第六話 保健体育教師 尾根エディ
俺こと佐渡永夢はとある事件をきっかけに異能に覚醒し、この異能学園に転校してきた。異能学園は基本的に全寮制で生徒は皆、この寮から登校することとなる。俺は転校初日に席が隣になったことから報情装太とよく行動を共にするようになっていた。この日もいつものように朝、報情と登校しているところだった。
「なぁ佐渡。この学園で平和に過ごしたかったら絶対に教師連中を敵に回さないほうがいいぜ」
「ん。急にどうしたんだ?」
報情から忠告されたが、学園に来てからまだ日が浅い俺にはこの言葉の意味を理解出来ずにいた。
「普通に考えてみろ。俺達のような異能に覚醒した連中の中にはこんな学園くらいなら支配出来る能力持ちが何人いてもおかしくないわけだ。だがそんなことをしようとする奴はいない。これがなぜだかお前にはわかるか?」
「……それは能力の発動条件があまり他人には知られたくないからとかじゃないか?」
「それも理由の一つとしてはあるんだろうが……強力な能力なら一度だけその最低な能力発動条件に耐えれさえすれば世界を征服することも出来るかもしれないんだぜ」
確かに言われてみればそうだ。能力者によっては世界を征服出来るようなかなりヤバイ奴が一人はいてもおかしくはない。だが実際にそういった行動をする奴は今のところ見ていない。
「……もしかすると、さっきお前が言った教師連中を敵に回すなってことが関係あるのか?」
「ああ。佐渡が転校してくる少し前に自分の能力に自信があったのか、学園をまず支配しようとした不良能力者がいたんだ。だがそいつはあっという間にこの学園の教師に制圧されたんだよ」
「そんな奴を制圧するって……まさかここの教師連中も能力者なのか?」
「その通りだ。そこでだ、今朝の登校チェックはさっき話した不良野郎を一人で制圧した尾根先生だから絶対に逆らうなよ。いいな!」
「あ、あぁ……」
改めて念を押すように話す報情に俺はやや押され気味に答える。そうこうして話しながら歩いていると学園の校門が見え始めた。その校門の前に一人の長身で日焼けしたような肌の筋肉質な身体をした大男が立っていた。外見の特徴からかよく目立つため、少し離れた場所からでもこの大男が報情の話していた尾根先生であることは安易に予測が出来た。
「なあ報情。あの色黒で筋肉質な大男がお前の言っていた尾根先生なのか?」
「そうだ。あの大男が尾根先生だ。名前は尾根エディ。アメリカ人と日本人のハーフらしい」
俺達は話しながら校門へと近づく。そして校門の前へ辿り着くと、件の尾根先生が俺達に話しかけてきた。
「おはよう!」
俺達の目の前に立つ大男は無駄に元気な大声で挨拶をしてくる。しかし、声の大きさと威圧的な見た目から初めて会った尾根先生に俺は圧倒されていた。
「おいおい! 朝から元気がないじゃないか! ん……報情と一緒にいる君は確かこの前に転校してきたのだったか! 顔を合わすのは初めてだな! 俺は尾根エディだ! よろしく頼む!」
「お、おはようございます。転校生の佐渡永夢です。よろしくお願いします」
「ハハハ! なんだなんだ、まだ緊張しているのか! まあここは君と同じ異能者が集まる学園だ! すぐに慣れてくるさ! それまで何か困ったことなどあったら相談してくれるといいぞ!」
見た目はかなり怖そうな尾根先生だが悪い人ではなさそうだ。
俺達は尾根先生と別れ、校門を通り学園内へと入った。
「何というか……凄い迫力のある先生だったな。あれならお前が尾根先生には逆らうなって言うのもわかった気がするよ」
「いや、確かに見た目による迫力もあるが尾根先生の本当のヤバさは他にある」
「え……それってどういうことだ?」
尾根先生の本来の恐ろしさとはどのようなことなのか、俺は報情にそのことを聞こうとした。俺の疑問に対し報状が答えようとした瞬間、歩きながら話す俺達の後方である校門の方角から誰かが揉めるような大きな声が聞こえてきた。そのうちの一人は先程聞いた尾根先生の声だった。
