閑話
「ご苦労様。必要とは言え、夜遅くまであんなのの傍で隠れて聞き耳を立てさせて、ごめんなさいね」
「いえ。必要でございますれば……」
「それにしても……なかなか面白い方策を思いつくこと。ただの馬鹿ではないとスガーナ様も仰ってましたが、その通りでしたわね。
ふふっ。追いつめられるとオークでも策を弄すとは言いえて妙ですね」
「如何されますか、姫様」
「……ローズ、貴女は『ヒール』を使えなかったわよね」
「はっ。申し訳ございません。回復系の魔法は『キュア』のみでございます」
「そうね……そうよね。
……ローズ」
いつもそばにいてくれるローズは、武に優れているが『ヒール』は使えない。もちろん、『キュアポイズン』も無理だ。他の護衛達もほぼ同じ。その事実が、わたくしの迷いを拭い去る。この先は、命を預ける者を厳選していかなくてはならない道になろう。
再度その名を呼んだ、いつもより少しだけ低い声に何を感じたのか、ローズはわたくしの前に跪いて頭を下げた。重い、重い忠誠心。この姿を見るたびに、わたくしは思いを新たにする。わたくしが、わたくしであるために。生きると決めたあの時のことを思い出す。
……少しだけ、あの醜い生き物と己の境遇が重なり、笑みがこぼれる。
「……ふっ。
ローズ、わたくしに近しい者、信の置ける者を集めなさい。最低限、『キュア』が使えることを条件とします。そして、タロウの案を採用します。彼の者を被検体とし、回復魔法とその習得方法の解析を行います。その場をわたくしたちの修練の場としましょう」
「……ははっ。御心のままに」
「無駄に彼の者を死なす必要はありません。タロウの提案を待ち、『ヒール』のみならず『ハイヒール』が使える者も集めなさい。王宮付きの神官で誼を通じた者も居たでしょう。その者にも声をかけなさい。なんでしたら、染まっていない見習いから見繕っても良いでしょう。
……回復系の素養がある者なら、たとえ『ヒール』が使えなくとも、『キュア』が使えるのであれば構いません。ただし、五名は『ハイヒール』が使える者を。そうして初回は万全の体制にしましょう。人数調整は後でできますからね」
「はっ」
「対外的には、スキルの解析のためとしましょう。魔法学院や宮廷魔法師団にも声をかけなさい。分析だけでなく、いざという時の役にも立つでしょう」
場を整える労力を考えれば、一度で使い潰すのは愚策の極み。半年の間に使えるだけ使わなくては損。何よりも、自分から言ってきているのだから……いえ、違いますね。こちらからの方が聞こえが良いですね。
自らのこの先を考えると、彼から提案を受けて行うよりも、わたくし発案の方が立ち回りしやすい。そう考えなおし、ローズへと追加の指示を出す。
「明日、異世界人それぞれと個別で面談を行います。内容は待遇に不足はないか、困ったことはないかなどを確認、今後についての相談としましょう。もちろん、最初は勇者様からとしますが、彼の者も予定に入れておきなさい。そこで、わたくしから今回の内容で依頼をします」
「……はっ。しかし、こちらからでは足元を見られるのではと愚考しますが」
「贅沢になれた貴族とは違い、足元を見られても被害など微々たるもの。それでわたくしを軽く見るのであれば、その報いは十二分に取らせます。
それよりも、こちらが主導権を握ることが重要です。役立たずを保護した慈悲深い姫という役割よりも、活用方法を見出した知者と周囲に示すことの方が重要です」
優しいだけの姫は、ただ守られる立場でしかない。今回の魔王討伐が成功した場合、少なからぬ土地が、未開発の地が得られる。その運営に関われるようにこれまで手を尽くしてきたのだ。ここでさらに一手稼ぎたい。
功績を上げた配下の褒賞にしかなれない人形では生きている意味がなく、降嫁先で実権を握るには実績と名声が必要なのだ。それを築けば、逆にわたくしに従う夫を得ることだってできよう。
生きるために自らを賭ける彼の者に自らの姿を重ね……思わず吐き出しそうになった。あれと、同じ人間だと思うだけで気分が悪くなる。……が、生き足掻くその姿勢については、理解できる。
「回復魔法習得方法の獲得。回復魔法の効果に関する調査。未解析スキルの解析。派閥の拡大。味方回復魔法使いの充実。調べるべきことはたくさんあります。それについては……そうね、スガーナ様が一番まともでしょう。長老方ではやりすぎになりかねませんから。
ああ、それに、参加者の修練、魔力量の増大にも寄与しますね。できるだけ毎日執り行い、ここにいる間に100回は開催しましょう」
「ははっ。
……それでしたら、あの通説を確認できるのではないでしょうか。もし、それができれば……」
「通説?どのことかしら?」
「魔力は枯渇で増えますが、体力を使い、回復することを繰り返すことで、人はより長く動けるようになります。つまり、体力が増えるのです。
同じように、傷を負い、それを治すことで体が強くなる。そういった通説です」
「……それは常識ではなくって?魔力も体力も、同じように使って増やすのは当たり前でしょうに」
「いえ。同じではございません。
魔力と違い、体力は枯渇するまでやらなくても増えるのです。増え方も微々たる増加でしかない魔力と違います。その時点で、体力と魔力は全く同じと言う訳ではございません。なぜ、体力は枯渇させなくても増えるのか。なぜ、魔力は枯渇しないと増えないのか。それは謎でございます」
「……そこはわかりました。続けなさい」
「そして、骨の丈夫さ、頑丈さ、各種耐性など、あらゆることが回復するたびに強化されると言われておりますが……まともに試した者はいないかと。ですので、通説とされております」
「……魔力と同じであれば、千回ほど繰り返してやっと倍。中々確かめられるものではありませんね。
しかし、今回彼の者を使えば……」
「はっ。骨については難しいでしょうが、やりようによっては」
「そうですね。良い案です。そちらも視野に入れて人選をしなさい。
明日から忙しくなりますよ」
軽毒を飲ませて『キュアポイズン』や各種状態異常についても、協力していただきましょう。あちらも耐性が強化されて、こちらは豊富な回復役を得る。お互いに利益になることですが、無理にやっては外聞が悪いのも確か。
どのように話を持って行きましょうか……。
策を巡らすのは楽しい。わたくしは少しうきうきとしながらベッドに入った。睡眠不足は美容の大敵ですから。
ここで一章が終わりとなります。いかがでしたでしょうか。
4月半ばくらいまでで、「穴掘り少年と乾燥少女」https://ncode.syosetu.com/n4097gv/とどちらを優先して更新するか決めたいと思います。
よろしくお願いします。




