第17話命を代償に
外はすっかり夜になっていた、
今の今まで何があったか覚えていない。いや正確には思い出したくないに近い。
(最悪な気分だ……)
未だに縛り付けられている身体を見ながら、俺はそう思う。縛られていない部分の身体は、痛みを感じられないほど沢山の傷が付いている。
(まさに言葉の通り、だな)
新たな森の姫巫女、アラウ。
彼女、いや彼女達新たな姫巫女達は革命を起こすと言っていた。それが具体的にどのような物なのかは俺には分からない。
その第一歩として俺と向日葵を盾に、セリーナ達を脅すらしい。何とも下衆なやり方だが、今何も抵抗をする事ができない俺は、大人しくしている以外に方法はない。
(何でこんな事に……)
最初に皆で世界を救った時は、この世界はずっと平和であり続けると思っていたし、それを願っていた。だけどいつからかその歯車は狂い出していた。
この世界に同じ二人目の巫女が存在し始めたその時から。
「いいざまね」
「っ!」
アラウが部屋に入ってきて俺を見るなりそう言う。
「誰のせいだと、思っているんだ」
「さっきも言ったでしょ? これも全て私達の革命のためなの。だから仮に貴方が命を落とそうが、私達は何も思わないし感じない」
「向日葵にもしもの事があったら、絶対に許さないからな」
「今は、何もしてないわよ。仮にしていたとしても何もできないでしょ?」
「くそっ」
言葉でしか反論ができずアラウを睨むことしかできない。今は、と言っている以上この先必ず何かが起きる。もしそうなってしまえば、俺はどんな顔して向日葵に……雄一に顔を合わせればいいのか。
「どうしてお前達はそこまでして、この世界に革命を起こしたいんだ」
「世界の崩壊を防ぐため、と言ったら納得してくれるかしら」
「世界の崩壊? それはこの世界に姫巫女が二人存在しているから起きかけている事だろ?」
「何も知らないのね。今この世界に起きている本当の原因、それは貴方達旧姫巫女なのよ」
「俺達、が?」
そんなわけがない。俺はともかくとして、グリアラやシャイニー達はこの六年間世界を守り続けてきた。それを俺はよく知っている。
その彼女達が世界を崩壊させる真の原因になるだなんて、そんな話を簡単に信じられるわけがない。
いや、信じるとか以前にありえない話だ。
「そんな嘘に騙されると思うか?」
「嘘だと思うならそれで構わないけど、もう始まっているのよ。その証拠、貴方も体験しているんじゃないの?」
「それは……けど、それとシャイニー達に関係はない!」
「関係ないのなら、どうして森の姫巫女はいきなり姿を消したのかしら。何か心当たりがあるからいなくなったんじゃないのかしら」
「っ、知っていたのか」
グリアラのことに関しては、俺も疑問に思う事が多いのは事実だった。自らグリーンウッドに向かうと言ったのに、どうして彼女は突然姿を消したのか。
「グリアラのことに関しては、なんかの事情があったって考えてる」
「事情、ねえ。じゃあ本人に聞いてみたら?」
「え?」
アラウが指を鳴らす。すると俺と同じように蔦に捕らえられているグリアラが姿を現した。
「グリアラ!」
「咲田……」
「どういう事だよアラウ。どうしてここにグリアラがいるんだよ」
「貴方達二人を捕まえてすぐに一人でここにやって来たのよ。私の願いを叶えてほしいって」
「願い?」
「本当はこっちから捕まえようと思っていたんだけど、その願いは私達にとっても好都合だし叶えてあげることにしたの」
どこから取り出したのか、火を見せつけながらアラウは言う。
「ごめんね咲田。私やっぱり咲田やシャイニーがいなくなるの嫌なんだ」
それに対して抵抗を見せないグリアラ。嫌な予感がする。
「一人で死ぬより仲間に看取ってもらった方が面白いでしょ。だからあえて今まで黙っていてあげたの。どう? 驚いた?」
「ふざけるな!そんな事をしてまで、何になる?! これで世界の崩壊を止められると思っているのか」
「思っていないわよ。だからこれも私達の革命の一環。旧森の姫巫女はその礎となるの」
「そんな事させるわけ!」
俺は力ずくで蔦を引きちぎろうとする。しかし拷問を受けた身体に、ろくな力が入るわけもなく。
「咲田、私はこんなことになっちゃうけど、シャイニーや皆はちゃんと守ってね。そしてこの世界を……私達の世界を」
グリアラに絡まっている蔦に、運命の炎が落とされる。
「守って」
そして炎はあっという間に蔦を伝って燃え広がり、目の前のグリアラへと広がっていく。
(駄目だ、こんなこと……こんな事絶対に)
「させるかぁ!」
腐っても俺は元水の姫巫女。
「水よ、炎を消し去れぇ!」
目の前にある炎くらい消して、
「なっ。これはまさか雨? どうして室内に」
「咲田?」
目の前の命を救ってみせる!
「と、止めなさい! 水の姫巫女! 貴方の仲間の願いをどうして叶えないの?!」
「叶えられるわけないだろ!グリアラは……俺、いや、俺達にとって大事な仲間なんだ! その仲間を目の前で死なせるわけいかないだろ!」
「咲田……」




