第一話 異能者の集まる教室
俺、佐渡永夢はある日突然に異能者として覚醒した--
この世界には数は少ないものの俺と同じように覚醒した者がいるらしい。だが異能者の存在は社会の混乱や争いの火種となりかねないということで存在は一部の者たちを除き基本的には秘密とされている。このような事情により、俺は秘密裏に創設された異能に覚醒した者たちを管理するとある学園へと転校をすることとなった。
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転校初日。俺は学園の職員室に来るようにと言われていたのでそこへと向かった。職員室に辿り着くと俺は扉をノックして中へと入った。すると扉の近くにある机に座っていた金髪で碧眼の長い髪を後ろで一つにまとめた綺麗な女性がこちらに気付き、こちらへと歩いてきた。
「オー? 見慣れナイ人デスガ、モシカシテ、アナタガ話ニ聞いてイタ転校生サン、デスカ?」
「はい。佐渡永夢です。学園に着いたらこちらに来るように言われていたので来ました」
「ヤハリ、ソウデスカー。私ガ、アナタノ、クラスノ担任トナル、オリヴィアデース。ヨロシクお願いシマスネ!」
この金髪の女性はオリヴィアという名前で、どうやら俺のクラスの担任となるらしい。日本語は一応話せる様だがカタコトのようで、少し聞き取りにくさはあるものの日常会話くらいなら恐らくは問題なく日本語で話せそうであるように感じた。
担任であるオリヴィア先生との挨拶を終え、これから朝のホームルームが始まるとのことで俺はオリヴィア先生と教室へ移動した。教室の場所は職員室からとても近く、すぐ隣がこれから俺が過ごすことになる異能者の集まるクラスとなっていた。
「異能者クラスって……職員室の隣なのですね」
「ソウナノデスヨー。学生トイッテモ特殊ナ子タチノ集まりデスカラネー。何カアッタラ、スグニデモ対応デキルヨウニシテイマース」
確かに特殊な異能を持った者たちを一箇所に集めるとなると何が起きてもおかしくはないのだろう……俺はオリヴィア先生の答えに納得をし、教室の扉の前で先生と共に立ち止まった。
「デハデハ、コレカラアナタノコトヲ紹介シマスノデ私ト一緒ニ教室ニ入ってクダサイネー」
オリヴィア先生はそう言うと、先に教室の扉を開け入っていった。俺はその後を追い、異能者の集まる特殊な教室の中へどんな奴らがいるのか緊張しながら入っていった。
「グッドモーニンッ! エブリワン! ミナサン、オ元気デスカー?」
教室に入ると同時にオリヴィア先生が生徒に向けて挨拶をする。クラスの生徒からの挨拶が返されると先生は続けて話を続けた。
「サテサテ本日ハ、ミナサンノ新たなお仲間ヲ、ご紹介シマスネー! 彼ノお名前ハ、エイム、サド。ヨロシクお願いシマスネー!」
「佐渡永夢です。今日からこの学園に転校してきました。よろしくお願いします」
俺は自己紹介を終えると教室内にいる自分以外の生徒の顔を見回してみた。すると、教室の後ろの方にある席に見覚えのある顔がそこにあった。黒くて長い髪を後ろで二つに束ね、三つ編みにしたおさげで眼鏡をかけた大人しそうな少女。以前、この少女と出会ったことがきっかけで俺は異能に覚醒してしまったのであった。少女は俺と一瞬、目が合うと顔を伏せてしまった。
転校初日に俺はこれから自分が過ごすことになる教室で異能が目覚めるきっかけとなった少女と再会した。オリヴィア先生にホームルームで紹介をされた後、その少女を見た俺の反応を見て先生は面白いものを見つけたような表情で話を続けた。
「アー、聞いてイタ話ニヨルト、サドクント、エスナチャンハ、一度出会ってイルノデシタネー。ソレデハ丁度ヨカッタデス。サドクンノ、お席ハ、エスナチャンノ後ろデース。トナリノ、ホウジョウクン、何カアレバ、助けてアゲテクダサイネー。デハデハ、サドクンモ、お席ニ座ってクダサーイ」
オリヴィア先生にそう言われた俺は自分の席についた。すると、隣の席にいる短髪をツンツンと尖らせたような髪型をしたホウジョウクンが俺だけに聞こえるくらいの小さな声で話しかけてきた。
「よう。お前が今日転校してくるって噂だった奴か。オレは報情装太っていうんだ。よろしくな」
「うん、これからよろしく」
「それはそうと……先生が言っていたが、お前は舞園さんとは知り合いなのか?」
「舞園さん?」
「お前の席の前にいるだろう」
「あー……まぁ以前に色々とあってね。顔は覚えてはいたが名前までは知らなかったよ。舞園さんって名前なのか」
