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瞼に光を感じて目を開けると、整った顔立ちの男性の顔が目に入ってきた。彼も目を開けていて、しばらくじっと見つめ合ってしまった。
・・・と、こんなことをしている場合ではないと思い出した。まずは布団から出ないと。
「あの・・・」
「はい」
彼は私を見つめたまま返事をした。
「放してくれませんか」
「えっ?・・・」
一瞬何を言われたのかの分からないという表情をされた。それから、手を動かして・・・って、何故ニギニギする。わき腹がくすぐったいじゃないか。
慌てたように私の身体から手を離したけど、そのまま、まだベッドに横になったままでした。
というか、なんでこんなに顔を見られているんだろう?
というより状況を確認しようか。
今いるのはベッドの中。眠った時には掛け布団をかけていなかったけど、今はしっかり肩までかかっている。それから、後ろからガッチリ捕まっていたのが、向き合う形になっているのよね。
あと、服は・・・そのままのようだ。スーツの上着も脱いでいない。きっとめちゃくちゃしわになっていることだろう。と、いうか、タイトスカートが太もものかなり上まで捲くれ上がっている。直したいけど・・・このまま、ベッドを出る勇気はない。
いつまでもこうしているわけにはいかないから、彼に先に動いてもらいますか。
「それから、先にベッドから出てくれませんか」
私に言われて彼はハッとした顔をした。そして体を起こした。
・・・うん。彼も背広をそのまま着ているわね。
「その、君は・・・」
と言いかけた彼に私は言った。
「とりあえず話は後にして頂けませんか。私も起きたいんで、部屋から出て行ってくれませんか」
「なんでだ?起きればいいだろう」
不思議そうにそう言って掛け布団を退かそうとしたから、慌てて手で押さえた。
「とにかく部屋から出て行ってください」
「一応ここは俺の部屋なんだけど」
ボソッとつぶやかれた言葉に、私も体を起こして(よかった、上は変になっていない)彼を睨みつけた。
「誰のせいでこうなったと思っているんですか~!」
私の言葉に目を見開いて、それから思い出すように眉根を寄せて・・・。昨夜のことを思い出したのか、私から視線を逸らしながら頬を微かに赤くした。・・・って、なんかカワイイぞ。その顔!
「その、昨夜は・・・」
「思い出したのなら部屋を出てください」
「いや、でも・・・」
「だから、あなたにいられると私はベッドから出られないんです!」
顔を赤くして叫んだら、彼の動きが挙動不審になった。
「えーと、もしかして・・・」
「違います。何もなかったです。タイトスカートが捲くれ上がって、ベッドから出たらあられもない恰好になるんです」
ついつい言わないつもりのことを叫んでしまったら、彼は意味を理解したのかボンと音がしそうなほどの勢いで顔を真っ赤に染めた。それからベッドを出て、部屋を出て行った。扉を閉める時に「すみませんでした」とボソッと呟いていた。
私はその彼の様子を呆けたように見ていた。なんか初心い反応に目をぱちくりと瞬いた。
ドアが閉まってから私はハッとして、掛け布団をどかしベッドから降りた。そしてスカートを直し上着も一度脱いで、シャツを直してからもう一度上着を着た。
それから目に入った物を見て軽く首を傾げた。ダンボール箱がいくつか散乱している。
私はここに住んでかれこれ10年になるけど、今まで彼の姿を見たことはなかった。だから彼はこれから引っ越していくのではなく、引っ越してきたのだろう。
暗闇の中を歩いたから、たぶんこのダンボールに足を引っかけて転んだのね。
そのダンボールのそばに私のバックが落ちていた。転んだ時に落としたのだろう。
私はそれを拾うと、この部屋のドアへと向かったのだった。