12
お互いの家族のことも話をした。彼は上に兄と姉、下に妹がいるそうだ。彼以外はもうみんな結婚しているとか。私は年の離れた兄が一人いることを話したのだった。
残った料理はラップをして冷蔵庫にしまった。洗い物は彼も手伝ってくれた。彼が洗って泡を流した食器を私が拭いて食器棚にしまっていく。
片付けが終わるとお茶を入れた。湯呑をもってテーブルで向かい合う。それともお酒の方がよかったのかしら。
落ち着かなくて湯呑ばかり見てしまう。
「あの、間宮さん。まだ知りあったばかりでこんなことを頼むのは何なのですが・・・」
そこまで言って、彼は黙ってしまった。そこで言葉を止められると気になって仕方がないのだけど。
「私に出来ることなら手伝ってもいいけど?」
それでも躊躇している彼をじっと見つめた。私に見られて居心地が悪くなったのか、彼は席を立った。
「あの、やはりいいです」
その言い方が何か引っ掛かる。部屋に戻ろうとしているのかテーブルから一歩離れた。その彼に私は言った。
「そんなに大変な事なの?お願いって」
「い、いえ、そんなことはないのですが・・・」
何故か頬を赤らめて目線を合わさないように逸らしている。私も席を立ち彼のそばに行った。
「ねえ、言ってくれないかしら」
そっと彼の左腕を掴んで見上げるように見つめた。彼も私のことを見つめてきた。
「あの、無理強いをするつもりはありません」
「うん」
「駄目だと思ったら断ってください」
「ええ」
何をそんなに念押しするのかな?
「それで・・・」
「それで?」
「私と・・・」
「あなたと?」
「一緒に・・・」
「一緒に?」
・・・なんでまた顔を赤くしているの?
そんなに言いにくいお願いってなんなのかしら?
「寝てください!」
「寝て・・・えっ?」
寝るって・・・その、一緒の布団で寝るということよね。・・・ということはあの行為をすると言うことで・・・。
「寝る、ということは、致すのね」
小声でボソッと言ったら、彼が慌てたように言った。
「ああ、違います。言い間違いました。一緒に眠って欲しいんです」
はあ~?眠る?寝るのではなくて?
・・・意味がわからない。
「ねえ、寝るのと眠るの違いって何?」
彼は私と視線を合わさないように上を向いている。相変わらず顔は真っ赤だ。その彼の頬を両手で挟んで私の方に向けた。
「一緒に眠ると言い直したのは、あの行為をするつもりはないって事よね。ということは私に抱き枕になれということ?」
目を合わさないようにあっちこっちにいっていた視線が、観念したように合った。
「はい・・・そうです」
恥ずかしそうに伏し目がちにしながらいうけど・・・こんな時なのに・・・チクショウ―、かわいいじゃないか。どうしてくれるのよ、私の方が襲いたくなったら。
「あ、あの・・・手・・・」
ん?手?
「手を放してくれませんか。あなたの香りで・・・」
トロンとした目を私に向けているけど・・・なんだろう。情欲というものは感じないんだけど?それに香り?昨日も匂いのことを言っていたよね。
意味がわからなくて首を傾げたら、彼が私に抱きついてきた。
「眠気が誘発されます・・・」
そう、耳元に囁くように言ってそのまま、体重を私に預けてきたのだった。
突然のことに支え切れずに、私も座り込んでしまった。
彼の様子を伺ったら寝息が聞こえてきた。
「嘘っ。なんで寝ているの?」
しばらく彼の身体を抱きしめるようにしていたけど、この体勢でずっといるのはつらい。それに、何か体に掛けた方がいいだろう。さすがに成人男子をベッドに運ぶ力は私にはないし。
なので、そっと彼を横たえると彼から離れて、まずはクッションを持ってきて頭の下に置いた。それから部屋に行って予備の毛布を持ってきて彼の身体に掛けた。
それから、キッチンに行ってコーヒーを淹れた。といってもコーヒーメーカーなんてないから、カップに装着するタイプのドリップコーヒーなのだけどね。




