に一人だぞ。それも、一つ使える人がだ。そんな魔法なんだ、工夫次第で役に立つってのに」

「今みたいに、呼吸を整えるとか、でしょうか?」

「そうだ。それに、冒険者は怪我をすりゃ治るまでほとんど収入が激減する。調子が悪けりゃ受ける依頼だって危険度を下げないと危ないからな。一日でも、半日でも、ほんの少しでも早く治るってのは、実は生きていくうえで重要なんだよ。

 誰でも気軽に『ヒール』を受けられるわけじゃねぇ。低級の魔法薬だって安かねぇ。だからタロウ。お前は生活魔法、特に『キュア』は絶対に使えるようになれ」

「あ、ありがとうございます」

「ま、もっと詳しい話は午後の魔法に関する勉強の時間で教わるだろうけどな」


 はぁ。魔法がある。魔物がいる。身体が資本。まあ、よくある中世ファンタジー的世界だな。わかっちゃいたけど、俺には厳しい世界だってことが心の底から理解できた。まあふざけんなとしか思わんが、それでも進んで死にたいと思わない現在、できることをしていこう。

 剣を持ち、盾を構え……ってほどちゃんとしてないのは自覚してる。ただ、今は重さになれることが先決。ぶふぅ。

 力尽きては腕が落ち、また持ち上げてはダランと下がる。はい。自動筋トレ状態。周りの騎士の視線が冷たい。まともに剣も持てない奴が神聖なる訓練場にいるんだ、いくら上司からの命令だとしたって気分悪いだろうな。その気持ちはよくわかる。


「力もなければ体力もない。技術も知識も足らないことだらけ。よくもまあ、この状況でやる気になるな、タロウは。なんでだ?」

「……死に、たくっな……いから。ふう。んっ。姫様の、顔を潰すし」

「おいおい。お前らは召喚されたんだろ?向こうで普通に生きてたのに、こっちの都合で。少しくらい我がまま言ったって罰は当たらんだろうに。本当に、お前は子供か?」

「……文句も言わず、訓練してる、あいつらをっ見てくださいよっ。おまけの、俺が、文句、言えるとでも?

 それに、これでも姫様には、本当に感謝しているんです。異世界人と言っても無用の人物。放逐されても、口封じに殺されたっておかしくない状況。命を助けていただいた分くらいは、迷惑かけないように、一生懸命にやりますよ。……できる限りですが」

「……お前も苦労してるんだな。それに、状況もある程度わかってる。……ふむ」


 はい。殊勝なこと言ってます。わざとです。嘘ではないが、本心でもない。つーかさ、いくらなんでもそんな、こちらの人間に都合の良い考えを持ってるなんてありえんだろ?普通に考えれば、家族にも会えない、生活は激変、孤立無援で社会に放り出されて、感謝?ありえない。そりゃ、姫様のおかげで命は助かったから、そこのところに感謝しているのは確かだけど。まあ、総じてくそがっ!って感じだな。

 微妙に本心ではないけど全部嘘でもないことを言うのは、保身のためでござんす。どこで誰に聞かれているかわからんし、そもそもポール氏だって王家の近衛騎士だぜ?絶対報告されるって。

 でも、こんな感じの回答しておけば、心証は良くなるだろ?絶対に、嘘言ってたらわかるスキルとかあって、俺とか奴らの言葉は確認されてるはず。魔王を倒すってことは、この国の騎士よりも、下手したら誰よりも強い力を手に入れるってこと。物語の中じゃ、倒した後に殺されるなんてのはよくあるストーリー。俺みたいな立場のやつなんて、余分だから処分されるなんて流れも何度も見たことがある。だから、危なくなく、そこそこ役に立ち、着かず離れずの立ち位置にしておくべきって認識してもらえないと、自由な、普通の人間としての生活は望めない。

 ……はぁ。なんで俺がこんな目に。くそが!ラノベの経験からある程度のパターンや危険性を認識しているのが唯一のアドバンテージ。なんとかして生き延びなくては。日本にいたときみたいなぬるま湯に浸かって生きることはできないって自分に言い聞かせる。なんやかんや考えるのは、生き延びるすべが見つかってからだ。

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