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第15話守護と破壊

「おーい、グリアラ! どこへ行ったんだよ」


「グリちゃーん」


「待った向日葵、何だその呼び方」


「あだ名だよ?」


「いや、いくなあだ名でもそれはない」


 翌朝、グリアラの姿がないことに気が付いた俺と向日葵は、必死に彼女を探したがその姿は見当たらなかった。


(最後まで起きてたのあいつだけど、もしかして何かあったのか?)


 今この世界が不安定な分、何が起きてもおかしくはない。でもグリアラは簡単に何かに巻き込まれそうな人間ではないし、もしかして彼女の意思でいなくなったのだろうか。


「しかしこれだと困ったな。グリアラを探す以前に、俺たちがいるこの場所も分からん」


「え? 咲ちゃんこの世界には詳しいんでしょ?」


「多少地理には詳しいけど、この六年で色々変わっている。何より六年前の移動手段が飛行船だったから、この辺を歩く事もなかったんだ」


「それじゃあもしかして私達……」


「ああ、完全に迷子だ」


 そもそもグリアラの案内でグリーンウッドに向かう予定だったし、地図関連は彼女が持っていた。近くに村でもあれば、そこでしばらく休ませてもらえばいいけど、今俺達が歩いている道は一面草原。グリアラ曰く三分の一も歩いていないわけだし、このままグリーンウッドにも向かえない。


「仕方ない、グリーンウッドに行くのは諦めて戻るか」


「えー、ここまで来て?」


「それ以外ないだろ。と言っても戻れる保証は何処にもないけど」


「不安になるようなこと言わないでよ」


 でもそれは事実だった。グリアラとはぐれてしまった以上、ウォルティアへここから戻れる手立てがない。


「食料はまだ残っているし、最悪持久戦になってもいい。今は帰ることを優先しよう」


「咲ちゃんがそこまで言うなら、私は賛成するしかないけど、本当に大丈夫?」


「大丈夫だ、何かあったら俺がいる」


「ううん、そうじゃなくて」


「グリアラの事か」


 彼女に一体何があったのかは分からない。かと言って彼女を責めるつもりもない。心配はするが、このまま動かずに待ち続けても埒があかない。


「グリアラの事は確かに心配だけど、多分あいつは大丈夫だと思う」


「どうして分かるの?」


「長くはないけど、同じ時間を一緒に過ごしたから、かな」


 彼女は巫女達の中でも強い人間だ。だからもしもの事があったとしても、彼女ならきっと大丈夫だと思う。それでももし何かがあった時は、俺が……。


「とにかく今はウォルティアに戻ろう。そこから一度立て直してグリアラも探そう」


「うん、分かった」


 それからどれくらい歩いたのか分からない。元々この世界の地理にはそこまで詳しくなかった俺は、グリーンウッドへ向かっていた日数以上の時間をあれから過ごしたが、一向にウォルティアの影も見えない。


「咲ちゃん、私もう駄目かも」


「頑張れ向日葵、もう少しだと思うから」


「もう少しってどの位?」


「それは……」


 明確な答えを俺は出せない。もしかしたらこのままウォルティアに帰れないまま、俺も向日葵も……。


「アラウ様、こんな所に人間を見つけました」


 そんな事を考えていると、突然どこからか声がする。今歩いている場所は森の中だからなのか、その声の主の姿は見つけられない。


「最近門が開いたとは聞いていたし、そこからやってきた人じゃないかしら」


「誰だ、姿を現せ」


「え? 女なのに男の声がしましたよ」


「まさか彼女……いえ、彼は」


 俺を無視して声は会話を続ける。向日葵は怖くなったのか、俺にくっついて離れない。俺は彼女を庇いながら辺りを冷静に眺めるが、やはりその姿を捉える事はできない。


「よし決めた、ラシア、あれを」


「はい」


 その会話を聞いて何かが起きるかもしれないと更に警戒を強めるが何も起きない。その代わりに俺と向日葵を襲ったのは……。


「咲ちゃん、私眠い……」


「向日葵……あ……」


 抗う事のできない急激な眠気だった。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 咲田君達を見送った後、私はムウちゃんの看病をしながらフィオナ様と二人で話をしていた。


「どうして闇の姫巫女はこの世界に誕生したのでしょうか、フィオナ様」


「それは原始の姫巫女である私にも分かりません。でももしかしたらですが、いずれ起きてしまう事だったのかもしれません」


「それはどういう意味ですか?」


「光の姫巫女であるあなたの心には、闇が一切ないと言い切れますか?」


「それは……言い切れませんが」


 私がいくら光の姫巫女とはいえど、全てが光の存在であるわけではない。私は元をたどれば普通の人間だし、咲田君の事や世界の事で思う事は沢山ある。


 それが光ではない部分と言われれば、そうなるのかもしれない。


「人は誰だって闇を抱えている部分があります。それを力として生まれるものがいるなら、その誕生はある意味では必然的だった、と言ってもおかしくないでしょう」


「でも私達はその闇を一度払いました。それなのに」


「では今回の原因の根本は、もっと違うものだとしたらどうでしょうか」


「違うものですか?」


「たとえばこの世界そのものの闇、とか」


 世界そのものの闇


 それはここ数年で世界で起きている異変が一因なら、それを取り除くには……。


「私すごく嫌な事を聞いていいですか?」


「はい」


「もしかして私達姫巫女は、世界を守る存在から世界を壊す存在になっていたりするんですか?」


 壊す存在の私達姫巫女を消す以外の選択肢が見つからない。

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