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美女とオーク

 鼻がシュッと通った整った顔に、銀色の髪。


 耳が少し人と違い、長く尖っている。


 胸の膨らみと、薄い布に目がいってしまいそうだ。


 視線を逸らし、しばらく彼女を抱えたまま座っていた。


 彼女もまた人と少し容姿が違う……。


 ここに来る前に、生まれ変わりたいと願った事が現実になったのか。


 そう勘違いさせるくらいに、今居る所がおかしいのだ。


「うっ、うぅ……」


 彼女が少し苦しそうなので、身に着けている鎧を丁寧に剥ぎ取ってあげた。心持ち、彼女は苦痛がなくなったのか表情が穏やかになった気がする。


 そのまま、彼女を抱えたまま、自分も眠ってしまった。


 ――目を覚ました時には、抱えていた女性の姿は無かった。


 これでは話も何も聞けない……どこに行ったのだろう……。剥ぎ取った鎧はそのまま残されている。


「きゃー! 誰か助けてくださいまし!」


 人の声、それも女性だ。もしかしたら、彼女かもしれない。


 そう思って、全速力で声のする方へ向かった。


「この程度で私が倒せると思ってまして! うっ! あぁぁっ!」


 薄暗い中、目を細めて見ると、ニョロニョロと蔓が巻き付き、逆さに吊るされた彼女がいた。


 薄い布が捲れあがって、少し目のやり場に困る。


「ヒィッ! オークまで呼んでしまうなんて……」


 吊るされていた彼女は、何故かぐったりとしてしまった。これはイカン! そのまま蔓をぶっちぎって彼女の身体をゆっくりと降ろし抱きかかえた。


 ニュルニュル動く蔓が、俺の身体にも纏わりついてくる。


 そのまま構わず引きちぎりながら、元居た場所へ帰ろうとした。


 途中で、水辺のある場所を通り過ぎた事を思い出す。


 意識の無い彼女の目を覚ますには丁度いい。


 水辺で少しだけ手に水をすくって、彼女の顔に垂らしてみる。


 数滴ずつ彼女の額に当たると、水の冷たさが刺激になり目を覚めそうだった。


「ヒィィ、わっ、私はオークには、おっ遅れなど、とっとりませんの! この醜い豚め! 殺してやるのです!」


 うわーなんすかこれ。助けてあげたのに、滅茶苦茶酷い言葉を投げられたんですけど。


 いや、分かりますよ。俺、そんなに顔が良いとは思ってませんから。でも、ちょっと初対面に対して酷い言い草じゃないですか。


「テイセイシロ! イッテイイコトトワルイコトガアル!」


 ちょっと怒り気味に彼女を叱ったら、今度は泡を口から噴き、下半身からジョーッっと音がしてスカートが濡れていった。


 あれ? なんかまた気を失っちゃった?


 再度、意識を戻そうと水を垂らすが、今度は意識が戻っても彼女は目を開けようとしなかった。


「ナゼ、メヲトジル? スコシハナシヲキカセテクレ」


 抱きかかえた彼女に、なるべく優しく声を掛けてみたが、全然、目を開けてくれない。


「ネタフリハヨクナイゾ。ミズヲモットカケヨウカ?」


 薄っすらと彼女は目を開けて、俺の顔を見たが、直ぐに目を瞑り顔を背けた。


 こままじゃ拉致があかない……どうすれば彼女は目を開けてくれるのだろう……。


 途方にくれ、天を仰ぐように視線を上に上げた時、


 ぐぅー。


 彼女のお腹から、腹の音が聞こえて来た。


 直ぐに視線を降ろすと、彼女は顔から耳まで真っ赤になり、恥ずかしそうな表情を見せた。


「オナカスイテルノカ? タベモノヲサガシニイコウ」


 顔は真っ赤だけど、目を開けてくれない彼女を一人には出来ないので、抱えたまま洞窟の中で食べられそうな物を探しに行った。


 探索中に、幾つか奇妙な動物がいたので、蹴り倒しながら進んでいく。


 自分はどれもそのまま食べられそうだが、彼女は何が食べられるのか分からない。


 仕方が無いので、持ち帰れそうな物は引きちぎって、後で彼女に聞いて見る事にした。


 あまり通りたくはなかったが、人が沢山死んでしまった場所にも一応寄ってみる。もしかしたら、食べられる物が落ちているかもしれないし、使える物もあるかもしれないと思ったからだ。


 案の定、少し離れた場所に大きな木箱が幾つかあり、その中には衣服や食料、台車もあった。


 途中で得た獲物と一緒に、木の台車をロープで括り付けて片手で引いて水辺へ移動する。


「オマエ、コレハタベラレルカ?」


 彼女の前に、木箱にあった食べ物と自分が獲って来た獲物の端くれを置いてみた。


「オナカガスイテイルナラ、ムリヲシテハイケナイ。タベナイトシヌゾ?」


 観念したのか、彼女は恐る恐る目を開けて、目の前の物を眺めている。視線の先には、やはり木箱にあった食べ物を見ているようだ。


「コレガイイノダナ。タベロ」


 彼女の前に食料を摘まんで見せると、すぐさま掴んで食べ始めた。


 よかった、やっと話ができそうな雰囲気になったよ……。


「コレハタベラレナイノカ?」


 一心不乱に食料にありつく彼女は、チラリと俺が指さす物へ視線を向けた。


「やっやけば食べられますの。オークは焼き方をしらないのね」


 彼女は、自分の腕から離れると、俺の獲物の肉を石の上に置く。そのまま、ぶつぶつと喋ったかと思えば石の下に火が灯った。


 おぉ? 何か着火装置みたいなものあったっけ?


