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この夏俺は世界を守る巫女に生まれ変わりました  作者: りょう
真・第1章帰ってきた元姫巫女の夏休み
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第6話二つの世界の大切な親友達

 俺が強烈な頭痛と共に目を覚ました時には、すっかり外は暗くなっていた。


「咲ちゃん! よかった、目を覚ましてくれたんだね」


 目を覚ました俺を見るなり、向日葵が飛びついてくる。彼女にはかなり心配かけてしまったのだろう。俺は向日葵の体を受け止め、優しく頭を撫でてやった。


「ごめんな向日葵、心配させて」


「もう、皆咲ちゃんの事心配してたんだから! あんなに頭から血を流してた時には、私も流石に焦っちゃったよ」


 向日葵のの言葉で、俺の頭に包帯が巻かれている事に気がつく。まさかこの体で頭を殴られる日が来るなんて思ってもいなかったけど、俺もかなりの重症らしい。


「他の皆は?」


「その、セリちゃんの容態が悪くないから心配してそっちに行ってる」


 セリちゃんとは恐らくセリーナの事だろう。彼女はかなり酷い状態であの部屋に吊るされていたから、かなり危険な状態なのは考えなくても分かる。


(俺があの時、セリーナだけ先に部屋を出さなければ……)


 思い返すと原始の姫巫女の部屋でセリーナと別れていなければ、きっとこうはならなかったはずだ。それが俺にとってはとても悔しい事で、ずっと消えることのない後悔となった。


「なあ向日葵」


「ん?」


「先にお前だけに話しておきたい事がある」


「話したい事?」


 ■□■□■□

 セリーナが無事だという一報が俺に伝わったのは、目が覚めてから更に一時間後。丁度向日葵との話を終えた後だった。


「よかった、咲田も重傷だったから私達どうなるかと思ったわよ」


「心配させちまったな。でも記憶もあるし大丈夫だ」


「咲田君、ごめんなさい。私がもっと早くに呼んでいれば……」


「そう気に病むなよシャイニー。どちらしても結果は変わらなかったんだから」


 俺が眠っていた部屋には全員が集まり、それぞれが言葉をかけてくれる。これで体が女じゃなければ、この後もっといい展開になっただろうに、こういうのはどうも勿体無い。


「ところで咲田、一つ気になっているんだが」


「どうした雄一」


「どうしてお前の隣にいる向日葵が、さっきからずっと泣いているんだ?」


「それは……」


 どう答えればいいか分からなかった。でも雄一にも話しておかなければならないかもしれない。いずれにしても早いうちに話さなければならない事なのだから。


「悪いんだけどグリアラとシャイニー、ちょっと席を外してほいんだけど。俺達三人だけで話したい事があるんだ」


「じゃあ私達はセリーナの容態見てくる」


「ああ、頼む」


 グリアラとシャイニーが部屋を出て、俺と雄一と先程からずっと泣いている向日葵の三人が残される。


「て、三人だけになったんだが、どういう事か説明してくれるか?」


「ああ。向日葵に話した事をお前にもそのまま話すよ」


「何だよそれ」


 セリーナの想い、原始の姫巫女との対話、そして今回の事件。それら全てを通して、俺は先程ある決意が固まった。いや、本当はセリーナにもう一度話を聞かされた時から決まっていた事なのかもしれない。


「俺は明日元の世界には帰らない。いや、帰れない」


 ■□■□■□

「っ!? どういう事だよそれ、もしかして俺達も帰れなくなったのか?」


「いや、雄一達には選択肢がある。ただ俺は、その選択肢を決めただけだ」


「その選択肢がこの世界に残る事なのか? お前は今日大きな怪我をしたんだぞ? 分かっているのか」


「分かっているさ。でもだからこそ、俺はこの世界から離れるわけにはいかないんだ」


 それもう揺るぐ事のない俺の決心だった。この世界に残るという事は、いつもとの世界に戻れるかは分からないし、おまけに雄一達とは答えによってはまた別れる事になる。しかも今度は戻ってくる確証がない別れだ。


「雄ちゃん、お願いだから咲くちゃんを止めて……。私こんな危ない目にあっているのに、残ろうとする咲ちゃんの気持ちが分からないの」


「安心しろ向日葵、それは俺もだ。なあ咲田、お前は一度死んでしまった身とはいえ、俺達の元に戻ってきてくれた。二年前は不可抗力だったかもしれないけど、今回は何事もなく帰れるんだ。それなのに残ろうだなんて、おかしすぎるだろ」


「俺も変なのは分かっているさ。でも俺は、この世界でやるべき事が出来てしまったんだ」


「それは大怪我をしてでもやる事か?! 親友を捨ててまでもやる事なのか!」


 胸ぐらを雄一に掴まれ、殴りかかる素振りをする。こんなに本気で喧嘩したのっていつ以来だっけ。


「俺は別にお前達を捨ててなんていない。むしろ一緒にこの世界に残ってほしいって思っているくらいだよ」


「だったら……」


 だが寸前の所で雄一の手が止まる。


「だったらどうしてお前は……そんなに泣いているんだよ」


「それはお前……俺だってこんな選択する事になるなんて思っていなかったんだよ。でも、俺はもうこの世界が六年前からずっと好きだったんだ。だからこの世界が抱えている問題を姫巫女の皆の手を借りて救ってやりたいんだ。そうでなければ俺は……」


 いつの間にか溢れ出した涙が止まらない。向日葵にこの話をされた時、何度も泣きながら俺を止めようとしてくれた。


『私はずっと咲ちゃんの帰りを待っていたんだよ。それなのにどうして今度はこんな形で別れなきゃいけないの! もう咲ちゃんがいない生活なんて私、考えられないよ……』


 向日葵と雄一は、こんな姿に転生した俺でも受け入れてくれた。もう元の春風咲田ではないこんな俺でも、二人の日常の中に俺の居場所をくれた。それだけは感謝しきれないくらいだ。

 でも俺は、今日この世界に帰ってきて、自分の世界に戻りたくなくなるくらいの後悔をしてしまった。


「俺セリーナがあんな大怪我をした時凄く後悔したんだ。何でもう少しだけ彼女の近くにいてやれなかったんだろうって。あそこでセリーナと別れていなければ、彼女があんな目に合う必要はなかったんだ。だからその後悔を埋めるためにも、俺はこの世界に残りたいんだ」


 それはもう一度この世界の水の姫巫女になる、俺の一つの誓いの言葉だった。

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