3.初めての召喚
光が強く、目を瞑った俺の耳に割れんばかりの歓声が届いた。
は? 目をゆっくりと開けると外人が沢山いる。
金の髪に、赤い髪。青い髪は勿論だが、見事なシルバーまでいる。目の色もそれぞれ違うし、何より格好がやばい。
コスプレ会場かと周りを見渡せば、絢爛な玉座の間が目に映る。
馬鹿みたいにデカい王冠を被り、見事な赤いマントから王様だと分かるが------ 何だ? なり切るにしても、なりきり過ぎてて笑える。
おいおい、髭も長いしつけてるのか? 威厳ありすぎだろ。
外人のコスプレって、レベル高えんだな---- 半端じゃない。
「勇者よ。よく参った」
勇者? 俺の事か? 笑いがこみ上げてくる。
やばい------ このドッキリは面白い。
こんな面白い事があるとは、人生捨てたもんじゃないな。
「我が国はこれで救われるだろう。勇者よ魔王を倒すのだ」
魔王? 魔王役もいるのか?
これは期待出来ると周りを見たが、魔王らしき姿はなく着飾った奴らばかり。
どういう事だ? コスプレ会場にしては作りに金がかかり過ぎてるな。
絢爛な玉座は勿論、天井には見た事が無いほど大きなシャンデリアがある。
俺は嫌な予感がして冷や汗を流した。
「勇者よ、どうしたのだ?」
「あのー、ここはどこですか?」
「ここはジュラ王国。ガンナー大陸の真ん中でもある」
ジュラにガンナー大陸なんて、一度も聞いた事がない。
やばい、やばい。これはやばい。
冷や汗がダラダラと流れ出す。
これは------ ネット小説の話かと思っていたが、現実にあるものなのか。しかも何で俺なんだ。
まあ、つまらない日常からは抜け出せるかもな。
ちょっと話に乗ってみるか。もし違っても、もう会う事のない奴らだ。夢かもしれないからな。
「分かりました。魔王を倒しましょう」
「おおそうか。それでは宜しく頼む。勇者よ名を教えてくれるか?」
「俺の名は空閑夕間。世界を救って見せましょう」
割れんばかりの歓声と足踏みで、絢爛な玉座が震える。
人々の喜び溢れる顔を眺めて、俺は初めて怖くなった。
リアル過ぎる喜びに、俺自身ついていけない。
騎士に連れられ部屋へと案内された俺は、部屋で一人になると同時に直ぐにベッドへ入った。
夢なら覚めてほしいと、無理矢理目を閉じて寝る。
目が覚めると、やはり夢ではない事に気づき声を漏らした。
あー、どうしたらいいんだ。戦うなんて面倒臭い。
昼までゴロゴロしながら、自分がゲームの中のように戦うなんて嫌だと駄々を捏ねていた。
しかし魔王討伐の為、準備が始まると俺の世界は一変する。
色のない世界が消え、表情には出さないが胸が高鳴り色が生まれていく。
魔法が使える事に、楽しさを感じた。
魔道具の作成を学んだ時には、湧き上がるワクワクを止められない。
------ これは面白いかもしれない。ちょっと期待できそうだ。
選ばれた騎士や魔法師と旅に出ても、初めてゲームをした時のように戦いにのめり込んでいく。
日本とは違う景色や、野営の体験、ギルドでの食事。
どれも俺を刺激し、夢中にさせた。それに初めての仲間が出来、恥ずかい事に何だか嬉しい。皆気のいい奴らで、戦いでは互いに助け合う。
友達がいない俺には新鮮で、会話も弾んだ。
だがそんな時間も、長く経てば飽きてくる。
魔王を倒す時には、レベルもカンストしていたし、装備も満足するものになっていた。
面倒臭いと思いながらも、仲間の為に魔王をどうにか倒す。
やれやれ、やっと倒したか。また城に戻るのが面倒臭いな。
魔王を倒して立ちすくむ俺の前に、光に包まれた女神が現れた。
長い金の髪を垂らして、白い服を着た女神はゲームの中そのもの。じっくりと女神を観察していたら、女神が話し始めた。
「人間に召喚された勇者よ。世界を救ってくれて有難う。貴方の願いを一つだけ叶えましょう」
俺は迷いもなく答えた。
「俺は帰る。ここでもつまらないなら、日本がいい」
願いを叶えましょうと女神が言うと、俺は光に包まれた。
目を開ければ、元いた場所に立っている。
慌てて携帯を確認すれば、日にちは変わらないまま少しだけ時間が過ぎていた。
ハアと息を吐いて、疲れたなと思い家へと歩き出した。
だが、俺はこの時何も分かっていなかった。
王に名前を聞かれた時、素直に答えたのが間違いだったと次の召喚で気付かされた。
名前を特殊な魔法陣に縛られた俺は、あれから何度も召喚させられる羽目になる。
繰り返し倒される魔王にも、もはや同情さえしてしまう。
魔王は俺が何度もくる為、顔を合わせたとたん隠れたぐらいだ。
まあ、見つけられたから良かったけど、面倒くさかったな。
女神なんて、俺が帰るというのが分かっているのか、姿も現さず光だけだす始末。お礼を言われたのは2回目までだ。
何回も繰り返される召喚に、俺はどんどん憂鬱になっていく。
5回目の召喚をされた時、俺はレンタルDVDを返す直前だった。
何度も借りてるアニメのDVDを手に持っていた俺は、まるで自分の様だと思い乾いた笑いが出る。
あー、まるで俺だな。レンタルされてる気分だ。
そして、今回の召喚で10回目。
切りもいいし、もう終わりにしたい。
また、あの怯えた顔の魔王に会いに行くなんて------ ハア。疲れる。
聴き慣れた割れんばかりの歓声を背に、やる気のない俺はその場から立ち去った。
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