それはまるで、突然のスコールのような。
初めて文章を書いてみた手前、お見苦しい部分が多々あると思われます。是非、色々な意味で心の準備を。
──好きな人。
両親、兄弟、祖父母。クラスの友達。それから、幼馴染みの寧々。
好きな人。恋愛対象として好きな異性?
誠に遺憾ながら、私にはいない。今のところそんな未来を想像することすら出来なかった。
〇 〇 〇
高校生活2度目の春を迎えて、5月。
慌ただしく過ぎたクラス替えを終えて、各々がやっと居場所を固定し始めていた。私も人畜無害を決め込んで、いい具合に教室内の風景と化していた。……あるいは備品かな。
そんな麗らかなある日の昼休みのこと。いつも通りに寧々と机を並べてお弁当を広げていた。
「今日も美味しいね、水野家の卵焼きは」
「何言ってるの、もう。寧々のポテトサラダだって絶品だよ?」
他愛ない会話。この時間が好きだ。
お互い思い思いに互いのお弁当箱をつつきながら、少しの沈黙が流れる。ほんの、一呼吸分。
教室内のざわめきがまるでかき消されたように感じたのは、彼女が切り出した一言のせいだ。
「ねえ」
顔を上げた寧々は突然、──心做しかいつもより神妙な顔をして──少し話が変わるんだけど、と切り出した。
「あのね、花ちゃん。彼氏ができたの」
──は?今の、聞いた?
頭の中はぴたりと思考停止。
意味がわからない。というより、分かりたくない。理解してなるものかと、ついに脳は働かなくなってしまったようだ。
「……ご、ごめん。なあに?」
聞こえなかった振りをしてもう一度。
親愛なる幼馴染みはにぃっと笑って、思い切り区切りを付けて再度繰り返して見せた。
「か、れ、し、が、で、き、た」
カレシガデキタ。
うーん……、分からない。何語だろう。辞書が手元にあれば良かった。
呑気に惚けている私の肩に手が伸びて、乱暴に揺すりをかけられる。ああ、うう、ゆれるう。
「ちょっと!おーい、生きてるーー?」
「…………死んでる」
だめだこりゃ、と肩を竦めた寧々の姿がどうにも可笑しくて、それでも頭の中のパニックは鎮まることを知らない。本当は喜ぶべきなのに、私の中の何処か重要な部分が麻痺しているようだ。
「彼氏って、あの、……寧々に男がいるってこと、だよね」
分かりきったことを思わず聞き返す。分かっている、理解しているんだ、そんなことは。
「うん、そうだよ。隣のC組の東山くん」
発された言葉をのろのろと理解しながら、何処か客観的に事態を見ていたもうひとりの私が頭の中で整理し始める。
東山。C組だとしたら、該当する苗字の男子はひとりしかいない。
「──東山、秀也」
頭だけは良さそうな男だ。頭だけは。全国模試でもトップクラスの成績を誇っていると噂されているし、貼り出される定期考査の結果でもいつも上位に並んでいた。部活は寧々と同じ吹奏楽だったはず。……繋がりはそこからか。
ぶんぶんと頭を振り、 再びアスパラガスとベーコンの炒め物を口に運ぶ。そんな私を見て、寧々は穏やかに目を細めた。分かってくれて良かった、という顔。
「ちゃんと伝えておかなくちゃ、って……思ったから。花ちゃんにはさ」
嬉しいんだよ、その気持ち。
私が寧々の一番の親友だってことは、これまでもこれからも揺らがないんだから。絶対に。
そう考える反対側、対角線上にはもうひとりの私が不安そうにこう言う。「今まで通りがいつまでも続く訳じゃない」と。
さて、私が次に発すべき言葉は──
読んでいただきありがとうございました!
この先どうなることやら。なるだけきっちり考えてから、次のお話に進むつもりです。
それでは。