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第2幕 『くるみ割り人形』のヒロインの場合 ②

 今夜も1人、クララはクリスマスを祝っているとドアをノックする音が聞こえてきた。


「はい、どなたですか?」


クララの問いにドアの向こうから声が聞こえてきた。


「私だよ、クララ。ドロッセルマイヤーだよ。」


「まあ、ドロッセルマイヤーおじさまね?どうぞ?」


するとドアが開いてドロッセルマイヤーが現れた。彼はクララの義理の母親の弟にあたり、有名な人形使いであった。


「メリークリスマス。クララ。君は今年も一人ぼっちのクリスマスを過ごしているんだね?」


その声には哀れみが混じっていた。


「いいのよ、おじさま。こんなのは慣れっこだから気にしないで。」


クララは笑顔で答えた。


「そうかい?それではそんなクララに素敵なクリスマスプレゼントを持ってきたよ?」


言いながらドロッセルマイヤーは持っていた袋からクララに一つの人形を手渡した。

それは兵隊の姿をした木彫りの人形であった。歯の部分が異様に大きく、随分と不格好であったが、何処か愛嬌のある人形を一目見てクララは気に入ってしまった。


「まあ・・・何て可愛らしい人形なのかしら。」


クララは人形を抱きしめると言った。


「クララ、これはくるみ割り人形だよ。気に入って貰えて良かった。さて、クララ。今夜は大雪になりそうだから、私はもうこれで失礼するよ。」


「ありがとうございます、ドロッセルマイヤーおじさま。」


クララが頭を下げると、ドロッセルマイヤーは笑みを浮かべて部屋を去って行った。

また一人になるとクララは満足そうにテーブルの上にくるみ割り人形を置いて微笑んだ。そしてクリスマスの続きを祝った。


 それから数時間後―


来賓客が全て帰った後、再びノックの音がした。


「誰ですか?」


「クララ、私だ。フリッツだ。」


(え?フリッツ兄様?)


途端にクララの身体に緊張が走った。クララは昔からフリッツが苦手であった。特にフリッツが大学に入学し、クリスマス休暇に帰宅するようになってからは尚更だった。


「どうした?、クララ。ここを開けるんだ。」


再びドアの外でノックの音が聞こえた。


「は、はい・・・お、お兄様・・・。」


クララは緊張の面持ちでドアを開けるとそこには兄のフリッツが立っていた。

金の髪に恐ろしい程整った美しい顔。普通の女性なら彼を見れば皆頬を赤らめて彼を見るだろうが、クララだけは違った。この顔に見つめられると、まるで蛇に睨まれた蛙のごとく、身体が委縮してしまう。


フリッツは部屋に入ると、何故かドアを閉めてしまった。そしてクララに言う。


「クララ、私が呼んだらすぐに部屋を開けるんだ。」


「は、はい・・・。」


クララは俯いて返事をすると、フリッツはテーブルの上にあるくるみ割り人形を見つけた。


「何だ・・・?随分不細工な人形だ。」


無造作に手に取ると、フンと鼻で笑った。


「・・・・。」


クララは黙ってその様子を見ている。するとフリッツはクララを振り向くと言った。


「クララ。お前・・・もう18歳になっただろう?」


「は、はい・・・。」


「いつでも結婚できる年齢になったな・・・?」


その眼は怪しく光っていた。


「は?はい・・・。」


するとフリッツは大股にクララに近づくと、言った。


「クララ。私はお前を愛している。お前は私と結婚するのだ。もう父と母には話してあるし、2人の承諾は得ている。来年・・年が明けたらお前は私の妻になるのだ。」


「!」


それはあまりにも衝撃的な言葉だった―。




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