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13 犯人さがし

 セキュリティガードからの連絡は、仁史にとって悪魔の宣告だった。菜苗はアパートにいない。アパートの周囲を捜索すると、菜苗のものと思わしきハンドバッグが、路上に落ちていた。バッグの中には、タブレットコンピュータやアパートのかぎなどが入っていた。

 仁史はガルシアミュージックスクールに連絡した。が、菜苗はいなかった。次に、まだ社内で捜査している警察官たちに、事情を説明する。タイミングから考えて、菜苗は爆発犯と同一人物、もしくは同一グループの人間にさらわれたのだろう。

(僕はもっと早くに、菜苗に連絡すべきだった。もっと早くに、彼女にガードをつけるべきだった)

 食堂で、仁史は頭を抱えて思い悩む。仁史が電話してから、ガードが到着するまでのたった三十分の間に、菜苗は消えた。

 同じテーブルに座っている義則、トニオ、アンジー、ヨンハは心配そうに、仁史を見ている。仁史たちは小会議室にいたが、気分転換と昼食のため食堂に来ていた。そして、菜苗の失踪を知ったのだ。

 仁史の背後には、がたいのいいプロのボディガードが立っている。背広を着た、二十代の男性だ。普段はにぎわっている食堂だが、爆発騒ぎのあった今日は人が少ない。食事を取っている人たちも、仁史たちを遠巻きにしていた。

「俺たちも犯人をさがそう!」

 仁史の向かいにいるトニオが、真剣な顔で言った。もはや昼食どころではない。

「警察が捜査中なのよ?」

 トニオの隣に座るアンジーが、まゆをひそめる。

「警察の邪魔はしない。ただ警察に加えて、俺たちも動くだけだ。それに社内のことなら、俺たちの方がくわしい」

 トニオは主張した。アンジーは視線をそらして、自分のスマートフォンをいじりだした。

「犯人は社内の人間かもしれない。アイドルだった菜苗さんのファン」

 仁史の隣で、ヨンハが低い声でつぶやく。仁史は、自分の体温が下がるのを自覚した。今ごろ菜苗は、どんな目にあっているのか。犯人の目的は菜苗だから、殺されはしないだろう。けれど殺されるよりも、屈辱的な目にあっている可能性が高い。

「あの爆発物が入っていた菜苗さんの紙バッグは、簡単に手に入るものですか?」

 ヨンハは仁史にたずねる。仁史は、はっとして悪い夢から覚めた。

「僕が子どものころは、たやすく買えるものだった。僕の家にも、似たようなものはいくつか残っている」

 なんとか平常心を取り戻して答える。

「私は当時、すでに月に、――第一月面都市にいましたが、月でも購入できたと思います。友人が菜苗さんのファンでした」

 義則が言う。彼も仁史の隣に座っていた。義則とヨンハで、仁史をはさんでいる。義則はアンジーと同じく、スマートフォンを操作し始めた。画面を見ながら、

「今でも、ネットで中古品が売っています。値段は安いです。ただ、菜苗さんの失踪がニュースになれば、値上がりするかもしれません」

 彼はつらそうに表情をゆがめる。今のところ菜苗の失踪を知っているのは、警察と仁史たちサポート課と、ガルシアミュージックスクールの菜苗の同僚たちと、菜苗のアパートの大家だけだ。そのうちニュースやうわさで、多くの人々が知るだろう。

 仁史は再び頭を抱えた。平静ではいられない。

「ネット上の脅迫文を調べたわ。簡単に調べただけだけど」

 アンジーがスマートフォンの画面を見つめながら、しゃべる。

「三人とも地球から書きこんでいるみたい。二人は日本、一人は中国」

「地球と月は遠い。脅迫文はただの悪ふざけで、爆発騒ぎと無関係なのか?」

 義則が問いかける。

「分からない。ネット犯罪者ならば、地球から書きこんだようにみせることもできる。警察の方が、もっとくわしく調べられるわ。もしくは脅迫文を見た第三者が、犯罪を決行したのかもしれない」

 アンジーは困って答える。

「サポート課の前の廊下には、防犯カメラは設置されていなかった。そして紙バッグを目撃した人物もいない。最初に発見したのが俺で、すぐに爆発した」

 トニオはつぶやく。彼はつぶやき声も大きい。

「社長がサポート課に来て帰った後に、爆発した。社長が紙バッグを置いて、帰ったんじゃないだろうな」

 パンパンと手をたたく音が響いた。仁史たちは驚いて、音のした方を見る。社長の息子である正人が、不機嫌な顔をして立っていた。

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