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サマーコンプレックス  作者: 南 春輝
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夕焼け小焼けで、また明日

二話目だって、珍しく続き物になってるよ

家に帰った俺は自室にこもり、制服も脱がないままベッドに倒れこんだ。クーラーをつけ、目を閉じる。だんだんとクーラーの効いてきた部屋でしばらくそうしているうちに汗は引いていった。引いていく汗とともに意識もだんだん刈り取られていく。

このままでは風邪を引いてしまわないかという一抹の不安が頭をよぎったが、意思に反して体は動かなくなっていく。



どれくらいたったのだろうか、もう窓から見える空は暗くなりつつあった。窓からのぞく夕日は真っ赤に燃えて、海に沈んでいく最中だ。時計を見るともう6時を回っており、日が長くなったのを実感する。

その様子があまりにもきれいだったのでしばらく見つめていた。夕飯が始まるまでの一時間余りの間、海沿いを散歩しようか。ふと思い立った考えに俺は頬を緩ませ、赤く緋色に染まる街の中にでていく。



海岸に出て沈む夕日を眺める。まるで世界が終わりを告げるのではないかというくらいに真っ赤で大きい太陽は海岸に出てからほんの10分ほどで沈み切ってしまった。このまま帰るのも惜しかったので俺は立ち上がって砂を払うと、少し遠回りになる路地を歩きだす。小学生のころは毎日夕日が沈みきるまで遊んでよく怒られたっけ、などと考えてるうちに辺りはどんどん暗くなっていく。



小学生の頃によく通った駄菓子屋の前を通り過ぎたところで俺はまたあの少女に出会った。真っ白の、闇の中で異様な存在感を放つどこか人外めいた不思議な雰囲気の少女だ。しかし、少女はいつからそこにいたのかわからないくらいには気配がなかった。

少女は口元に微笑みを浮かびながらこちらに歩み寄ってきたが、俺には不気味な笑みを浮かべた魔物に襲われているようにしか思えなかった。そして彼女は歌でも歌うかのように軽やかに言った。

「こんばんは、また会いましたね」

「会いに来た、の間違いだろう」

俺は身構え正中線を守る体制になる。武術を習っていたわけではないが、いつでも逃げられるように用意するのは一番重要なことだ。

そして彼女は少し間を置いた後ふと真顔になった。

「それもそうですね」

もしかして、あまり頭の出来がよろしくないのだろうか。いや、考えを読めるということは逆に心理術の心得があるのかもしれない。もしくは彼女が本当に人外なのかだ。いずれにせよ、知ったことではない。

その思考を読み取ったのか彼女は頬を膨らませ反抗する。

「馬鹿ではないです。少なくとも、あなたよりは世界のこともあなたのことも知っているのですから」

「・・・」

やはり考えが読めているようだ。下手なことはできない。彼女はぷはっと口から空気を吐き出すと咳払いをして仕切り直すように言った。

「あなたに会いに来たのはさっきの返事を聞くためです。私はあなたに完璧な夏を提供します。ですから、私の忘れ物を探してほしいのです」

「完璧な夏といっても現実にするには金と時間がかかるじゃないか、普通に考えて無理だろ」

そう、夏を過ごすのには金がかかる。旅行に行くにしても高校生の小遣いなんてたかが知れているし、友達と買い物に行ったりするなら電車に乗って都市部へ行く必要があるのだ。交通費もそれなりにかかる。

「いいえ、実現できます」

少女はそう言うと、俺に一冊の本を渡してきた。真っ白なハードカバーの表紙で中には文字どころか罫線の一つすらもなかった。

「この本に日付とその日の予定を書けば、現実的な範囲でそれが実行されます。例えば急に魔法が使えるようになるとか、そういうのは無理ですけど。信じてもらえそうにないので私があなたの明日の予定を立てましょう」

少女は俺の手から本を取り、いつから持っていたのか高価そうな万年筆を使って優美な文字で予定が書かれていった。少女が書いているところをのぞき込んでみると、物事の詳細や物事の時間まで細かく書かれていた。

「ふう、本来ここまで詳しく書く必要性はないのですけど、時間と詳細を書いていたほうがあなたは信じますからね。一応、保険の意味もあります」

彼女はそういうと今度こそ俺に本を渡した。そして万年筆をその辺に放ると万年筆は宙に溶け込むように消えてしまった。俺がそれに驚いている中、少女は何でもないように何歩か歩き「また会いましょうね」といって闇に溶け込んでいくのだった。

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