「彼女の名前は舞園絵砂。まぁ気になる女の子とかいたらオレに言ってくれれば情報提供するぜ。可愛い女の子の情報を集めるのは得意だからな」
「へぇ。それならこのクラスの奴らがどんな能力を持っているのかも知っているのか?」
「能力については流石のオレも知らないことの方が多い。まぁ何人かは判明してはいる。お前も自分自身が能力者だからわかるとは思うが……能力だけならまだしも発動条件は特にあまり他人には知られたくはないだろう?」
「それは……確かにそうだな」
「だろう? まぁまた後で話そうぜ」
こうして報情装太と話していると、オリヴィア先生はホームルームでの話が終わったのか、教室から退室していった。それと同じタイミングでチャイムが鳴り響き休憩時間となった。俺は前の席にいた舞園絵砂に話しかけてみた。
「舞園絵砂さんだっけ? 久しぶり。君のおかげで俺も能力が覚醒してこの学園に転校することになったよ。これからよろしくね」
「あ……は、はい。佐渡……くん。よろしくお願いしますぅ」
舞園絵砂と挨拶をすると、彼女は席から立ち上がり教室から出ていった。
「お? さっき言っていた以前に色々とあったってやつか」
「まぁな」
舞園絵砂と俺の様子を見て報情装太は興味があるように話しかけてきた。ちょうど、さっきのホームルームでの話の続きをしようとした俺は報情装太に話題を振ろうとした瞬間、ややツリ目で長く赤い髪をツーサイドアップにしたお嬢様のような女の子がこちらへと向かってきた。
「ちょっとあなた! さっきの絵砂の様子はどういうことですの!? 何やら顔見知りのようですが私の絵砂に何をしましたの!?」
「いや、特には何もないって。ただ、以前に舞園さんに助けてもらって、そのついでに俺も能力が覚醒した感じだよ」
「ふぅん……まぁいいですわ。私は絵砂を追いかけますので」
ツリ目お嬢様はそう言うと、すごい勢いで舞園絵砂を追うために教室から飛び出していった。
「今のは何だったんだ……」
「彼女はこのクラスの委員長で名前は薔薇束読音だ。薔薇束財閥のお嬢様で大の男嫌いで女の子が好きらしい。で、さっきの様子で何となくわかると思うが……特に舞園さんのことを愛しているみたいだ」
「そ、そうなのか。さすがは異能者クラス……変わった奴が多いんだな」
「それはお前も同じだろうが」
「あぁ……そうだな」
俺と報情装太が話していると、次は長身で髪はサラサラした茶髪。男の俺から見てもかなりのイケメンな奴が話しかけてきた。
「ふっ……転校してきていきなりこの僕、廃絶爆より目立つなんてね。まぁ君が学業もスポーツも成績優秀な僕より優れたところなんて一つもないだろうから、目立つくらいは許してあげようじゃないか」
廃絶爆と名乗った厭味ったらしいクソイケメンは俺にそう言うと再び自分の席に戻っていった。
「あいつは本人が言った通り、廃絶爆って名前だ。見た目はイケメン長身で成績優秀、喋ると今みたいな感じだから黙ってさえいればモテること間違いなしな残念な奴さ」
「それすごいわかるわ」
「それと……このクラスで能力を知られている数少ない奴だ」
「一体どんな能力なんだ……?」
「それはな……排泄物を爆発物に変換する能力だ」
「え……? さすがにそれは冗談だろ? え? 本気なの?」
いくら何でもフザケ過ぎた能力だろう。俺はそう思い報情装太が話し始めるのを待った。
「……それが本気な話だ。奴の能力がこの学園で知れ渡ることになった事件があるんだ」
報情装太はそう言うと、廃絶爆事件について教えてくれた。
廃絶爆事件。それは廃絶爆が学園のトイレを使用していた時に起こった。廃絶爆が授業中にトイレへ行きたくなり、先生に許可を貰い廃絶爆がトイレへ行くと学園中に爆発音が響き渡り、校舎の一部が爆発したという。そして、トイレの瓦礫の中から気絶した廃絶爆が発見され救護されたようである。後の調べでその爆発は廃絶爆の能力が暴走したことによるものだったと判明した。それにより廃絶爆の能力が排泄物を爆発物に変換する能力だと言うことが知れ渡ったというものだった。
「なんと言うか……すごい奴だな。廃絶爆」
「あぁ……すごい奴だよ。廃絶爆」
報情装太と俺はそうこう話していると授業開始のチャイムが鳴り響き、休憩時間の終わりを告げた。するとチャイムが鳴り終わるのと同時に舞園絵砂と薔薇束読音が教室に戻ってきた。それから少ししてからオリヴィア先生が教室に入ってきて授業が始まった。異能を持つということ以外、普通に始まったこの学園での生活に俺は色々と不安な気持ちを抱えながら始まった。