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自重が自重しません  作者: ネルシュ


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 あまりに的を外れたスズネの意見に、一瞬だけ思考が沸騰しかけたが、そのおかげで冷静になれた。落ち着け。盛り上がるのは良い。興奮するのは構わない。しかし、怒るな。今はその時じゃねぇ。

 俺は、わかってないなぁと肩をすくめる。やり慣れないから自分でもぎこちないのがわかるし、そもそもちゃんと動きが判る程度にすくめられたか?


「さっきお前が言っただろ。俺が使えるのは命くらいだ。見りゃわかるだろ、他に何の価値がある」

「知識とか?」

「学年首位が何言ってんだよ。さっき言った通り、ある程度の価値は認められても、半年の保護に教育の費用としちゃ安いだろ。俺らの前にも異世界人は来てるんだ。一般人が持ってる知識なんて、そこそこ確保されてるさ」

「なら何ができるのよ」

「何もできねぇよ。お前ら選ばれし者とは違うんだよ。だから、命賭けるんだよ。

 何度でも言ってやる。俺はお前らとは違う。元の世界に帰るためじゃねぇ。強くなるためでもねぇ。生きる術を手に入れるためでもねぇ。生き残るために命を賭けるんだ」

「……何を言っても無駄そうね。

 つまり、貴方は、自分を実験台とすることで、スキルの解明、回復に関するノウハウ、勢力拡大の機会を提供する。その代わりに、勇者と同程度の教育を求めるわけね。

 無理はしないこと。ミライが悲しむわ」

「へっ。余計なお世話だ。

 それに、俺はそこまで多く求めない。生き残るための教育と、半年後までの生活を確保できりゃ十分だ。それくらいの価値しかねぇよ」


 やっぱり、頭の良いスズネもわかっていない。ここは、絶対王政で、人権なんてありゃしない世界だ。犯罪者を使えば、時間はかかっても回復のノウハウなんて集められる。勢力拡大だって、スキルの解明だって今回じゃなきゃできないわけじゃない。

 正直言えば王女側に応じる必要性はないし、別に俺である必要もない。ただ、自ら積極的にやろうって言ってる俺だから都合がいいでしょ?ってだけだ。

 そんな俺に処置なしとばかりに肩をすくめたスズネは、椅子から立ち上がった。ベッドに転がったミライを抱き上げようとこっちに来る。俺にとって、数少ない平和な日常を思い出させるもの。それを、『守護』を持つこいつが守ってくれるなら、俺は自分のことだけ考えていられる。別に言う気はしないが、ありがたいとは思っている。

 どう考えても俺は邪魔だな。そう思って立ち上がると、耳元で囁かれた。


「今思いついたにしては見事な策ね。上手く行くことを祈っているわ」


 2回『ヒール』が成功していたわね。おめでとう。

 そう言いながら二人は出ていった。あー、いやー。頭の良いやつってあれだな。何がどこまで理解されてたんだ?

 頭の中が混乱している。混乱しているが、今は、今やるべきことは。


「『ヒール』が2回……たしかに、膝が痛くない、な。

 はぁ。すげぇなあ。

 ……よしっ。自分に『キュア』して寝るか!」


 そう呟いて、ベッドに横になる。月明かりだけだとめちゃくちゃ暗いが、まあ、今更怖がる年でもなし。ただ、誰もいない状況で、布団にくるまっていると、自然と、二度と会えない家族のことが思い出される。

 楽しかった思い出ばかりじゃない。俺が悪いんだが、最近の記憶じゃ腫物扱いで居心地が悪かった。学校でもアレな扱いだったことは言ってはいないけれど、わかってたんだと思う。

 でも、毎日温かいご飯に風呂、きれいな服。不安のない生活。面白いゲームや本。テレビ番組だって、見ればそこそこ楽しめた。……あれは。あれが、幸せだったんだと今なら強く思う。


「……怖ぃ。……くそっ……戻りたい……」


 そんなつぶやきを『キュア』の合間に入れ、きっちり4回目で気絶した。




 ふっと気づくと暖かい布団の中。目覚めがすっきりな体質に今ほど感謝したことはない。目を閉じて布団に入ったまま、周りの気配を探る。

 ……はい、むりー。誰もいない確認どころか、見張られている気配を欠片すら感じられない。しかし、居る。少なくとも、俺なら必ず見張らせる。だから、居るものとして対応しなくちゃいけない。半年先まで、馬鹿で操りやすい、異世界人でいなくちゃ。

 目を閉じたまま考える。今検証が必要なことは何か。確認すべきことは何か。

 どこまでスズネが理解していたか。それは考えても仕方ないけど、どうしても気になる。心の隅に、しこりとして残っている。考えに考え抜いたって前提の俺の策。実は、口から出まかせである。あ、違う違う。行き当たりばったりの策だ。

 何せ、昨日の時点でわかっていたのは、俺のスキルがレアなことと、発動して死んだ奴がいることくらい。レアスキルだから解析できれば価値があるだろう程度の提案しかできない。どう考えても、メリットよりもデメリットが多い。マジで、俺の使い道は勇者様(笑)の目の前で死ぬ役だと思っていた。実際、その通りだったろう。

 でも、魔法訓練の時知った知識と、夕食などの時間を使って、どうにかこうにかメリットらしきものを肉付けしたのが、さっきの話だ。それだって、正直言えば失敗した際のデメリットを考えると採用されないと思う。

 ……本来なら。

 でも、監視役の騎士や俺らの会話を盗み聞いているはずの調査員経由で聞くってことは、こっちからそういった提案があったと周りに知られるってことは、断るにもデメリットが生じる。つーか、断るためにはまともな俺の使い道、もしくは、まともな扱いを示す必要がある。そうじゃないと、勇者様の扱いにも、消耗品扱いしないかと不信感を持たれかねないからな。つまり、スズネとの会話は、監視役などに聞かせることに意味がある、俺の生存策。

 たぶん姫様は、俺が提案したら考慮の上採用するか、慈善事業的に「そんなことは良いから訓練してね」となるはず。そうすることで、自分の慈悲深さを示すか、自分の派閥を強くするかの選択を内外に示す。どちらにせよ、俺の生存が鍵となる……はず。ここまで考えるだけで俺には精一杯。他の選択肢の可能性には目をつぶった。そんな余裕ないし。

 まあ、つまりは、危険な賭けをスズネを使ってやったら、なんつーか理解した上で反応を合わせてくれたっぽくて怖いってことだな。うん。


 そして、もう一つ。俺のステータス。昼間最後の『キュア』は聞いてたやり方と違う。あれが何なのかをきちんと確認しなくては。最悪なのは失敗の場合。失敗かどうかわかるためには、大体の唱えた回数をカウントしておいて、呪文短縮までいけたときの回数を平均と比較しなくちゃわからんな。しかも、その場合は取り返しがつかない。かといって、成功したかわかるには『キュア』の効果がわかりにくすぎる。なにせ、一気に気絶するからな。

 効果も、普通の『キュア』よりもあるのかどうか。そっちも確かめる必要がある。だが……まずは、消費魔力、俺の魔力量だ。今でもあの感覚は覚えている。全身に巡っている魔力全てを『キュア』に使ったはず。つまり、消費量が本当に3だったかわからない。

 なので、まず今晩は普通の『キュア』を気絶するまで唱えることで、俺の魔力量を計る。そうやって一歩ずつ自分のことを分析しないと。

 生き残るために。

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