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彼はしばらく私を抱きしめた後、ゆっくりと手を放した。その様子に私も俯いていた顔を上げた。目が合ったら、彼がまた赤い顔をして私から離れて立ち上がり、マグカップを持ってキッチンに行ってしまった。


どうしよう。なんか恥ずかしくて顔が見られないというか・・・。もう、部屋に戻った方がいいかしら。でも、手伝いを・・・部屋?・・・部屋!


「あっ」


小さく声をあげたら、彼が声を掛けてきた。


「どうかしたの、間宮さん」

「洗濯物をそろそろ取り込む時間だと思い出して」

「じゃあ、部屋に戻ってください。手伝ってくれてありがとう」


私が立ち上がったら彼がそう言った。部屋に戻ろうと歩き出しかけて、買い物の時に気になったことを聞いてみた。


「上野さんは夕食はどうするのですか?」


私の言葉に暫し無言の彼。そしてハッとしたように私の方を見ていった。


「忘れてました。忙しい時用の保存できるもののことしか考えてなかったです」


だからああいう買い物になったのね。


「あとでもう一度買い物に行ってきます」


そう言った彼に私は微笑んで言った。


「それなら夕ご飯もうちでいかがですか」

「いいのですか?」

「はい。朝も言いましたけど、1人じゃない食事は嬉しいです」


その言葉に彼は頷いた。


「では何時ぐらいに行けばいいですか」

「そうですね、6時だと早いですか?」

「間宮さんに合わせます」

「では6時で。ちなみに食べられないものってあったりします?」

「好き嫌いはあまりないです。あっても普段の食事には出て来ないものばかりです」

「それはなんですか」

「・・・ピータンとか、蜂の子とか・・・」


まあ、確かにそうよね。


私は彼の部屋を辞して自分の部屋に戻った。洗濯ものを取り込みたたんで仕舞っていく。


それから、食材とにらめっこ。朝は和食だった。昼は揚げ物。じゃあ、夜は?

しばらく考えても浮かばないから、逆に消去法で考えることにした。

早く使ってしまいたい食材は・・・先週買った椎茸。色が変わったら食味も味も悪くなる。他に、二個残っていたピーマン。じゃあ、これに筍と人参を足して。あと鳥肉でいいかな。


あっ、そうだ。きゅうりを糠床に入れておかないと。白菜も八分の一なら入るかな?


それから卵スープと、炒飯は作り過ぎよね。出来れば白いご飯が食べたいし。

そういえばもらい物の搾菜があったわね。それも切っておいて。


そうね、白菜をざく切りにして人参の千切りとキュウリの小口切りと共に袋に入れて。あっと、しょうがの千切りを入れないと。これに塩とうま味調味料を少々振りかけて口を絞めてよーく揉んでおく。30分もすれば浅漬けの完成だわ。


私の口許に笑みが浮かんでいるのが分かる。誰かに食べてもらえるのがうれしい。意図せずに中華な献立になったけどいいかな?


彼は6時きっかりにうちにきた。インターホンで入ってきてと告げた。彼がリビングに姿を見せた時、私は仕上げの真っ最中。作っておいた調味液を絡ませれば出来上がり。


彼は「うわぁ~」と驚きの声をあげていた。うん。我ながら並べ過ぎだと思うもの。テーブルの上には小鉢に入った搾菜と、白菜の浅漬け、卵スープ。それから、シュウマイが何種類か。

私は出来上がった酢鶏をテーブルにおいた。そしてご飯をよそい席に着く。


「えーと、これを全部?」

「まさか、違うわよ。シュウマイは前にお土産にもらっていて、冷凍室に入れてあったものなの。確かエビと錦糸卵とほうれん草とイカじゃなかったかしら」


そう言ったら、彼は頷いた。


「食べきれるかな」

「無理して全部食べなくていいわよ。明日も休みだし、残ったらお昼にでも食べればいいしね」


彼と顔を見合わせて「「いただきます」」と言った。


朝と違って会話をしながらの食事は楽しかった。彼は11月12日生まれの29歳。私より一つ上だ。私は12月11日だと言ったら、似たような数字だねって彼は笑った。



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