「何があったんだ!?」
「……また始まってしまったか」
何が起きたのか全く理解の出来ない俺とは違い、報状は慣れた様子で校門の方角を見ていた。
「おい佐渡。俺が説明しようと思っていたがその必要はなさそうだ。実際に尾根先生の能力が見れるかもしれないぞ」
報状はそう言うと俺達が歩いてきた道を引き返し校門側へ向かい走り出していった。その様子を見ていた俺も報状を追いかける。
先に校門へ着いていた報状に追いつくとそこは騒ぎを聞きつけた学園の他の生徒たちも集まってきていた。そしてその中心には尾根先生とモヒカンのような髪型をしたいかにも不良といったような見た目をした男が立っていた。どうやら先程聞こえた揉めるような声はこの二人のものだったようだ。
「君はどうやら最近異能に覚醒した新しく転校してくると聞いていた生徒のようだがなんだその髪型は! それに制服も正しく着用出来ていないではないか! 校則は守りたまえ!」
「うるせーんだよ! この俺に指図するんじゃねえ!」
尾根先生の言葉を聞くにモヒカンは新たなこの学園への転校生のようで登校チェックで注意を受けたようだ。そしてこのモヒカンが反抗し続けていることがこの騒ぎの原因のようだった。
「これ以上俺に指図するなら俺の能力でこの学園ごと支配して誰も俺に文句言えないようにしてやるぜえ!」
「そうか……能力を使うつもりならこちらも本気でそれを止めなければならない。もう一度だけ聞こう。本当に能力を使うつもりなのか?」
「上等だぜコラー! 止められるものなら止めてみな! 俺の筋力を超パワーアップさせる能力でてめえを殴り飛ばしてやるぜー!」
尾根先生はモヒカンに対して最後の警告をするもどうやらモヒカンは引く気はないようだ。
「ありゃ……あのモヒカン終わったな。佐渡よく見ておけ、これが尾根先生に逆らわないほうがいい理由だ……」
報状が俺にそう言った直後、モヒカンは能力を発動するための条件を満たそうとしたのか何らかの動作を取ろうとする。しかしその動作よりも先に尾根先生が加速しモヒカンの背後をとった。そしてモヒカンの腕を掴み背後から拘束した。
「あらあらぁ。なかなかにいい筋肉をしているじゃなぁい。素晴らしいわぁ」
モヒカンを拘束している尾根先生が突然オネエ言葉で話し出した。この様子を見ていた全員が言葉を失い、周囲は一瞬にして静かになった。
「なんだてめえ! きもちわ……ぐわあああ! 身体に力が入らねえ!?」
静まり返った空気の中、尾根先生に拘束されているモヒカンの悲鳴が響き渡る。尾根先生がオネエ言葉で突然話し始めたその様子を俺は理解が出来ずにいると、隣にいた報状が話し始めた。
「佐渡。あれが尾根先生の能力だ。触れた相手の力を吸い取る能力。能力の発動条件は能力の使用中オネエ言葉で話し続けることだ。そしてこの能力で力を吸われた奴は男だとEDにされてしまう……トラウマを植え付けられた上に男としての戦闘能力さえも封じられてしまう恐ろしい能力だ……」
「本気かよ……」
そうこうしているうちに尾根先生に密着され、オネエ言葉で囁かれながら体中を触られ拘束され続けているモヒカンは最早戦意を失い、ついには涙を流し泣き出しずっと謝り続けていた。
これは確かに色々な意味で尾根先生には逆らわないほうがよさそうだと俺は深くこの光景を忘れないようにしようと心に決めたのだった。
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尾根エディ
触れた相手の力を吸収する能力。能力使用の対象が男だった場合は追加でEDにしてしまう。能力の発動条件はオネエ言葉で話し続けること。ちなみにノンケ。
モヒカン
自身の筋力を強化し怪力になる能力。能力の発動条件は体毛を抜くこと。抜いた体毛の種類と量により筋力の強さが変化する。本名は毛根力。あだ名はモーリキー。