 でも、火があれば肉が焼けるしどうでもいいや。


 とにかく、あの火は貴重だ。絶対に絶やさないようにしなくては!


「ソノヒハタヤシテハイケナイ。コノキヲマキニシロ」


 木箱を逆さにして、中に見をその場にぶちまけて木箱をぐしゃっと潰す。あっさり潰れた木箱をかき集めて、キャンプファイアーみたいに木を重ねて、中に火を移し替えた。


 ほぁ、火だ! 俺に火が与えられたよ!

 

 なんか、原始人になった気分だなぁ……はぁ、早く元の世界に帰りたい……。


 こんなレトロな生活はもううんざりだ。


「これで食べられますの。どうぞ召し上がってください」


 彼女は、石の上を俺に示すと、なんとも香ばしい肉が置かれているではありませんか!


 思わず生唾を飲み込む。


「イイノカ? オマエガヤイタノダロウ?」

「私は、さきほどいただきましたので。どうぞ」


 彼女の言葉に甘えて、石の上にある肉をペロリと口に入れる。結構大きい肉だった気がするけど、一口で平らげてしまった。


 もう、本当に俺は何者なんだよ……と思いながら、喉を肉が通過していく。


 うっうまい! いままで食べた事のない蕩ける旨さだ! もっと食べたい!


「マダツクレルカ?」

「ええ、足りなかったようですわね」


 彼女は、次から次に火を使って肉を焼いてくれた。結構な量の肉があったが、全て焼いてもらい食べきってしまった。


 こんな満腹感、久しぶりな気がするよ。


 綺麗な女性さんありがとう!


「アリガトウ。オナカガフクレタヨ」

「どういたしまして。お役に立てて良かったですわ」


 しばらく、満腹感に浸っていると、彼女は俺が巻き散らかした木箱の中身を物色し始めた。


「ツカエルモノハツカッテイイゾ。オレニハフヨウダ」


 そう告げると、彼女は少し嬉しそうな表情を見せる。


「ありがとう存じます。では、この衣服類を使わせていただきます」

「アア、モッテイケバイイ」

「この水は綺麗ですね。少し汚れを落としても構いませんでしょうか」


 女性だし、顔でも洗いたいのだろう。黙って頷いてみせた。


 すると、彼女は衣服を脱ぎ水の中へ首まで浸かり始めたではないですか……その光景に思わず唖然としてしまい、途中で意識を戻して彼女から背を向ける。


 なんか明け透け過ぎやしませんか……流石に女性の生着替えなんて、ラブホかAVでしか見たことないですよ。


 ちょっと心臓がバクバクして、やたら下半身が脈うっているのですけど……。


 落ち着け、落ち着くのだ俺の理性!


 ふぬっぅ!


「オークなのに、紳士なのですね。貴方は不思議な方。私を助けたり、食べ物や衣服を与えるなんて。」

「キニスルナ。オレノタメデモアル。ソレヨリモネドコヲヨウイスル」


 流石に、彼女を抱えて眠らせるのは不可能だ。


 彼女の姿をまともに見る事はできないので、視線を逸らしながら、そこらへんにある土を盛り上げ、草を大量毟ってフカフカにして大きな布を掛けたベッドを急造してみた。


「コレデスコシハネラレルカ?」


 彼女は寝床の感触を手で押して確かめると、


「はい、この柔らかさは丁度よいです。ありがとう存じます」

「デハ、タイヘンダッタダロウカラネロ!」


 少し不思議そうな顔でこちらを見てくる彼女だったが、そんな事には構わず俺は薪をくべるために火と相対した。


 彼女の急造ベッドに変な虫が付かないよう、まだ布に余裕があったので幕を張って囲ってあげた。


 明日から、いろいろ聞きたい事があるし、今日はゆっくり休んでもらえればいい。


 ――日の出る感覚も掴めぬまま、彼女が起きて来た。


「モウオキテイイノカ? ヨクネムレタカ?」

「はい、おかげさまで良く眠れました。貴方様は眠らないのでしょうか?」


 うたた寝くらいだが、あまり眠くないんだよね……この身体はマジでタフ過ぎる……。


「オレハモンダイナイ。キニスルナ。ソレヨリチョウショクハコレデヨイカ?」


 彼女の前にいくつかの食料を差し出し、食べるように促す。


 笑顔で、彼女は受け取り少しずつ上品に口にしていく。その姿に思わず見惚れてしまった。


 あまり彼女を見続けると、この身体が異様に血が騒ぎだし下半身が熱くなるのだ。


 かなり必死に制御しているが、目を合わせると危険である事を理解した。

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