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「勇者であるナイス殿とそれをサポートする皆のスキルがどれもダブルで、しかも有用であるとの報告があった。これは素晴らしいことだ。S級冒険者として活躍する未来がこの目に浮かぶ。久方ぶりの魔王討伐が望めるぞ。それが叶えば、勇者殿も異世界へと戻ることもできよう。もしも望むのであれば、この国で重用することもいとわない。
ふむ。長年の懸案事項も色々と解消できそうだな。喜ばしかな」
「父王陛下。お慶び申し上げますわ。
しかし、そのためにも、半年、訓練と教育の場を整えたいと存じます。なにせ、勇者殿たちは異世界人。こちらの常識すら知らないと、無駄な苦労をするかもしれませぬ。ただ強ければ魔王を打倒できるわけではないことは、何よりも父王陛下がご存知でしょう。
それに、見たところスキルは有望でも、彼らは荒事に慣れているようには見受けられません。何も準備せずに魔物との戦いに投入しては、思いもよらぬ痛手を受けかねません。貴重な人材をおろそかに扱うことは国の損失でございます。
そのためにも、我が国の精鋭たちによる鍛錬を提案いたします」
「良く気付いた、ソフィアーナ。勇者とて人の子。鍛えてこそ、その強さを万全に発揮しよう。その任を我が国の精鋭たちが担うのは誉でもある。
……繊細な配慮ができるそなたに、その任をまかす。勇者殿を恙なく導くがよい。道を違えさせるな」
「ははっ」
「さて、タロウ殿。
……そなたのことだが、残念ながら我らが求めた勇者では無いようだ。偉大なる勇者たちが魔王を討伐した際にはそなたも帰ることが叶うだろう。それまでは、冒険者にでもなり生きていくが良い。我が国で暮らすことを許可しよう」
「父王陛下。お待ちください。
タロウ殿のことですが、わたくしに考えがございます。彼は勇者殿と同郷。共に学ぶことで勇者殿に好影響が見込めるかと。それに、彼とて勇者召喚の儀によって呼び寄せられた者。生きる術を与えるべきかと存じます」
「ふむ……ソフィアーナ。その言や良し。そなたの顔に免じ、タロウ殿は勇者と同じく半年はこの城で暮らせるように手配しよう。そなたの好きにするが良い」
「必ずや。
王国の繁栄のために!」
「「王国の繁栄のために!」」
はいはい。俺は添え物ですよ。パセリほどの役にも立ちませんよ。半年でも生活保障してくれるなら好きに言ってください。勇者ナイス(笑)の引き立て役ぐらいやりますよ。なんだったら、這いつくばって神のごとく崇めましょうか?どうせ、俺なんて貴方たちにとっては虫けらと同じでしょ?
……こうなったら、まずは生き延びることだ。勇者とは違って、俺には今のところ何の価値もない……いや、異世界人って価値はあるか。ある程度の新しい知識を持ってて、絞り出させるのに躊躇する必要がない存在……危険が危ない。マジでやばい。早急になんらかの価値ある提案ができないと、こっちでも役立たずの烙印を押されちまう。もうすでに結構やらかしてるし。
俺の推測が正しければ、こっちの生き死にはとても軽い。決断も、存在もだ。生かしておく意味がないと判断されたら、簡単にアボーンされちまう。
必死になって考えてるこちらをよそに、彼らの話はそこからは終始勇者ナイスのことばかり。俺もおこぼれに与れるから聞いていたんだが、一般常識や野外での戦闘に関しては、冒険者から近衛騎士にまでなった英雄やSランク冒険者、冒険者ギルドの王都ギルド長がそれぞれの立場から教えてくれることになった。それに加えて、魔法に関しては宮廷魔法師やそれぞれの魔法が使える人が専属で教えてくれると。なにその贅沢の極み。
ちなみに、数日後には同じスキル所持者や、いなければ類似スキル所持者が教師になるとか。……その時、俺は自由時間でしょうか?近しいスキルの人もいないんですが。
それにしても、戦闘訓練(笑)に魔法訓練(笑)って……まあ、笑ってられない状況なんだが。つまりは、いわゆるファンタジー世界で魔物がいて、魔王がいて、戦わないと死ぬわけだ。今放り出されたら生きていけるプランが見えない。半年で、少なくとも一人で生きて、金を稼ぐ方法を覚えないと。……もう、選択肢は痩せるしかありませんか?無理無理!十六年かけて太ったのが、数カ月で痩せるわけない。ストレスで逆に太るかもな。ははっ。
生活に関しても、専属メイドがついて訓練以外はいたせりつくせり。強くなることに専念できる環境を整えてくれるとさ。あいつらだけ。当たり前なんだろうけど、気にくわないのも当たり前だろ?まあ、精々俺はおこぼれに与りつつ、生きていくための方策を整えねぇと。
でも、俺を放逐する段になって、なぜかソフィアーナ様から待ったがかかったのがわからん。ってマジで半年猶予をくれるのか?冗談じゃなく?
パフォーマンスだけだと思ってたぞ。それに王様がマジで乗るとは。まあ、自分のスキルが有用ではなかったことから、何を言われても俺には口をはさむ勇気などなかった。どうやったら生き延びられるのか、異世界から持ってきた物を売るとしたらどこで売ろうかとか考えていたのもあるが。
王女のことは全く信用していない。どう考えても利用するつもりだろうが……ハズレスキルの使い方なんてそんな簡単に思いつくもんだろうか?それとも、言葉通り、ナイスたちを成長させるための糧にするつもりか?そうなると、最悪、知り合いが魔物に殺されるところを見させるって感じか……まだまだ時間はあるな。最低でも数度の実戦を経験しないと、死の足音で勇者たちの心がポキッと折れるかもしれない。そんな無意味な冒険はしないだろう。勇者召喚だって、俺にはわからんが、かなりのコストがかかっているはずだ。無駄なことは……王族だからなぁ。不安ではあるが流れに任せよう。
何はともあれ、ひとまずは死の危険が一歩遠ざかった。そう思おう。
今日の夜くらいは、異世界に来た事実と今後について、じっくり考えよう。戦うってこと、魔法のこと、訓練のこと、ここでの生活のこと、半年後のこと、その後の生活、スキルのこと、異世界のこと、そもそも自分のこと……たぶん、もう二度と会えない家族のこと。考えるべきことはいくらでもある。死なないために、殺されないために、生きていくために、生き延びるために。
……そして、決して騙されないために。