移動
右眼に装着してある機械を再び起動した。仮想科学研究科学生でかつ仮想世界に関わることには目がない俺が知らない未知の機械。
色々と興味をそそられるものがあるが今はそれどころではない。
先程の武器召喚の様からしてボイスコマンドが有効であることは明らかだ。
「DIE・・・だったか?モンスター・ジ・クロスからグランポーションとデバフフルエイドを呼び出せるか?」
『はい。可能です。モンスター・ジ・クロスよりグランポーションとデバフフルエイドを流用します。』
やはり簡単なものなら会話が成り立つようだ。
再び機械からレーザー光線が飛び出し、その軌跡から魔法陣が頭上に描かれた。その中心からグランポーションとデバフフルエイドが落ちてきた。
見た目も俺がプレイしていたモンスター・ジ・クロスそのもので、黄色の液体の入った瓶を開けるとパイナップルの香りが鼻をくすぐる。
それを蒼白な顔面の少女の口元へと運ぶ。
「気絶・・・してるよな。飲めるのか・・・?」
一瞬間接キスという選択肢が浮かぶが全力で首を振って否定した。
ええい!考えても仕方ない。先端を彼女の口に突っ込み、逆の手で顎を持ち上げて無理矢理喉へと押し込む。
はたから見るとこれはこれで顎クイじゃね?とか不埒な考えが一瞬よぎったが、これは蘇生行為だレスキューだと無理矢理思考を飲みくだして火照った顔を振った。
彼女の小さな喉がグビッグビッと微かに音を立てて飲み下していく。
瓶の中が空になる頃には次第に彼女の顔色も赤味を取り戻していった。
どうやらモンスター・ジ・クロスで一番効果のある60%ヒットポイント回復薬は有効のようだ。
だが彼女は起きる様子を見せない。
同じ手順でデバフフルエイドを飲ませた。
こちらはデバフ、つまり気絶、麻痺、毒、眠りの状態異常や攻撃や防御ダウンなどの能力値ダウンなどの全てのマイナス効果を打ち消す能力を持っている。
気絶にも効くはずだから起きてくれるよな・・・。淡い期待を込めて彼女が飲み干すのを見守った。
「う・・・・うーん・・・・」
「・・・・・・ふぅ・・・・」
何とか呻き声は出るようになったようで、とりあえず安堵した。しかし起きる様子はない。
いや、これは・・・。
「むにゃむにゃ・・・ママぁ・・・カレーライス・・・ふにぃ・・・」
「ママにカレーライスを作ってもらう夢って・・・お子様かよ」
彼女の寝言は日常を思わせるようで微笑まずにはいられなかった。
だが現状はそんなに甘くはない。
どうすんだ・・・この状況。このまま彼女を放っとくわけにもいかんし、かといって学校に連れて行くにもなぁ。
星羅あたりにしばらく付き纏われそうな気がして頭を抱える。
バシッ!!!
「後のことを考えてる場合じゃねぇな。出来るだけバレねぇように保健室に連れてくしかねぇか。」
両頰を叩いて雑念を飛ばす。
命・・・が懸かってるかは分からないが嫌な予感しかしないので、保健室という名ばかりのサボり部屋へ彼女を背負って駆け出した。
この時俺の両頰の燃えるような痛みに気付けなかったのは仕方がなかったのかもしれない。