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コーヒーを飲んで落ち着いたところで、どうしようかなと思った。
彼のそばに行って座りこんで、彼の顔を覗き込んだ。
整った顔をしているのよね。男の人って顔立ちだけど、甘さがあるというか、優しい顔立ちというか・・・。まつ毛は長いし、切れ長の目は二重だし。少し薄めの唇に鼻筋も通っていて・・・。
ん?目の下に隈?うっすらとだけど・・・。
長めの前髪を撫でつけるように触ったら、ふわふわの柔らかい髪をしていた。髪の色が少し茶色がかっている気がする。私は真っ黒の直毛だから少しうらやましい。
しばらく触っていたけど、眠る前の彼の言葉を思い出した。
『あなたの香りで・・・眠気が誘発されます』
あの言葉が確かなら、彼は私の匂いで眠ったことになるのよね。
私は立ち上がると彼から離れて、ローテーブルの方に行って座ったのだった。
彼が目を覚ましたのはそれから1時間後だった。身体を起こしてキョロキョロしている様子が何かカワイイなと見ていた。ローテーブルに肘をついて手に顎を乗せて見ている私に気がついた彼は、動くのを止めた。
私の顔を見つめた後視線を逸らしたけど、また見て逸らすを、この後何回か繰り返していた。
私は立ち上がってそばに行き、彼のそばにしゃがみこんだ。
「体痛くない?」
「あっ、大丈夫・・・です」
バツが悪そうな顔をしているけど、その表情もかわいく見える。毛布を握りしめている彼に私は言った。
「コーヒーを入れたら飲みます?」
「えーと・・・はい」
私は立ち上がりキッチンに行った。さっきポットにお湯を沸かして置いて良かったと思う。コーヒーを淹れてカウンター越しに彼を見たら、彼は毛布を畳んで手に持っていた。
私はカップをカウンターに置いて彼のそばに行って毛布を受け取った。毛布はローテーブルのそばに置いた。
テーブルに戻ると彼はカップを移動させてくれていた。私が座ったのを見て「いただきます」と小さな声で言って、彼はコーヒーを一口飲んだ。
「それで、どういうことなの?」
彼はカップを置くとため息を吐いた。
「えーと、その・・・」
この後に及んでも言い淀む彼にいい加減付き合うのも嫌になってきたから、私はきっぱりといった。
「ちゃんと説明してください。言い淀む姿も可愛いけど、いい加減にしないと襲いますよ」
「はい。勿論です!・・・えっ?襲う?」
背筋を伸ばして返事をした彼は、私の最後の言葉に目を瞬かせた。
「えーと・・・それは・・・立場が逆というか・・・」
何を想像しているのよ。少し嬉しそうなのが解せないんだけど。
「淳一さん」
なので、少し厳しめの声で名前を呼んだ。
「はい!」
彼がまた、背筋を伸ばした。
「付き合うのを止めてもいいですか」
「嫌です!」
即答してくれた。嬉しい・・・じゃなくて。
「でしたら、話してください」
「・・・怒りません?」
「内容次第です」
私の言葉に項垂れる彼。
その後、ポツリポツリと話したのは、彼はここのところ不眠症に悩まされていたということだった。
彼の話ではどれだけ疲れていても、眠りについて1時間ぐらいで目が覚めてしまうそうだ。一晩で4~5回目が覚めるらしい。医者にもかかったそうだけど原因不明で、睡眠薬を飲んだ時だけ起きることが無く、まとまった睡眠がとれていたとか。でも、薬が効きすぎるのか、一度寝ると10時間は目が覚めないらしい。仕事に差し支えると困るので、週末しか薬は飲まないようにしていた・・・。
それで昨夜、私を捕まえて眠っていたけど、背中が寒くて目が覚めて布団を掛けたとか。寝惚けながらも、私がいることにやばいと思ったらしいけど、私から漂う香りに眠りにまた誘われて眠ってしまったとか。
朝目が覚めて、夜中に起きることが無く眠っていたことに驚いて、考えていたら私が目を覚まして・・・。
ということらしい。・・・そうか。私は抱き枕なわけね。もしくは睡眠導入のためのアロマ。一目惚れだなんてあるわけないと思っていたのよ。
なんかやさぐれた気分で私は彼から視線を外してそっぽを向いた。




